第74話 王女ご乱心?

「私が第二夫人になれば問題ありません」



 俺に好きな人がいる事を知っても、王女がそう言ってくる。



「ならん!お前は王女なのだぞ!?」


「お父様!私はラソマさんが好きなんです!この想いを誰にも邪魔されたくありません!」


「クリス………分かった。お前を応援しよう」



 え?応援するの?第二夫人でも良いのか?いや、そもそも俺が身分を乗り越えてアミスと結婚できるかも決まってないけど。



「ラソマ伯爵、クリスを頼むぞ?」



 俺の気持ちは無視かな。まあ王女は性格も良いし、可愛いけど、本当に俺で良いのか?そして第二夫人でも良いのか?



「お父様、ラソマさんに無理を言わないでください」


「ん?お前はラソマ伯爵と結婚したいんだろう?」


「そうです。でもラソマさんの気持ちを無視して結婚したいわけではありません。いつか、ラソマさんが本心から私と結婚してくれる日を待ちます。勿論、その為に努力はしますけど」



 凄い覚悟だな。でも王族として無理強いをしてこないのは助かった。そんな事をされたら俺は色々と考えなければならない。



「それでは、この話はここで終わりにするか。犯人も無事に見つかったことだしな」


「…犯人は誰だったのですか?」



 王女に聞かれた国王は大臣の名前を口にする。



「そうですか…」


「理由もつまらないものだったな。忘れる方が良いだろう」


「はい」



 そう、忘れた方が良い。これから王女の人生は劇的に良い方に変わるんだから、いつまでも犯人の事を考えていても仕方がない。まあ、捕まえる事ができたからこそだけどな。これで他国に渡っていて、捕まえる事が困難だった場合、もやもやした気持ちが残ってしまう可能性がある。

 その後は少し談笑して俺は帰る事になった。



「それでは私は帰ります」


「うむ、今日は本当にありがとう。ラソマ伯爵のお陰でクリスの呪いも解く事ができたし、犯人も捕まえる事ができた。礼を言う」


「ラソマさん、またお茶会をするので来てくださいね?」


「勿論です。今度から自分を自制するのが大変そうですが」



 そう言って苦笑いする。



「どうしてですか?」


「今日までのクリス様は性格の面で魅力的でしたが、今日から外見的にも魅力的になりましたから」


「っ!?」


「ラソマ伯爵、本当はクリスを狙っているのではないのか?」


「いえ、狙っているだなんて、そのような事は」


「そうか…ふむ、本当のようだな」



 自分でもおかしいと思うけど、転生してから本当に歯の浮くようなセリフが言えるんだよな。転生する前なら言う事はなかった。



「それではお茶会を楽しみにしていますね」


「はい!ラソマさんが来る日を楽しみにしています」



 そうして俺は自分の屋敷に帰る事にした。本当は瞬間移動で帰ろうと思ったんだけど、来た時と同じで馬車で送ってくれる事になった。瞬間移動の方が早いんだけど、断ることもできないし。



「ただいま」


「お帰りなさいませ。御用は済んだのですか?」


「うん、無事に終わったよ」



 屋敷に帰ってきた俺にアミスが聞いてきたのでそう答える。



「それは良かったです。本日はこれからどうしますか?」


「うーん、冒険者ギルドに用事があるけど、明日にしようかな。今日はもう出かけないよ」


「分かりました」



 明日の予定は冒険者ギルドに行ってレイラを探す。そして殺気の使い方を教えてもらおう。今回は運良く大事に至らなかったけど、王女にも殺気の効果が及んでいたらと思うとゾッとする。

 翌朝。予定通り、俺は冒険者ギルドに来た。中に入って周りを見ると、運良くレイラがいた。



「レイラ、少し良いか?」


「なに?」


「殺気って知ってるか?」


「当然でしょ。それがどうしたの?」


「使い方を教えてほしい。この前、殺気を使うつもりもないのに発動してしまって少し大変な事になったんだ。その時に殺気の存在を知ったんだけど」


「そうなの!?」


「なんだと!?」


「おいおい!魔王を倒した奴の殺気なんて浴びたら気絶どころじゃ済まねえぞ!」


「英雄なのに、なんで使い方を知らねえんだよ!?」



 レイラも驚いているけど、周りにいる冒険者も驚き、文句を言ってくる。…知らなかったんだから仕方ないだろ。



「私、今日は依頼を受けに来たんだけど、ラソマが殺気を使えるようになる方が大事ね。分かったわ、殺気の使い方を教えてあげる」


「ありがとう。報酬は払うよ」


「え?良いの?」


「ああ。レイラの時間を取るわけだからな。そのぶんの報酬はきちんと払う」


「ありがとう。それなら、これはちゃんとした依頼になるわね。殺気を完璧に使えるように教えるから覚悟しておいてね?」


「分かった。よろしく頼む」



 その後、相談して場所は異空間で行う事にした。そこなら万が一、俺の殺気が暴発した場合でも被害が最小限で済むからだ。異空間に行く為に、まずは俺の屋敷に行く。そこなら俺達が異空間に行っても怪しむ人はいない。特にアミスは俺が異空間に行ける事を知ってるしな。



「ラソマ様、今日はレイラさんも一緒ですか?」


「うん。また異空間に行くために部屋に篭るけど、誰も部屋に入らないようにしてほしいんだ」



 屋敷に帰って、まずアミスに言う。



「わ、分かりました!お2人の秘密は絶対に誰にも言いません!」


「ありがとう」


「ラソマ様、あまり無茶をしてはいけないですよ?相手は女性なんですから」


「分かってるよ」


「ラソマ様のお子様を見る日も近いのでしょうか」


「え?」


「ちょっと待って!また勘違いしてるんじゃないの?!私、ラソマとそういう関係じゃないわよ?前にも言ったわよね?」


「分かっています。私は、自分が仕えている主人の秘密は明かしたりしません」


「ラソマ、前に誤解は解いたんじゃなかったの?!」


「解いた筈なんだけど…アミス、俺達はそういう関係じゃないからね?」


「はい、分かっております」


「それなら良いんだけど…取り敢えず、さっきの件、部屋に誰も入れないでほしいんだけど、よろしくね?」


「はい!」



 それから俺はレイラを連れて自室に入る。部屋に誰も入れないようにするための結界は張らなくても良いかな。正直、異空間に行ける事はバレても良いし、そもそも瞬間移動でどこかに行ったと思われるかもしれないし。



「さて、それじゃあ行こうか」


「ええ」



 2人で異空間に入る。



「まずは殺気を使ってみて?どんな感じか確認するから」


「いや、そもそも殺気の使い方が分からないんだけど」


「この前はどうしたの?」


「俺がある人に対して怒った時、勝手に発動した。使おうと思って使ったわけじゃないんだ」


「そう…それならまずは私を殺す気でいて」


「え?」


「殺気は文字通り、殺す気迫。ラソマもその時、その人を殺したいくらいの気持ちじゃなかった?」


「そこまでじゃなかった気はするけど、冷静ではなかったかな」


「心の奥底では、その相手を殺したいと思ったのかもしれない。まあ、それは良いわね。とにかく、殺気を使う簡単な方法は、殺気を向ける相手を本気で殺そうと思う事よ」


「だからレイラを殺そうと思う、か。レイラに対してそういう感情は一切ないから難しいな」


「…もし、ラソマが殺気を使えるようにならなければ、私はさっきのメイドを殺すわ」


「…え?」


「私は勇者なのよ?その勇者の時間を無駄に使った事になるの。今この時、もしかしたら魔王がこの国に攻め込もうとしているかもしれない。それなのに対抗できる勇者はラソマに束縛されている。魔王への対抗手段がないの。ラソマ、貴方は今、この国を危機に晒しているのよ」


「そ…それは…」



 確かにそうかもしれない。



「それなのにラソマは殺気を使えるようにならない。私が束縛されている時間が無駄になるわ。だからその代償に貴方のメイドを処刑する。主人の罪で罰せられるのはメイド、当然よね?」


「そんな事はさせない」


「それなら殺気を使えるようになれば良いだけの事よ。ほら、早くしないとあのメイドの首が落ちるわよ?………っ!?」



 そう言った直後、目の前でレイラは地面に倒れた。

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スキル「超能力」を得て異世界生活を楽しむ 黒霧 @Kokumu

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