To Be Continued...

陽毬

第1話

「マーゲイ、もう上がりの時間だよ。」

「そう、分かった。今から片付ける。」

「最近のマーゲイっていつもより熱心だね。給料分の仕事しかしないんじゃなかったっけ?」

「・・・ケーキを作る楽しさに気づいたから。」

「へぇ、なかなか珍しいこともあるんですね。」

「証明できないし、疑うなら勝手にどうぞ。…片付け終わり」

「それじゃ、行こっか。」


店を出て通りを歩いていると、年越し前ということもあり、カップルや親子連れが多数を占めていた。とにかくはしゃぐ子供、見守る親、遠回しな告白をする男性、それに気づいて心音が高鳴っている女性など、彼らは一様に笑顔で、私たちが浮いているように思うのは、姿の違いだけではないだろう。

マーゲイの方に目をやったが、思案しているのが伺えた。何か彼女の琴線に触れるカップルでもいたのだろうか。


十数分後、目的のカフェに到着した。店内の人は疎らだが、先週の新作ケーキは残り3個というところで、買えたことに一先ず安心した。

味わいつつ、私たちの新作に取り入れようと思うところを確かめながら食べていたが、マーゲイは一切気にせず、ひたすら集中して筆を走らせていた。今までにもこんなことは多かったが、今日はやけに推敲していて、小さな消しカスの山が誕生していた。


流石に気まずくて何となく描き終わったらしい原稿を流し読みすると、それは、一緒の店で働く奥手な後輩少女がキビキビ働く先輩女性に恋する物語だった。

「へぇ、これ面白いね。設定はともかく、内容は少し既視感があるけど。」

「・・・そうね、確かにモデルは自分たちにしてるから。というか勝手に見ないで。まだ未完成なんだから。」

「ごめんごめん、ちょっと話しかけづらくて、つい、」

「・・・・・まあいいわ。見たんだし、こういう系に理解があるし、相談に付き合って。」

と、マーゲイはその物語で『クリスマスというイベントに乗っかって、いつも世話になっている先輩に何かをしたい後輩少女』というテーマで書きたいらしいのだが、その詳細が思いつかないらしい。

「凝ったサプライズ系はナシだよね。」

「勿論、そんなことしたら今までの『少女』の性格要素が崩れるわ。」

「じゃあ安直だけど、プレゼントとか。」

「それは考えたけど、この出来事から関係を発展させていきたいから、プレゼント内容に困ったの。普通の物だと変わり映えしないから。」

「でも、食事会とかデートには早いよね。やっぱりプレゼントがいい塩梅だと思う。…あ、オーダーメイドとか手作りは?」

「・・・うん。その案を採用。じゃあ…これは?」

と言って、マーゲイが出してきたのは小さめのケーキだった。2層のスポンジケーキの間には白いムースと、ところどころにチョコチップが挟まっていて、上層には丸いビターチョコレートが2つ並んで、更に、ホイップクリームでケーキの周り半分を囲んであった。私が言葉に詰まっていると、マーゲイは細々と、

「自分はリカオンのことが好き。始めはただ、創作のネタの為だけにケーキ屋に入った。そしてリカオンは、客と歓談して追加で買わせたり、レジ打ちを素早く打ったり、時にはヘルプに入ったりして、なんでもこなしていた。それは創作家として見て便利なキャラで、誰を相手にしても話を組み立てやすかった。ただそれだけだった。

でも、ね、自分が初めてケーキを仕上げて、リカオンが食べた時に見せた笑顔が、とっても眩しくって。他のケーキを食べて、その美味しさを分析してる時と違って、屈託なくて、多分その時に思い始めたの。

でも、多少自分に理解があるからといって、当事者となると話は別だろうから、言い出せなくて。更にリカオンは普通に接してくれるから、それはそれで辛くて。自分が言い出したらこの思いは引き裂かれるかもしれないって怖くて。

だから、今回1度だけこういうことをしたの。普通ならありえない位遅めのクリスマスケーキって事で、同僚からのプレゼントの体で。正当な理由が付けられるように。

・・・『もうお腹がいっぱいで食べられない?』」

「…いや、食べられる。ちゃんと考えられて作られたこのケーキが美味しくない訳がないし、食べなきゃ損でしょ?」

「…そう、ね。...ありがとう。」

「うん、私もね、マーゲイが好きだよ。マーゲイは私が知らない色んなことを教えてくれるから。それでいてしっかり者だから。とても頼りになって、居心地がいいよ。まあ流石にビックリしたけど、マーゲイなら安心できる。これからもよろしくね。」

「よろしく。あと、、手を繋いで帰っても、いい?」

「勿論。関係を発展させるんでしょ?やろうよ。少しずつでも。

ごちそうさま。ちょっと酸っぱいね。」

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