第二章 起承転結の承。主人公、ヒロインと遊びに行くの図。・その3
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「へー。こんなところにプールがあったんですか」
バスに乗ってプールまで行ったら、静流がおもしろそうにプールを眺めた。なんとかランドって名前である。ウォータースライダーとか流れるプールがある、まァ、普通のレジャープール施設であった。
「私、引っ越してきたばっかりで知りませんでした。由紀乃先輩、教えてくれてありがとうございます」
静流が由紀乃に頭をさげた。由紀乃が苦笑して手を左右に振る。
「気にしなくていいから。えーと、ちょっと早かったかな。ここで待つって約束だったから。ちょっと付き合ってくれね?」
ということで、レジャープール施設の入口で約束の時間までボケーっと待っていると、小学生くらいの、ショートカットの、目のパッチリした美少女がやってきて、俺たちを見かけてこっちへ駆けてきた。
「お姉!」
この美少女が由紀乃の妹らしい。
「あーきたね春奈」
駆け寄ってきた小学生の頭を由紀乃がなでた。気のいいお姉ちゃんって顔である。
「思ったより年が離れてるんですね」
意外そうに静流がつぶやいた。俺も口には出さなかったが同意見である。静流の言葉に、春奈と呼ばれた小学生の美少女が顔をあげる。誰だ? て顔をした。
「あの」
「あー、こっちのふたり、あたしの学校の知り合いでね。ついでだからつれてきたんだ」
「あ、そうだったんだ」
「どうも。春奈ちゃんっていうのね? 私は御堂静流。由紀乃先輩の後輩だから。よろしくね」
「俺は佐田哲朗。由紀乃の同級生」
静流と一緒に自己紹介したら、春奈がぱっと俺を見た。なんか、珍しそうな顔をする。
「あーそうか。佐田哲朗。だからTSだったんだ」
「TS?」
「なんだお姉、背が高くて格好いい人じゃん? なんで教えてくれなかったんじゃんよ? ちゃんと紹介してくれたら、あたし、笑ったりしなかったし」
「わー!」
由紀乃そっくりの口調で春奈がしゃべりだしたら、慌てた声をあげて由紀乃が春奈の口を抑えた。なんか、顔が真っ赤である。
「ちちち違うから! この人じゃねーから!」
「違うって、何が?」
「なんでもねーから! ほら、行くよ!」
由紀乃が赤い顔のまま、春奈の腕を引っ張ってプールの入口まで歩いて行った。
プールの入口では、本当に水着を売っていた。俺は適当にバミューダパンツ型の水着を購入。静流はワンピース型のピンクの水着を買っていた。
「あ、きたね佐田さん」
入場料を払って更衣室でバミューダパンツに履き替えてプールに行くと、由紀乃と春奈が待っていた。由紀乃は赤いビキニ、春奈は黒いスクール水着である。小学生だからな。
「あの、お待たせしました」
そのまま、さらに待ってたら、ワンピース姿の静流がやってきた。なんか、恥ずかしそうである。そのまま、赤い顔で俺の前まで近づいてきた。
「佐田師匠、あの、私、変じゃありませんか?」
「は? 変って?」
「あの、だから、その、この水着とか」
「よく似合ってると思うけど」
という返事しか俺にはできなかった。間違っても似合ってないとは言えないし。
それに、実際問題、清楚な感じの静流にワンピース水着はよく似合っていた。
「そんな恥ずかしそうにしないで、堂々としてていいと思うぞ」
「そ、そうですか」
俺の言葉で自信がついたのか、静流が微笑んで顔をあげた
「じゃ、あの、私、カップルの会話とか、そういうの、見てきますね」
「あんまりジロジロ見てると怒られるから、こっそり観察しろよ」
「はい。じゃ、行ってきます」
静流がピョコンと頭をさげて、そのままプールサイドまで歩いて行った。さて、俺はどうするかな。と思っていたら。
「佐田さん、泳ぎって得意ですか?」
春奈が訊いてきた。
「ま、泳げないってわけじゃないけど」
「じゃ、あたしにクロール教えてくれませんか?」
「へ? べつにかまわないけど」
とりあえず返事をしてから由紀乃を見たら、由紀乃も変な顔をしていた。
「クロールくらい、あたしが教えてやんよ? つか、春奈、クロールできなかったっけ?」
「できなかったよ。それにあたし、佐田さんにクロールを教えてほしいんだ」
言って春奈が俺の腕をグイッと引いた。
「じゃ、佐田さん、行きましょうか。お姉のことは放っておいていいから」
「え、放っておくって、春奈ちゃん」
「ちょっと春奈」
「あたしのことは春奈でいいです。それからお姉、着替えてるときも、この人じゃないって、ずっと言ってたじゃん? なら、あたしにちょうだいよ」
「――ちょうだいって、俺はものじゃないんだけど」
「いいじゃないですか佐田さん。学校の男子なんて馬鹿な餓鬼ばっかりだし。あたし、佐田さんみたいな大人の男の人が趣味なんです」
「そりゃ光栄だな」
小学生だからな。背伸びしたくなる年齢なんだろう。俺の横で由紀乃が慌てた顔をした。
「あのね春奈? あんま馬鹿なこと言ってると怒るよ?」
「あれ? お姉、いつもと違う。あたしが欲しいって言ったもの、いつもだったらなんでもくれるのに」
だから俺はものじゃないって言うのに。俺はいたずらっぽく笑っている春奈の頭をなでた。
「あのな春奈ちゃん?」
「春奈でいいですってば」
「じゃ、お言葉に甘えて、春奈。教えてほしいんならクロールは教えるけど、教えるのは由紀乃も一緒だから」
俺が言ったら、春奈が不満そうな顔をした。
「なんでですか?」
「君の保護者はお姉ちゃんの由紀乃だから。兄弟でも親戚でもない、俺みたいなのが、君みたいなかわいい女の子と一緒にいると、勘違いされた人に通報されちゃうんだ」
「あ、そうそう。佐田ってむっつりスケベだから。人の裸なんて平気で見るし」
「あれは事故だったろ」
「事故でもなんでも見たじゃん」
「それならそれでいいけど。ところで俺、誰の何を見たんだっけな?」
由紀乃をにらみつけながら訊いたらおとなしくなった。
「佐田さん、誰かの裸を見たんですか?」
「あ、春奈ちゃんは気にしなくていい。じゃ、クロールを教えるけど、その前に準備体操をしようか」
「そうそう、準備体操をしないとね」
言いながら由紀乃が春奈の手をひいた。そのまま顔を近づけて
「いくら春奈でも余計なこと言ったら殺すからね」
小声で言っているのは聞こえていたんだが、俺は聞こえないふりをした。姉妹にもいろいろあるんだろう。
で、適当に準備体操をして、クロールの練習ということになった。大人向けと子供向けのプールがあったが、春奈用に子供向けのプールへ行く。
「えーと、まず、春奈に質問。水は怖いかな?」
「いえ、全然」
ドブーンと春奈がプールに飛びこんだ。
「あーすみません、飛びこみ禁止ですので」
すぐに監視員がやってきて注意されたが、とりあえず春奈が水を怖がってないことはわかった。俺と由紀乃もプールに入る。腹くらいの深さしかない。ここなら万が一の事故も起こらないだろう。俺は安心して指導することにした。
「で、水のなかに潜って、目をあけることはできるかな」
「はい。簡単にできますよ」
春奈が水のなかに潜りこんだ。俺がのぞきこむと、ちゃんと目をあけて、口を閉じたまま笑って上を見あげている。これも大丈夫か。俺がOKの手をすると、ざばんとあがってきた。
「えーと、じゃ、次は、ダルマ浮きだな」
「あ、それも知ってます。できますよ。どのくらいやりますか?」
「じゃ、とりあえず三〇秒」
「はい、わかりました」
笑顔で春奈が言い、水面でうつぶせになった。そのまま膝を曲げて、体育座りみたいになる。
「一、二、三」
俺が数えていたら、二八であがってきた。人間が数えてるんだから、これくらいのズレはいいとしよう。俺のカウントが遅かった可能性もあるし。
「はい失格」
と思ったら、先に由紀乃がダメだしをしてきた。春奈が意外そうな顔をする。
「え、なんで?」
「いま二八だった。三〇秒って約束だったじゃん?」
「そんなの、ちょっとくらいの違いじゃん? お姉、厳しくね?」
「クロールを教えてほしいんだろ? そういう、ちょっとしたところで甘く見てると事故になるんだよ。水泳舐めるんじゃねーぞ。はいもう一回」
「――わかったよ」
しぶしぶって感じで、あらためて春奈がダルマ浮きにチャレンジした。あらためて俺がカウントしようと思ったら、
「いーィちー、にーィいー、さーんんー」
由紀乃が笑いながら数えはじめた。明らかにカウントがのろい。
「おい」
俺が言ったら、由紀乃が笑いながら人差し指を口に当てた。
「しーィいー、ごーォおー、ろーくゥー」
十二で春奈が顔をあげてきた。
「どうでした佐田さん?」
「はい失格ー。いま十二だった」
「え?」
驚いた顔で春奈が由紀乃を見た。
「それっておかしくね? だっていま、あたし、心のなかで三十五まで数えたんだよ?」
「二回目だからね。一回目よりも息は苦しいだろうし。そういうときは無意識に早く数えちゃうもんなんだよ。いちにさんしごろくしちはちきゅうじゅうなんて高速でカウントしてたんじゃね?」
「――そんなはずないと思うんだけど」
春奈が不思議そうに首をひねった。確認するように俺を見てくる。
「なー佐田。いま、あたしが数えてたの、十二だったよなー?」
俺が何か言う前に由紀乃が言ってきた。顔は笑っているが声に重圧がある。
「まァ、十二は十二だったけど」
どうしたもんかな、と思いながらも俺は相槌を打った。納得できない顔で、それでも春奈がうなずく。
「佐田さんが言うなら、本当に十二だったんですね」
「だから三回目だよ三回目」
「うん。苦しいけど、やってみる」
「あーちょっと待ってくれ。言うの忘れてた。ダルマ浮きは、一回目は三〇秒で、二回目は二〇秒で、三回目は一〇秒だったんだ」
俺は助け船をだすことにした。
「ほら、息を止めるなんて、やっぱり苦しいだろ。だから、ダルマ浮きの再チャレンジは二〇秒で合格。三回目もやるときは一〇秒で合格だったんだ。だから春奈、次のダルマ浮きは一〇秒だけこらえられたら、それでOKだから」
「あ、そうだったんですか。わかりました」
「ちょ、ちょっと佐田。そんなルールどこにあったんだよ?」
「いま俺が決めた。春奈にクロール教えてるのは俺だぞ」
俺が言ったら由紀乃がつまらなそうな顔をした。
「それは――そうだけど」
「というわけで春奈。三回目のダルマ浮きは一〇秒だ。ただ、だからと言って適当はダメだから。息の続く限り、限界まで我慢すること。水泳はスポーツだから、自分の限界に挑戦して実力をあげていくんだ。一〇秒じゃなくて、一分くらい我慢する気持ちでチャレンジする。いいな?」
「はい、わかりました佐田さん。がんばります」
春奈が笑顔で言い、俺の前で目いっぱい息を吸いこんだ。ドボンと水のなかに潜る。
「い――――――――――――――ィちー」
またすごいノンビリペースで由紀乃がカウントしはじめた。ふざけて遊んであげてる感覚なのかもしれないけど、ひでー姉だな。
「あのな」
「シー」
「五」
「その四じゃない! に―――――――――――――――うお!」
いきなり由紀乃が下を見ながら変な声をあげた。視線につられて俺も下を見たら春奈が顔をあげていた。すごい目をしている。
「なんか変だと思ってたらお姉!」
「ななななんだよ。春奈がクロールを覚えたいって言うから厳しく特訓してやったんだよ」
開き直る由紀乃を春奈がにらみつけた。
「あたしは佐田さんに教えて欲しいんだよ! お姉はひっこんでてよ!」
「何ィ? 優しいお姉様には教えて欲しくないのかよ?」
「厳しく特訓しておいて優しいってなんだよ? 優しいんだったら、この人あたしにちょうだいよ! いつもと違って、こういうときだけ、急にケチになって」
「だから俺はものじゃないんだけど」
と言いかけた俺の腕に春奈が抱きついてきた。驚いた。結構柔らかい。
「さー佐田さん行きましょう。やっぱりあたし、お姉じゃなくて佐田さんに教えてほしいから」
「ははは春奈アァァ。おまえ、いつからあたしにそんな口を利くようになったんだよ?」
「だったら言おうか? 佐田さん、あのね、お姉って、中学まで、いつも早く帰ってきて、おうちであたしと一緒にご飯を食べてたんだけど。高校にあがってから、急に帰りが遅くなったんだよ。それで話を聞いたら、同じ学校のTSって友達が」
「わー! ぎゃー! 言うな馬鹿ー!」
真っ赤な顔で由紀乃が春奈の口を押さえにかかった。
で、なんだかんだあって三〇分後。バタ足やらなんやらやった挙句。
「佐田さん、これでいいですか?」
子供用プールでジャバジャバ泳いでいた春奈が俺に訊いてきた。一応、クロールの形にはなってると思う。
「合格。あとは、ひたすら泳いで慣れることだな。習うより慣れろって言うのが芸事の基本だし」
「はい、わかりました」
「じゃ、俺、ちょっと休憩するから」
「え、そうなんですか?」
「高校生が子供用プールにいるのも、あんまり格好良くないからな」
言って俺は子供用プールをでた。先にあがった由紀乃がプールサイドに座っている。
「ま、ざっとあんな感じかな。ちゃんと泳げてるだろ?」
「うん、サンキュ」
隣に座って言ったら由紀乃がうなずいた。一応、真剣な顔でジャバジャバ泳いでる春奈を見ている。
「からかったり意地悪したりもするけど、なんだかんだ言って妹思いなんだな。シスコンて奴か?」
「年が離れてるからね。血もつながってないし」
茶化すように言ったら、なんかすごい返事がきた。
「あ、あの、えーと」
「べつに大したことじゃないよ。親が結婚したとか離婚したとか再婚したとか、そういう理屈。春奈は義理の母親の連れ子だったんだよ。はじめて会ったのは、あたしが一〇歳で春奈が四歳だったかな。で、その母親は母親で仕事についてて、要するに再婚しても共働きでさ。ガキのころは、あたしが春奈の面倒見なくちゃいけなかったんだ。お風呂に入れたり、小学校にあがったら勉強を教えたりね」
「へえ」
「それに、なついてほしいとも思ったし。それで優しくしてたんだよ。ま、最近は反抗期なのか、クッソ生意気になってきたけどね。でも、最初はかわいかったよ。あ、いまもか。――本当の姉妹じゃなくて、血がつながってないから、そのコンプレックスで、普通の姉妹よりも仲良くしようとしてるのかもねあたし。自分でもよくわからないけどさ」
「――なんか、ちょっと意外だった。由紀乃って家庭的だったんだな」
「夕飯はレトルトばっかだったけどね」
「それでも立派なもんだ。見直したよ」
それに、なんとなく、由紀乃の話し言葉にも納得がいった。前々から常識外れだと思ってたけど、両親からちゃんと教わってなかったのか。鍵っ子で、学校の友達と話してばっかりならわかる。春奈も同じ話し言葉なのは問題だと思うが。
「あのさ」
考えてたら、由紀乃が声をかけてきた。いつもと抑揚が違う。振りむいたら赤面していた。今日は由紀乃の赤面をよく見るな。
「あの、いきなりなんだけど。さっき春奈が言ってた話ってさ」
「あー大丈夫。よくわかってるから」
「え!」
「あんな下手な嘘、すぐわかる」
「そそそれはその」
「ただ、遊んでほしいからって泳げないふりをするのはどうかと思うけどな。春奈ってクロールできるんだろ本当は」
「――え」
「違うのか?」
「――違わないけど。あの、ほかには、何か言うことないの?」
「ふむ」
俺は少し考えた。
「とくにないな」
「とくにないって――」
「あ、とくにないっていうのは、少し違ったか。えーとだな」
俺は由紀乃のほうをむいた。
「何もない」
「何もないって、ここここのウルトラ鈍感野郎!」
いきなり由紀乃が切れた。なんだ? 変に思う俺の横で由紀乃が仁王立ちで俺をにらみつけてくる。
「おまえみたいなのは静流とラノベ講座だけやってろ! て言うか子供用プールで足つって溺れちまえ! それからプールで腹を冷やして下痢便だして死ね馬ー鹿!」
無茶苦茶なこと言って、背中をむけてドスドスと行ってしまった。春奈がひとりで泳いでるから、しばらくしたら戻ってくるだろう。こういうときは頭が冷えるまで放っておくに限る。
「佐田師匠、カップルって、意外に普通の会話しかしないんですね。驚きました」
入れ違いで静流が戻ってきた。
「ウォータースライダーがおもしろいとか、アイスクリームは何を食べるとか、意外に普通で驚きました。――どうしたんですか? 由紀乃先輩は?」
「プールで腹を冷やして下痢便がどうとか言ってた」
「あ、トイレですか。――そういうのは言わなくてもいいのに」
勘違いした静流があきれたような顔をした。
本日のおさらい。
・「少年マンガにつきものなのはパンチラである。転じて、ライトノベルにもラッキースケベはつきもの。ギャグとしても使える。少なくてもあって困るものではない」(サルでも描けるまんが教室。アドバイスのアレンジ)
・「ロリはそれだけで一定の需要がある」(出版社S。要約)
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