終章  起承転結以降の終。主人公、ヒロインを助けたあと、自分も話を書くの図。

>というわけで、いろいろと役に立ちました。ありがとうございます。


>いえいえ、とんでもないです。お役に立てて私も嬉しいです。でも、いまでもライトノベルを差別する人っているんですね。驚きました。


>俺も驚きました。ま、さすがに、あんな暴言は二度と口にしないと思いますけど。あ、それから質問が。


>なんでしょうか?


>その人、「小説なんて、あの男と同じことして」とかなんとか言ってたんですよ。母子家庭って感じじゃなかったから、たぶん、父親がいないってことはないと思いますけど。ひょっとしたら、前の旦那さんだったのかなって思って。


>先に言っておきますけど、私は独身ですからね。子供もいないし。


>あ、そうでしたか。失礼しました。




 夏休み中、俺は静流の家にお邪魔して、静流の書くサーバナイトを読みながら、感想や助言を言いまくった。ちなみに由紀乃と春奈もである。なんだかんだ言って、このふたりも出入りを許されていた。由紀乃は二年だから、結局のところ、静流の勉強のプラスになるとお母さんが判断したらしい。午前中に文庫見開き編集で五ページ書いて、午後は夏休みの宿題というのが俺たちの日課になっていた。


「お母さんと約束したんです。学校の成績に悪影響がでないなら、ライトノベルは好きに書いていいって」


 一度、静流が言ってきたことがあった。


「でも、私、本気でライトノベル作家になるつもりだから、成績なんて関係ないんですけどね。ほら、小説家の収入って、売り上げで左右されるって聞いてるし」


「あ、それは間違ってないけど、おばさんの意見にも一理あるな」


 俺は虎の巻を開いた。


「これは声優の林原めぐみさんが言ったものだ。『なんらかの資格は持っていた方がいいです』。ま、資格だけじゃなくて、学歴も高いほうがいいと思う」


「え、どうしてですか?」


「資格を持っておかないとつぶしが効かないからだよ。そもそも公募の競争率が一〇〇倍以上。ほとんどの人間が夢破れてワナビを引退する。万が一プロになれたとしても、三年で九〇%の人間が出版業界から消える。理由はわからないけどな。とにかく、そうなったあとの就職を考えてみればいい。最低限の勉強はしておくべきだ。それに、専門的な知識を持っていると、何か語る上でも武器になるし」


「はい、わかりました。佐田師匠がそう言うなら、勉強もがんばります。いまの成績を落とさない程度に、ですけど」


「それでいいと思う」


 で、夏休みラストデイ、ぎりぎりまでがんばって、静流はサーバナイトの話を書ききった。


「おわりました! 佐田師匠、ありがとうございました。それから由紀乃先輩と、春奈ちゃんも」


「へ? あたしなんて、ただ駄弁ってただけじゃんよ?」


 謙遜してるでもない顔で由紀乃が言った。何気なくしゃべっていた自分のアイデアが、結果、サーバナイトのストーリー制作やキャラ制作に多大な貢献をしていたと、マジで自覚していなかったらしい。


「あの、静流さん、この話って、あたし、もらってもいいですか?」


 これは春奈だった。


「ほら、全部印刷して、新学期になったら学校に持っていきたいから。それで、学校のみんなに見てもらいたいから」


「あ、うん。あげるっていうか、見せるのはOKだから。印刷すればいいだけだし。それに、たくさんの人が読んでくれたら、静香ちゃんも喜んでくれるだろうし」


 静流が嬉しそうにした。――静香という娘が、静流の姉だったのか、妹だったのか、親戚だったのか。聞きたいような気もしたが、やめておいた。俺はライトノベルの書き方がわからなくて困っている静流の手伝いをしただけである。話そうとしないことを無理に突っこんで聞くものでもない。


「それでさ、これ、どこかの新人賞に応募するんだよね?」


「はい、そのつもりです」


「がんばりなよ。で、それはそれでいいんだけど、このあと、どうすんのさ?」


 春奈用だと思うが、ガーガー印刷している間に由紀乃が質問した。


「静香って娘との約束で、とにかくサーバナイトの話は書いたんじゃん? だったら、もうライトノベルを書く必要もないし。ほら、漫画部のなんとかって下痢便女がスカウトにもきてたじゃん? だから、文芸愛好会じゃなくて漫画部に行った方がいいんじゃね?」


「あ、私、ほら、プロ作家を目指してますから、これからも、ライトノベルは書いていこうと思っています」


「あ、そうなんだ」


「それに、ひきつづき、サーバナイトの話は書いていくつもりなので」


「へ? どうやって?」


「ほら、初代のドラゴンスレイヤーの話とか、ドラゴンスレイヤーズソードをつくった刀匠の話とか、書いてないエピソードって、結構ありますから。あと、最初、私、魔法少女を主人公にしたかったから、それを三代目のドラゴンスレイヤーにして、それで話を書いてもいいし。それに、静香ちゃんの書いたサーバナイトの設定って、たくさんあるし。スピンオフって言うんですか? それはそれで独立しているけど、世界観だけ共通した話、どんどん書いていこうって思ってて」


「なるほどね。ま、それならそれでいいかもしれないし。がんばりなよ。あたしも夏休みの宿題がおわってほっとしたし」


 印刷したサーバナイトの話をダブルクリップで止めて春奈が受けとった。


「じゃ、あたしたち、帰るから」


「またね、静流さん。休みの日に、お姉と一緒に遊びにくるかもしれないから」


「俺も帰るわ。じゃ、新学期にな」


 俺と由紀乃、春奈は静流の部屋からでた。玄関先で、静流のお母さんに会釈して家をでる。


「あのさ、静流って受賞できると思う? あたしは、ベタだけど、サーバナイトって、結構おもしろかったよ」


 帰り道、由紀乃が訊いてきた。


「ま、無理だろうな」


「あ、無理か。――はっきり言うね」


「本人もいないしな。大体、生まれてはじめて書いた小説が公募で受賞するなんて、常識で考えてあり得ない話だ。それに、今回、静流が書いた話は王道すぎる。悪く言うなら、誰にでも書けるってことだ。ま、基本はわかったと思うから、あとは書いて応募して、落ちまくって書評をもらって、自分でチャンスをつかむしかない」


「なるほどね」


「それに、意外と静流はがんばれるんじゃないかって俺は思う」


「へェ? なんでだよ」


「小説を書くのが好きでやってるわけじゃないからな。趣味でやってる奴は、飽きたらやめちまう。静流はそうじゃない。静香の夢を代わりにかなえようとしてやってるんだ」


 言い、俺は虎の巻を開いた。


「これは出版社Sで聞いた話だ。『写真家とカメラマンという違いがありましてね。ヒマラヤに登って、雪山の写真を撮ってくるのは写真家。あまり売れないでしょうけど、信念があるから尊敬の対象です。カメラマンは、水着のアイドル写真を撮って「もっと胸を寄せてみようか」こんなでしょ? 売れるだろうけど、信念がないから尊敬はできない。それと同じで、作家とライターの違いがあるんですよ』で、ある人の名前をだして『あいつは完全にライターです。自分の信念なんて何もない。売れるものを書いて、金を稼いで、それで満足な奴なんです。我々も儲かるから使ってますが、作家として尊敬はしませんね。「は! おまえなんか作家じゃねーよ。ライターだよ」と言ってます。それでいいって言う人種もいるんですよ』」


 ここまで読んで、俺は顔をあげた。


「いまの静流が、まさにこのライタータイプだな。仕事でやってるのと同じだから、最初から飽きる飽きない以前の問題だし、うまく極めたら、かなりのところまで行けると思う」


「ふゥん。そういうもんなのか」


「ま、『無理して書いても、好きでやってる人間にかなうわけがない』なんて意見もあるけど、俺は賛同したくないな。そういうのは、『凡人が努力しても天才には勝てない』と言ってるのと同じだ。凡人でも努力すれば天才に勝てる。そう信じてがんばっている人間なんて、いくらでもいるだろう。俺はそっちの味方をしたい。静流を見てて、そういう気分になってきた」


「なるほどねー」


 俺の横を歩いていた由紀乃が、少し感心したような顔をした。


「あたしも、マンガは読むのが好きなだけで、描けるわけないって思ってたけど、試しに描いてみようかな」


「え、お姉、マンガ描くの?」


「マンガって言うか、イラストでもいいかな。サーバナイトにでてくるドラゴニアンとかさ。マンガの絵を真似して描いてれば、そのうちうまくなるかもしれないし」


「それでいいんじゃないか? 千里の道も一歩からって言うし」


 適当に相槌を打って、なんとなく俺は空を見上げた。


「俺も、久しぶりに長編を書いて応募してみるかな」


「え、佐田も書いてみるのか?」


「まァな。静流のがんばってる姿を見てたらやってみようって気になった」


「そういえば、佐田って、なんで書くのやめちゃったんだよ? 一回、短編を書いて雑誌に載ったくらいなのに」


「あ、その話か」


 俺は頭をかいた。照れ隠しに苦笑して見せる。


「長編を、半分くらい書いてて、途中であきて投げ捨てちまったんだよ」


「――は? 佐田が? そんなんで、静流に師匠みたいな顔して偉そうにものを言ってたのか?」


「長編小説ってのは、想像以上に書かなくちゃいけなくてな。俺も甘く考えてた」


 俺は虎の巻に目をむけた。


「これは庄司卓先生の言葉だ。『とにかく最後まで書きましょう』」


「――なんだよそれ? あたりまえのことじゃん」


「それが俺にはできなかったんだよ。極意は基本にあり、だったんだけどな。俺も気がつかなかった」


 俺は虎の巻をポケットに突っこんだ。


「とりあえず、俺も何か書いてみるわ。静流を見ていて本当に勉強になったよ」


「で、どんな話を書くのか考えてるのかよ?」


「一応、ネタがあるにはあるんだ」


 言ってから、俺は少し考えた。ま、説明しても問題ないだろう。


「参考にしている虎の巻が同じなんだから、ストーリーの基本とか、メインヒロインを複数だすとか、そういうのは、どうしてもサーバナイトと近いものになると思う。差別化するとなると、設定はファンタジーじゃなくて、現代日本にするべきだろうな」


「はいストップ」


 由紀乃が口をはさんだ。横をむくと、おもしろそうに笑っている。


「あのな? 質問を変えるから。佐田が書こうと思っていた話なんだけど、ものすごく簡単に、何がどうしてどうなる話なのか、それを言ってもらえるかな? 時間で十秒。小説で言うと、一行でおわるくらいの、ものすごく短めの文章で」


「――あァ、そうだったな」


 俺は苦笑した。人に聞くときは的確にアドバイスできるのに、いざ自分が語るとなると、やっちまうもんらしい。指摘されないと気づかないものだ。


「えーとな」


 俺は由紀乃に笑顔をむけた。


「ライトノベル作家志望者の夏休み部活動、かな」




 本日のおさらい。


・「なんらかの資格は持っていた方がいいです」(声優林原めぐみさん)


・「とにかく最後まで書きましょう」(庄司卓先生)

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