6.星巡りの祭
[6-1]シャーリーアの決意
本日より七日間、ライヴァン帝国では『帝国十二巡りの星祭り』が開催される。
前夜祭を存分に楽しんだラディンは、宿舎へ戻って一泊したあと、次の日の朝早く王城へと向かった。フォクナーはあれからリオネル家族と一緒に詰所に泊まったらしい。
子供らしくお祭りを楽しめているようで、喜ばしいことだ。
王城に着いて門衛に通してもらい、城の受付へ向かうと、ギアと一緒にシャーリーアがいた。ギアが目ざとくラディンに気づき、ひらりと手を挙げる。
「おはよう、ラディン。いいタイミングだったぜ」
「おはようございます、ラディン」
「ギアとシャーリィ、おはよう。シャーリィ、戻ってきてたんだね」
ニーサスとリーバがろくに話もせずに帰還してしまったことを、彼はずっと気にしていた。ラディンは彼らとは親しくなるほど時間を過ごしていないが、シャーリーアは違う。
ニーサスが本当の死を覚悟していることは言葉の端々からうかがえたし、シャーリーアが何らかの方法でそれを阻止するため出掛けていたこともわかる。帰ってきたということは、結論が出たということだ。
「はい。……まあ、何と言いますか。ここでは他人の目もあって何ですし、時間があるなら場所を変えて話したいですね」
「俺とラディンは午後からの割り当てだから、個室に借りてる部屋へ行こうぜ。他のみんなも呼ぶか?」
「僕は王城を手伝いますので、合間に話しておきますよ。お二人は時間が迫っているでしょうから、先にお伝えします」
確かに移動時間や食事のことも考えれば、ゆっくり話すには時間が足りない。三人でギアが借りている客間へ向かい、椅子を適当に並べて大雑把に向かい合った。
「ええと……経緯まで話すと時間が足りないので、結論から話しますが。ニーサスはあの後、
やっぱり、という気持ちと、どうして、という気持ちが同時にわき起こり、ラディンは黙って唇を噛む。彼らと交流が浅かった自分では、掛けるべき言葉を見つけられない。ギアも険しい表情で黙ったまま話を聞いていた。
シャーリーアは二人の返答を待つわけでもなく、淡々と言葉を続ける。
「レシーラについては、僕では追跡できませんでしたが、呪いも解けたことですし、あとはティスティル帝国がうまく収めるでしょう。リーバは……統括者様の住む館に身を寄せているそうです。こちらも、僕では現状を詳しく知る手立てがなく」
「まあ、クロも帰っちまったことだしなァ」
リーバは特別な属性――無属性の
統括者の館には、
人族が住める仕様になっているのか気になるところだが、ラディンにも詳しい状況を知るすべはない。シャーリーアはギアに
「そういうわけで、です。僕としては何かできることがあれば協力したい……と思っていたのですが、すげなく振り払われてしまい、かといってニーサスが下した決断も僕にとっては非常に面白くないものでしたから」
言葉にトゲ、というかあふれる不満をにじませて、シャーリーアは続けた。
「こちらも持てる限りのコネと伝手を総動員してですね。ニーサスの転生先を特定できるよう、手を回しました。具体的に言えば、彼が彼のまま転生できるよう、とある方に【
「……リーン、何だって?」
何だっけ。ギアの返しにラディンも首を傾げる。何か、すごく耳に覚えがあるような。
「土属性最高位、死亡者の魂を
「や、ちょっと待て。そもそも、最高位の儀式魔法それ自体が現実的な話じゃねぇぞ? おまえ、それを
シャーリーアの説明でぼんやり思いだした。
魔法に興味の薄いラディンだったが、自分の属性である土魔法は少しの興味で調べてみたことがあった。生前の記憶を保ったまま即座の転生をはたす【
「いいえ。統括者様は……気づいていない、ということはないでしょうけれど、今回の件には関与しません。僕が頼ったのは『北の白き賢者』様ですね。儀式は一応の成功ですが、ニーサスの記憶がいつ戻るか、どの程度まで戻るかは、未知数だそうです。運さえ良ければ、数十年以内には魂の再会を果たせるだろう、と仰っていました」
北の白き賢者、どこかで聞いた名称だ――と思った瞬間、隣のギアがいきなり立ちあがった。一拍遅れて「ハァ!?」と大きな声を上げる。
「白き賢者って……おまえ、そんな超有名人に伝手あったのか!」
「ええ、まあ、伝手といいいますか縁といいますか、……運命の悪戯、みたいな」
「なんだよそれ」
彼にしては奥歯にものが挟まったような答えだ。ギアが叫んだので、ラディンも記憶から探り当てて思いだす。
確か、サイドゥラの地で起きた狂気の虐殺をおさめた人物だ。カミィが手紙を書き、狂王の能力を解明してくれた人物。
無属性魔法の【
しかし、シャーリーアの人脈は驚きを通り越して心配になるレベルなのだが。
「シャーリィ、個人的な伝手があるって言っても、無償で聞き入れてもらえるようなものじゃないよね。何か……ヤバイ取り引きとか代償とか持ち掛けられてない? 大丈夫?」
「それは…………大丈夫ですよって言っても、信じ難いでしょうね」
一つため息を落とし、シャーリーアはラディンとギアを見る。腕組みして眉をつり上げたギアも、おそらくラディンと同じ気持ちだろう。
シャーリーアがラディンの右目の秘密を知っているかは聞いていないが、どちらにしても嘘なら見抜ける。
「もちろん、口止めされてるなら話せっては言えないけどさ……。心配なんだってば、シャーリィいつも全部、自分で何とかしようとするし」
「どの道、白き賢者様は
「今回は?」
先回があった、というか、何度か頼みごとをしているような言い方だ。つい眉をひそめるラディンに、シャーリーアは苦笑に近く笑いかける。
「実はですね。僕とステイが村にいた頃、森の中で精霊の子供を拾ったことがありまして。非常に特殊な状況で、まだ未熟だった僕たちでは判断できなかったので、白き賢者様に預かっていただいたんです。そういう縁がありまして」
「精霊の子供? 幼体じゃなく?」
「その辺は話すと長くなるので、いずれ機会があれば。とにかく、少し深い縁がある、というわけです。そして、白き賢者様はティスティル帝国の守護者として、サイドゥラ地域の状況も気にかけていらしたようで」
ギアの疑問は当然だが、シャーリーアの言ももっともだ。
ここまでで嘘はなく、淡々と語る
「なるほど……ライヴァン帝国の動向は、お隣のティスティル帝国としちゃ気になるところだろうしなぁ」
「そういうことです。ですので今回は、現国王の暗殺を阻止し政変を防ぐようにというのが
「ふぅん、そうか……って、んん?」
納得しかけたギアが首を傾げ、ラディンは何が疑問かわからなくて首を傾げた。シャーリーアの表情が完全な苦笑になる。
「伏せても仕方ないですし、今後のためにお伝えしておくとですね。実は、白き賢者様はルウィーニ殿にあまり好意を抱いておられないようで。その真意は測りかねますが、フェトゥース国王の政権が維持されることを望んでおられるようですよ」
「えぇえ、父さん何をしたの……」
「なんか、話違うくないか? それってティスティル帝国上層部の総意なのかよ!?」
陰謀を阻止したら、ルウィーニが外交担当となってティスティル帝国との国交を回復する、という話だったはずだ。もしも先方がルウィーニを拒絶するのであれば、方針を変えるべきなのではないか。
動揺するギアとラディンを眺めつつ、シャーリーアはついに笑顔を消して、深く重いため息を吐きだした。
「いいえ。ティスティル帝国としては、以前親交があった旧政権のルウィーニ殿が外交につくのは、願ったりかと。白き賢者様の意向はあくまで彼個人の、……ただの好き嫌いですので、外交面の方針転換は必要ないと思いますよ」
「…………」
ギアが沈黙する。ラディンも、なんだそれ、という感想だ。
シャーリーアの言葉から嘘は感じ取れないので、実際にその通りなのだろうけれど、何か釈然としない。
「と、そういうことなので。僕は城側の助力をしようと思います。ラディンもギアも、しっかり持ち場で頑張ってくださいね」
話し終えてすっきりしたのか、それとも激励のサービスなのか。
シャーリーアは綺麗な顔に極上の微笑みをのせて、この裏話を締めたのだった。
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