第73話 王女の提案
クリスに呪いをかけたと思われる犯人の事務室から大きな叫び声が聞こえた。
「何事だ!?」
第一王子が扉を蹴破る勢いで開けると、中に入る。国王、第二王子、それに俺も中に入る。
そこに居たのは、1人の男。しかし状態が普通ではなく、顔がただれていた。
呪いが反射したからだな。
「大臣…貴様…」
「へ、陛下…助けて下さい」
男の正体は大臣なのか。その大臣が国王の前で跪きながら助けを求める。
「今、貴様がどうしてそうなったのか分かるか?」
「いえ?分かりません!」
「それは呪いだ」
「の、呪い!?誰かが私に呪いをかけたのですか!?」
「貴様自身がかけたのだろう!」
「どういう事ですか?私が自分自身に呪いをかけるなど…そもそも呪いのかけ方など知りません」
「とぼけるな!」
国王の声に男がびくりとする。俺もびっくりした。態度に出ていないか心配だ。
「貴様が余の娘に、あのような酷い呪いをかけたのだろうが!」
「な!何の事か分かりません!私がそのような事をするわけがないではないですか!?」
男はしらを切る。まあ、当然だな。証拠もないのに自白するなら、今まで黙っていないだろう。
「貴様が呪いをかけたのではないという事だな?」
「はい、勿論です!」
「嘘をつくな!」
陛下は今も嘘を見抜く魔道具を持っている。その魔道具をだしぬかない限り、嘘は簡単に見破られる。
「陛下…私は…」
でも、その魔道具を持っている事を誰もが知っているわけではないんだろう。実際、男もまだしらを切ろうとしているし。でも、このままだと埒があかないな。
「陛下、神父様を呼ばれてはどうですか?神父様は真偽が分かるのですよね?」
「うむ、そうだな」
「そんな!?それより、その少年は何者ですか?!陛下に意見するなど!」
「この者はラソマ伯爵。魔王を倒した英雄だ。そして王女の呪いを解いた者でもある。ラソマ伯爵なら信用できる」
「英雄!?それに、お、王女殿下の呪いを解いた?…あれは、そう簡単に解ける事がないように仕組んだはず…」
最後は小声で言ってたけど、皆にバッチリ聞こえていた。やっぱり、この男が犯人なのか。理由でも調べるか。俺は読心を使って男の思考を読む。………すごく自分勝手な理由だ!
「お前!そんな理由で呪いをかけたのか!!」
「な、なんだ、いきなり!?」
「ラソマ伯爵、どうしたのだ?」
「お前は自分の息子が婚約を断られたから、そんなつまらない理由で王女殿下に呪いをかけたのか!!」
「そうなのか!?」
「貴様、どうしてそれを!?」
「お前の自分勝手な理由のせいで、これまで王女殿下がどれだけ苦しんでこられたのか分かっているのか!」
本当に腹が立つ。これまでの人生でここまで腹が立った事はない。魔王に対しても、こんなに怒った事はなかった。
「…ひっ!!?」
男は床に座り込み、俺を見て恐ろしそうな表情をしている。そして、倒れこんだ。どうしたのか分からないけど、読心を使えるという事は…死んでいない。気絶しているのか?
「ら、ラソマ伯爵、落ち着いてくれ」
「いやいや、ラソマ伯爵の殺気は凄まじいな…」
「ラソマ伯爵、周囲に殺気が漏れている。少し抑えてくれ」
王族の方々から、それぞれそんな言葉をかけられる。俺は冷静になろうとしながら王族の方に向き直る。自然と王族より前に出ていた。これは不敬にならないだろうか。
「申し訳ありません。つい、前に出過ぎてしまいました」
国王に対して頭を下げる。
「よい、頭を上げよ。今回の事は不問にする。王女を想っての行動だろうからな」
「ありがとうございます」
俺は頭を上げる。
「ふむ、殺気を抑えてくれて助かるよ」
「お前は鍛え足りないんだ。殺気を受けたくらいでびびるな」
「いや、びびるよ」
第一王子が苦言を呈するけど、言われた第二王子は苦笑いする。
「あの、殺気とは何ですか?私はそのようなスキルを持っていないのですが」
「殺気はスキルではない。何者かを殺したら自然と身につくものだ。ラソマ伯爵は魔王を殺した事があるだろう?それで殺気が使えるようになったんだ」
「殺気は己から放つもので、受けた者は放った者に対して恐怖心を覚える。殺されると思うわけだからな」
「殺した者が強い程、殺気は強くなる。ラソマ伯爵は魔王を2人も殺しているから、強い殺気が放てるんだろうね」
国王、第一王子、第二王子の順に説明をしてくれる。成程、後天的に習得できるスキルみたいなものか。殺した者の数や強さで殺気の強さが変化するなら、確かに俺の殺気は強いだろうな。
「1つ、疑問があるんですが、私の殺気はどこまで効果が及ぶのでしょうか?」
「と言うと?」
「王女殿下達は大丈夫でしょうか?」
俺の質問に国王達が驚く。
「た、確かにそうだ!あのような殺気、クリスや王妃には耐えられん!すぐに見てこい!」
「はい!」
国王に指示された兵士が駆けて行く。大丈夫だろうか?もし俺の殺気が原因で何か支障が出ていたら申し訳ない。と言うか責任をとる必要があるだろう。
少し待っていると、兵士が駆けて来る。
「どうだった?!」
「はぁ…はぁ…大丈夫でした。王妃殿下も王女殿下にも殺気の影響はありませんでした!」
「そうか…良かった」
国王達は安堵している。勿論、俺もホッとしている。
ちなみに、この時は分からなかったけど、他の人達にも影響はなかった。どうやら俺の殺気の影響は大臣の室内に限定されていたらしい。
「さて、この男は牢に連れて行くとして、皆、部屋に戻るか」
「はい」
そうして俺達は王女殿下がいる部屋に戻った。
部屋に戻ると、王女と王妃が楽しそうに談笑していた。
「楽しそうだな」
「お父様!私、今、とても幸せです!」
「そうか、本当に良かった」
国王が涙ぐんでいる。
「これも全てラソマさんのお陰です!本当にどうお礼をして良いのか分かりません」
「いえ、クリス様の笑顔を見る事ができたので、私はそれで満足です」
「ら、ラソマさん…こうなったら、私自身をお礼にしないといけませんね。どうですか?私と結婚を…」
「クリス!何を言ってるんだ?!」
王女の言葉に国王が驚きの声をあげる。
「お礼に自身の体など、あってはならん!まして、お前は王女なのだぞ!?」
「…はい」
「貴方、そこまで怒る事ではないでしょう。確かにお礼の仕方はいけませんが、クリスにも考えがあるのだと思いますよ?」
「そうなのか?」
「はい。私、ラソマさんが好きなんです」
「ほう!」
再び国王が驚いている。それ以上に俺もビックリなんだけど。王女が俺に対して恋愛感情を抱くようなイベントなんてあったっけ?お茶会をしたくらいだよな。
「ラソマ伯爵…お前はどう考えている?クリスの事が好きか?」
「好きです」
「そうか!」
「ですが、それは人としてです。恋愛感情の意味で好きというわけではありません」
「クリスはこんなに可愛いのにか?」
「確かに可愛いです。ですが私には…」
「ん?ラソマ伯爵と婚約関係の女性など居たか?もしそういう人がいるなら、余の耳にも届いているはずだが」
「いえ、婚約関係にあるわけではないです。ただ、私が一方的に、その女性を好きなんです」
俺を好きだと言ってくれた王女の前で言うのは悪い気がする。でもはっきりしておかないと、後に響くと王女にとっても俺にとってもマイナスでしかないだろう。
「その方は誰なのですか?」
「…私に仕えているメイドです」
「メイドを好きになったのかい?でも身分があるのは厳しいと思うけど」
第二王子がそう言う。確かにそうかもしれない。でも。
「それでも私はそのメイドが好きなんです」
「…真剣だな。クリス、これは諦めた方が良いんじゃないか?」
第一王子はそう言うが、王女は諦めきれない顔をしている。
「…問題ありません。幸い、この国は一夫多妻制。妻が何人いようと関係ありません。そのメイドの方が第一夫人、私が第二夫人となれば良いんです」
凄い事を言い出したな。
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