第1話 間章 不器用な親友の背中を押す。
間章 不器用な親友の背中を押す。
「あっはっはっは! なにそれ。
二人のデートのことについて、私はすぐにでも神無から話を聞きたかったのだけれども、あいにく日曜日は家族のみんなで一日中出かける用事があって聞けなかったのだ。学校の休み時間で聞くのも、周りで誰かが聞いているといけないし、今週の放課後は私も神無も部活動が忙しく、結局今日この時になって、私は話を聞くことかできたのだった。
それにしても、神無と播磨くんを二人きりにさせるために、私が気を利かせて欠席をしたんだけど、まさか播磨くんのお母さんが一緒に来るなんて。
「しかも自分の子どもの後をつけていくなんて、どんな行動力よ」
「あの行動力には麻耶ちゃんに似たものがあったよ」
「面白いなー播磨くんのお母さん。やっぱり私も行って会ってみれば良かったわ」
女の勘だけど、たぶん私と播磨くんのお母さんとは仲良くなれそうな気がする。まあ、播磨くんのお母さんの話をしている神無の雰囲気を見るからに、神無は少し苦手意識がありそうだけど。
「けど、神無も残念だったわね。せっかく播磨くんと二人きりになれたかもしれないのに」
「う~ん。まあでも。播磨くんのお母さんがいた方がかえって良かったかも」
「そうなの? 何で?」
「なんだかんだで、播磨くんのお母さんがいてくれたおかげで、播磨くんとの会話もたくさんできた気がするし、色々と普段の播磨くんの様子とかも知ることができたし」
まあ、ちょっと人見知りのある神無と、あの播磨くんと二人きりじゃあ、緊張してなかなか会話ができないでいただろうし、そうしているよりそっちの方がいいかもね。
「それで、もう次のデートの約束はしたの?」
「で、デートじゃないって何度もいっているでしょう!それに、そんな約束もしていないって。……あ」
「おっ、なになに? あ~もしかして、もうすでに約束済みなんじゃ」
おおお。この反応。さては、すでに播磨くんと次の約束の話をしたんでしょ。
私がそう決めつけて言うと、神無がいつもはしない、私に対して気まずいことがある時にだけ見せる表情を見せながら言った。
「ええと、いちおうそういう話を、播磨くんの方からしてきたんだけど……」
「お~、やっぱり。それで、それで?」
私の考えは、半分は当たっていた。
「でも、あたし。断っちゃったんだ」
でも、半分は違っていた。
「ええ!? 何で? せっかくのお誘いを? 何で断っちゃったのよ?」
もったいない。実にもったいない。そんなことを私が思っていると、神無は実に言いづらそうに答える。
「だって。播磨くんが誘ってくれたのって、今日なんだもん」
その瞬間。私は、はああとため息をつく。
この親友はいつもそうなのだ。何か選択をするときには、必ずと言っていいほど、他人の顔色を窺う。もちろんそれは悪いことではない。私だって、五人兄弟の長女として、両親がして欲しいことを察して行動して、その上で弟や妹達に頼られる姉として、いつも気を遣っている立場にいる。
けれども、神無は一人っ子にもかかわらず、周りの様子に特に敏感に反応するのだ。良くも悪くも。
まあ、だからこそ、放っておけない感じがして、同い年ながら保護欲がとてもかきたてられるのだけど。
「まさか神無。私との約束を守るために、播磨くんのお誘いを断ったの?」
「そりゃあそうだよ。麻耶ちゃんとの約束が先だったし、それに……」
「それに?」
「先週は麻耶ちゃんと一緒に出掛けられなくて、今日くらいは一緒にいたいなあと思って」
うん。今分かった。いや、もとから分かってはいたことだけど。私の親友はとても可愛い。
というか、気になる男子よりも、同性の友達との友情を取るとか、どんだけ健気なのよ神無は。だいたい今日の用事だって、一人一枚限定の、私の好きなアイドルグループのチケット抽選会に一緒に行って欲しいと、半ば強引に神無を誘っただけだというのに。
全くもってこの親友は不器用なのである。
「チケットの抽選会のことはいいよ、私一人で行くから。神無は播磨くんのところに行ってきな」
仕方なく私は神無に言う。
「え? でも麻耶ちゃんが」
「いいからいいから。神無だって、本当は今日、播磨くんのところに行きたかったんでしょ。ほら、私の気が変わらないうちに行っておいで」
ちなみにさっきから話題に上がっている播磨くん(本名、播磨
中学校に入学した当初は、いつも休み時間に本(雑誌?)を読んでいる、背が高いわりに地味で寡黙な男子だなあと思っていただけだったのだ。ところが、神無がちょっと気になっているなんて相談してくるものだから、私も慌てて播磨くんについて色々と調べたり、周りの人に聞いてみたり、時には直接本人に話を聞いてみたりしたのだけど。
その結果分かったことをまとめると、播磨英理矢という人物は、かなり変わってはいるものの、私の親友を任せる相手としてはまあまあ悪くないかなという人物だった。
地元の神社の宮司を父に持つ私としては、播磨くんがキリスト教の人というところが気にはなったけど、とりあえずは様子を見ようという感じだ。
播磨くん自身も、神無のことをそんなに悪く思っていないようだし。あとは神無次第だろう。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、神無は私に向かって、真っ直ぐな眼を向けながら言った。
「ありがとう麻耶ちゃん。あたし、行ってくるね」
「うん。いってらっしゃい、神無」
私の言葉が言い終わらないうちに振り返って歩き出した神無の背中に向けて、私はその背中を押す様に手を伸ばす。
小学生の頃から何かをやるにしても、周りの意見を聞かないと行動できなかった神無の背中を、私は何度押したことだろうか。それでも、何事も一生懸命で、でも要領よくできることは何一つもなくて、だからこそ応援したくなる、そんな親友の背中を見送って、私は駅の方へ向かって歩き出す。
播磨くんと出会って、神無は変わっていると思う。
もちろん全てが良い方へではないかもしれないけど、それでもその変化は、神無が成長する上で必要なものなんだろうと思う。
「なーんてことを神無に言うと、『まーた麻耶ちゃんは、あたしと違って大人っぽいこと言っちゃって』って怒られるんだろうけど」
私は自分の言ったことが面白くって、クスリと笑う。
駅の入り口まで来たところで、もう一度頭の中で神無のことを思い出すと、慌てて播磨くんのところへ走っていくあまり、転んでケガをする神無の姿を想像してしまう。
まさか中学生にもなってそんなこともないだろうと思いつつも、まあ念のためと思って神無が歩いて行ったであろう方向へと振り返る。
全てが終わった後から言わせてもらうと、その時私が振り返ったのはほんの偶然だったのかもしれない。それでも私は、その時の私が振り返ったことを、自分で褒めてあげたいと思う。
なぜなら、振り返った先に見えたのは、神無と、全く顔も知らない男の人二人。そしてそのすぐわきにある黒いワゴン車。
そこで私、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます