4.黒曜姫
4-1 大帝国の女王陛下
穏やかな日差しの下、紅茶をお
「どうした?
長椅子に足を組んで座り本を読んでいた
「ちょっと失礼いたしますわ、
ふんわり微笑んで足早に去る彼女を、見送り。白い
「久々に面白い波乱がありそうだな。確かに、魔法の前には警備も鍵も
+++
「皆、大丈夫か? 慣れない者は転移の魔法で酔いを起こすというが……私はまだ未熟だから、不快な思いをさせたのではないか?」
「全然だいじょうぶです」
リンドの心配は
「うっわー……、ごめ、オレってば小心者だからココロの準備できてないよーっ」
「すごいキレイな庭だねー」
会話ともつかない言葉を交わしつつ、フリックもアルエスも無論ルベルも、観光客よろしく辺りを
リンドが一行を連れて出たのは、王宮の外門から内門まで続く敷地の途中くらいだ。通称、中庭と呼ばれる場所になる。いきなり城内、というわけにはいかないからだ。
「ふ、不審者かーッ! ……ってリンド様!?」
当然ながら異常を察して駆けつけた警備兵が、拍子抜けしたような声を上げる。
リンドは笑顔で彼らに手を振って言った。
「旅先で出来た友人を城に招いたのだ! 不審者ではないから心配はいらないぞ」
「ゴメン怪しくて。あははー」
自称小心者のウサギは、場を和ませようとしたのだろうか。そう言ってぱたりと長い耳を立てた。
ちょうど斜め後方に位置していたセロアが、ぎょっとしたのか無言でそれを注視する。
「な、なんだその耳っ!?」
「うおー、立ってるぞっ!」
意表を突かれた警備兵たちの間にどよめきが走る。リンドも目を丸くして、ぴこぴこ動く茶色の耳を見つめた。
「
「ははっ。ほら、垂直ーっ」
ぴょんと真上に向けて耳を立てたら、再び兵たちの間にどよめきと
「ウサギお兄さんっ、面白すぎ……!」
「フリックくん、そのお耳さわってもいいですかっ?」
ルベルにまで真顔で詰め寄られ、フリックは頭を
「今はほら……取り込んでるし、あとでなールベルちゃん」
「そうだ、まずは城の者たちに事情を説明しないと」
リンドが我に返って言ったので、警備兵たちも残念がりつつ持ち場に戻っていった。ルベルが心配そうに見あげる。
「リンドちゃん、ホントにだいじょぶですか?」
「ああ、心配するな。ここの者たちはみな優しくていい方ばかりだからな」
得意げにリンドが答えた、ちょうどその時。
「そうですわね。でも、約束もなしで王宮内へのご招待は感心できなくってよ、リンド」
やんわりたしなめた上品な声に、皆の視線がそちらへと向かう。リンドの表情がぱっと明るくなった。
「姫さま! お元気そうで何よりです!」
そこに立っていたのは、リンドより歳下に見える少女だった。波打つ豊かな黒髪と、
彼女はリンドの呼びかけにふんわり微笑んだ。
「あなたが旅宣言をしてから、また一月と経っておりませんもの。リンドこそどうしましたの? まさか帰還ではないですわよね?」
「ひめさまって……、もしかして女王様っ!?」
皆の心理を代弁するかのようにフリックが声を上げ、彼女はその
「一体どういう経過で王城観光ツアーが組まれたのか、事情を説明してくださいませね?」
「姫さま、それは私がっ」
「リンドさん、私が説明します。とは言え、ひとまず場所と時間を改めるべきですよね」
「そうですわね。ここでは互いの自己紹介もままなりませんわ。応接間を一室空けさせて、用意ができ次第迎えを出しますわね。それまで申し訳ないですが、客間かリンドのお部屋で休んでいていただけまして? 城内散策も大いに結構ですけれど、まだ連絡が行き届いておりませんし、不審者として捕らえられてはいけませんもの」
「了解致しました。後ほど改めて伺いますが、不躾な訪問にもかかわらずお時間を割いてくださり、感謝致します」
セロアの返答を聞いて、女王は再びふわりと微笑んだ。
「ゼオは人型にならないのか?」
ひとまずは、と通された客間で、リンドは剣に向かって声をかける。耳に届く返答はなかったが、リンドには何か聴こえたらしい。
「……目立つからこのままでいいと、言ってる。なんだ、そんなのはみな同じことだし、気にしなくてもいいのに」
「案外、会っちゃマズイ相手とかいるんじゃねー?」
フリックが茶化すように言って笑ったら、途端に彼の鼻先でパンッと空気が弾けた。驚いたウサギの耳が跳ねる。
「図星かよっ」
「ゼオくん精霊だから、国境関係ないって言ってました」
「そうなのか? ……考えてみれば、
ルベルとリンド、会話の風向きが微妙に危険だが本人たちに他意はない。そうこうしているうちに、部屋の扉が穏やかにノックされた。
「失礼いたします、お待たせいたしました。姫様が、準備が整ったと仰っておりますが……皆様でいらっしゃいますか?」
女中に尋ねられ腰を浮かすリンドとルベルを再び制して、セロアが立ち上がる。
「私一人で伺います。ルベルちゃん、もしリンドさんが良いようなら、お城の中を見せていただいてはどうですか?」
穏やかだが、有無を言わせぬ強さがあった。少女は黙ってセロアを見あげたが、やがてこくりと頷きリンドに目を移す。
「リンドちゃんはご都合大丈夫ですか?」
「ああ。ならば少し、城内散策に行ってみようか。私が一緒なら怪しまれることもないだろう」
「ええ、そうしてください。あと、ゼオも一緒にお願いしますね」
剣から返事はなかったが、リンドはそれを抱えて立ち上がる。アルエスが彼女を見あげて言った。
「リンドちゃん、ボクも一緒していい?」
「もちろんだ。フリックはどうするんだ?」
問われたウサギは、うーんと頭を掻いて答える。
「オレは、どうしよっかなー。なんか疲れちゃったし落ち着かないから、ここで休んでるぜっ」
「えぇ? ウサギお兄さん大丈夫ー?」
アルエスに心配そうに覗き込まれ、フリックははははっと笑った。
「大丈夫だってー。ささ、いってらっさい」
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