第1話 間章 少年が「それ」を思いつくまで。

間章 少年が「それ」を思いつくまで。


 神無が走り去っていったすぐ後、俺は痛みを感じて頬を触る。

「痛! あー、いってえ」

 マジで痛いぞおい。神無かんなのやつ、平手とはいえ、手加減なしで殴りやがったな。

 気分は最悪だ。女子だと思って舐めていた神無には投げ飛ばされ、あげくには平手打ちをくらう。その上、それを見ていた周りの人からは、今もなお、まるで俺が悪いことをしたと言わんばかりの視線を向けられている。

「ああ?!」

 俺がそう言って周りを睨むと、周りにいた人はそそくさと俺から離れていく。

 ちっ。何で俺が悪者扱いされんてんだよ。俺は神無の肩を押しただけで、先に俺のことをぶん投げたのは神無の方じゃねえか。

「くそっ!」

 俺はその辺に転がっていた小石を怒りに任せて蹴り上げる。だがその小石は、壁にぶつかって跳ね返ると、よりにもよって俺の方へと戻ってきて、俺の足にぶつかる。そのことが俺のイライラを余計に増幅させ、俺は叫びたい気持ちを抑えるので精いっぱいだ。

 か弱いと思っていた女子の神無に、しかも、大好きだった柔道の技で投げ飛ばされた俺のプライドはズタズタだ。

 ……もしも俺が柔道を続けられていたら、と俺は考える。

 俺の親達は、俺が小学校四年生の時に突然、神様は暴力をいけないと言っていると言い出し、俺は通っていた柔道教室を辞めさせられてしまった。俺は柔道を続けたかったのに。

 思えばその頃からからか、俺があの間抜け顔の親達の言うことを聞かなくなったのは。

 今思い出してもイライラする話だが、そんなことはどうでもいい。それよりもイライラするのはさっきの神無だ。

「神無のやつ。絶対に許さねえぞ」

 誰でもいいから、神無のやつに仕返しをしてくれ! と心の中で俺はうめく。

 神様だろうが何だろうが。いや、神様はだめだ。あの間抜け顔の親達を思い出してしまう。……そうだ。いっそのこと悪魔でもいい。強いやつなら何でも――。

「ん? 待てよ、悪魔?」

 そこで俺は思い出す。つい最近知り合った人のことを。そして、同時に考える。神無のやつに仕返しをする計画を。

 そして俺、根本ねもと涼助りょうすけは、それを思いつく。

 後で心の底から後悔することになる、それを。思いついてしまう。

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