[9-4]瓦礫の葬送
ギアの燃える
「大丈夫なのか、カミィ!」
「こんな亡霊にやられはしないが、子供らを守ってやれる余裕がない。すまないな」
リーバの魔法で傷をふさいだとはいえ、狂王に
彼は
一体一体確実に亡者を葬る動きに無駄はなく、相手はかつての同胞の成れの果てだというのに、手つきに迷いもない。
「おい、無理はするな! 俺が前に出るからさ!」
「……大丈夫だ」
声に心配をにじませるギアに、カミィは小さく笑って瞳を向けた。
「絶望に
ザン、と打ち振るわれた
「だが、この亡者たちは、
ギアは無言で
彼は自分やアルティメットの恩人であり、ここまで事を運ぶことができたのは彼のお陰に他ならない。
その恩義を、幾らかでも返せるのなら。
背後に近づいてきた動く骨を叩き砕き、その勢いのままに幽体の亡霊を縦割りに。傭兵という職業柄、アンデッド退治は慣れた仕事なので、数が多いとはいえこの程度の亡者なら敵にもならない。
カミィの動きを確かめつつも、彼が気にかけている子供たちの様子を確認する。インディアの周りにパティロ、フォクナー、モニカ。それを守るように、国王とドレーヌが燃える剣で迫る亡者たちに応戦していた。
「さすが国王軍、なかなかバランス良さそうじゃねぇか」
「そういう意味では、魔法組のほうが危なっかしいかもしれないな」
つい口に出した独り言に、カミィが応じる。瞳を巡らせシャーリーアたちの様子を確かめようとしたギアが、狂王のほうを見、そして視線が釘づけになる。
ギアの様子に何かを察したカミィは、
「ギリギリ……だったか。だが、よくやってくれた。感謝するよ、ギア。……ルウィーニ」
***
「
「うん、わかった」
インディアの指示にパティロが返答し、モニカは無言で頷く。
弓を扱うパティロは亡者が壁を越えるのを待つより、矢をつがえて遠方の亡者を狙い射っている。
モニカは普段身につけているナイフではなく、城から借りてきた魔法製の長杖を握りしめていた。扱い方なんて知らないが、とにかく振り回して殴ればいいらしい。
「インディアねーちゃん、モノシリだなッ! よし、それならボクのキューキョクマホウの出番だゼ!」
「こらぁ待ちなさい! 一発撃って気絶とかされても困るから、普通に【
張り切って
「ドレーヌ、フェト! 行くわよ!」
彼女の唱える
「感謝!」
「ありがとうイディ!」
ドレーヌの
瓦礫の下から湧きだすアンデッドを上から突き刺し、動きを止める。細い切先から炎が散って、腐臭のような闇の魔力を煙に変えた。その真横すれすれを炎の矢が飛んで、遠方の動く灰の亡者をとらえ、爆発する。フォクナーだ。
補助魔法を一通りかけ終えたインディアは、杖の先を前方に向け真剣な表情で複雑な
十分に魔力を注ぎ込んだところで杖を振りあげ、投げつければ、火球はずっと遠方に着弾して爆発した。
「【
はじめて見る中位魔法に興奮したのか、フォクナーが歓声のような声を上げた。負けじと自分も杖を振りあげ、次々と炎の矢を撃ち出している。
そうやって皆の注意が遠方に向いた隙をついたのだろう、ふいに炎の壁を通り抜けて骨みたいな亡者が現れ、モニカがびくりとそちらを見た。
「きゃぁぁ! てぃやぁっ!」
「大丈夫かッ!?」
「こ、怖いよぉぉ、でも頑張るっ」
「ああ、よく頑張ったな、偉いぞ」
震えながらも長杖を握りしめ炎の壁を睨むモニカにドレーヌは笑みを向け、そばに立って、迫ってきた亡霊たちを仕留めていく。
「無理はするなよ! 怪我をしたら言ってくれ」
フェトゥースが背後を振り返るようにして言うのと同じくして、矢を手に遠方を見ていたパティロがピンと耳を立て、呟く。
「狂王さんが……」
小声だったが耳聡くフェトゥースは気づき、インディアも一緒につられるように視線を向け、――その光景を見た。
「彼の能力は、……公は大丈夫なのかっ」
「陛下! こっちはまだ終わっておりませんよ!」
駆け出そうとした国王をドレーヌが
***
燃える炎を盾がわりに、シャーリーアとリーバは背中を合わせて立ち、亡者たちを迎え討つ。元より前衛が少ないのはわかっていたことだ。
俊敏な獣相手や対人戦なら分は悪いが、相手は動きの鈍い亡者たち。いくらでもやりようはある、と考え、取るべき手段を思い巡らす。
「あれは、亡霊ですよね」
「うん、そうだね」
そうであれば、闇魔法によって使役を移すことは不可能だ。闇の弱点である炎魔法か、反属性である光魔法で応戦するのが最善手だろうか。
シャーリーアがぐるぐる考えているうちに、リーバが杖を掲げて
「『炎の壁を抜けてくる者は叩きのめせ!』」
何とも雑な命令を与えると、彼は視線だけ動かしてシャーリーアを見た。
「応じきれなくなったら
「了解ですよ、リーバこそ」
確認し合うように頷き、同時に
あまり遠方ではなく、こちらに向かいそうな亡者を狙う。近くにこられて接近戦に雪崩れ込んでしまったら、こちらが圧倒的に不利だからだ。
互いに魔法を唱えるため会話はない。時々、視線で互いを確認し、隙を作らないように注意する。油断なく周りの状況をも警戒しつつ、どちらかが怪我をすれば治癒魔法を唱える心積もりだ。
いつまで続くだろう。
互いに
不安はあったが、最悪の場合はリーバの転移魔法で離脱できる。それは大きな安心要素だった。
それより、気になるのは重大任務を与えられた幼馴染みの動向だ。
――ステイ。
ガサツで破茶滅茶なあの幼馴染みは、上手くやれているのか。自分だって余所見してる余裕などないというのに、やはりそちらを見てしまう。……そして。
「リーバ」
抑えたつもりでも声は震えた。シャーリーアの様子に気づいたリーバが視線を傾け、同じ方向を見て、うめくように息を吐きだす。
「決着――、ついたのかな」
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