13-2 捜索の期限
思わず両手で耳をふさいで振り返る。
視界に入ったのは、肩に剣を生やして床に転がる
「死ぬ前に教えてやろう。魔法っていうのは隙だらけだから、接近戦じゃ剣を扱う者には敵わないのさ。詠唱を省く技量もないくせに、僕を出し抜こうなんて笑わせてくれる」
ぐぅ、と変な呻き声が
本気で殺す気なのかただの脅しかアルエスには判断できなかったが、段々と色を失っていく男の腕を見て、ぞっと怖気が走り抜けた。壁を引っ掻きながら逃げ場を捜していた
「ヒヅキさんっ」
仕切りの向こうに人の気配はなくなっていた。
本当なら、魔法が功を奏さないと解った時点で撤退すべきだったのに。濁った目でなおもあがく
「殺さないで」
氷月の口元から、冷笑が消える。
指の力がゆるんだ一瞬に、男はいきなり
「ごめんなさいっ、でも」
氷月は黙って床に落ちた血塗れた
「闇の民である
口を開いた彼の声は思ったより穏やかで、アルエスは少しだけ安堵しつつ頷いた。
氷月は剣を鞘に収め、一度仕切りの向こうへ行ってタオルを濡らしてくると、アルエスの傍に来て彼女の首にそれを当てる。
「痛ッ」
「あの野郎、汚い爪で」
溜め息混じりに呟いて傷に固まった血を拭き取ると、氷月はベッドに腰掛けて、乱れた前髪をかき上げた。
「で、続きだけど。確かに力を得ることはできるが、寿命の呪いに加えて精神を狂気に蝕まれる、とも言われててね。ああやって、実力を省みず襲撃してきたりするのさ」
先程の身を切られるような怖気は、今はどこにもなかった。不安を煽る酷薄な笑いも、脅しつけるような声の響きも、朝日に溶けたかのように跡形なく消え去っている。
本当に
「ごめんなさい、巻き込んで」
「だから、それは全然。ただ、あの執拗さならまた来るかもしれないなぁ。三度目はもう、容赦してやる気ないからね。次来たら殺すから」
淡々と言い切って、氷月はぱたりと仰向けにベッドに転がった。
「僕は精霊に嫌われててね。魔法が使えない……というか、使える魔法がひどく発動し難いんだ。その代わり、魔法にも掛かり難いんだけどさ」
「精霊に嫌われてる?」
嘘、と思ったが、氷月の表情にふざけた様子はない。否定するほどには現象を理解していないので、アルエスはただ聞き返すだけに留めた。
彼は頷き、そして表情を緩める。
「さて、今さら寝直す気にもなれないし、起きて早めに出かけてしまおう。街をひと巡りしながら、君の連れを捜そうか」
「え、危険じゃないですか?」
襲撃があったのはさっきの今だ。あまり目立たない方がいいんじゃないだろうか。そんなアルエスの心配を笑って流し、氷月は答える。
「寝込み襲うしか勝機を見出せない雑魚たちなんて、危険じゃないさ。それに、捜すなら早めの方がいい。余所者が三日以上この島にいるのはお勧めできないな」
「三日?」
きょとんと聞き返したら、彼は意味深に言い加えてくれた。
「余所者が街を長くうろうろしてると、魔獣域の猟犬たちに狩られてしまうからさ」
不穏な響きの意味は聞き返すまでもない。徹底実力主義と排他主義、それがこの島でいうところの〝ルール〟なのだろう。
氷月の口振りは相変わらず大袈裟だが、侮る気はもうなかった。
もはや猶予はない。
一刻も早く、みんなを捜さなければ。そうして全員が無事に、帰るんだ。アルエスはそう心中で呟き、黙って奥歯を噛みしめた。
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