[4-3]シザー・カミィ
森の小道から現れた
殺人狂の
肉体が完全回復していようと、魂レベルで刻み込まれた死の恐怖というものは簡単に消えてはくれないのだろう。シャーリーアの指は無意識に、幼馴染みであるステイの袖をつかんでいた。
いつでも剣を抜けるよう構えていたステイもそれに気づいたのか、チラリと視線を向けたものの、何も言わずに
「テメーは誰だ
開口一番、喧嘩腰だった。思わずの条件反射で袖を強く引くと、ステイは不思議そうな表情でシャーリーアを見る。
君って奴は、そう思うと同時に、恐怖が少し薄らいでいく。
「……せめて第一声くらい、礼儀正しくできないんですかっ」
「何だよシャリー、オレどこか間違ってるか?」
「
こんな時だというのに、売り言葉に買い言葉。立ち尽くしていたリティウスが動いて隣に来たのと同時に、
「私は敵ではない。そんなに怯えるな、
見抜かれている、という緊張と、想像していたより柔らかな声音に、動揺を覚えつつ、シャーリーアは息を詰めてステイに視線を送る。豪胆さにおいて並ぶ者のない幼馴染みは
「じゃ、味方か?」
「世の中には敵か味方しかいないと思っているのか? まあいい、私の名はカミィ。
その、どこか不吉な響きを匂わせる二つ名について考える間もなく、エアフィーラが「あのぅ」と声を上げる。
「実は私たち、ここの森に落としたペンダントを探しているのですぅ。もしかして、なにかご存知ではありませんか……?」
「……すぐに信用するのは、どうかと思うが、……エフィ」
リティウスの囁きは彼にも聞こえたのだろう、カミィはそこではじめて、笑った。
「探してやろう、
「本当ですかっ、……探していただけるのなら、どうかお願いしますぅっ」
「ちょっと待てエフィ、いくら何でも怪しすぎるだろ!」
食い気味に懇願するエアフィーラをステイがとどめ、リティウスが険しい表情で進み出る。シャーリーア自身は戸惑いとまだ残る緊張感からか思考が鈍っており、彼の真意を読み取ることができずにいた。
カミィの立つ位置はここから遠く、その瞳に映るのが正気か狂気かを判断できない。それに、この大人数を家に迎えて彼自身にどんな利益があるというのだろうか。
ただの親切心、と信じ切ることはできなかった。
ステイにもその心境は伝わっていたのだろう――この友人は昔から妙に察しがいいこともある――リティウスを手で制し、カミィを見据えて口を開く。
「申し出ありがてぇが、オレたちは――、」
「大丈夫、彼は信用できるよ」
台詞を割ったのは、穏やかな笑みを含んだニーサスの声。思わず振り返り見れば、彼は楽しげな表情でまっすぐ
「カミィ、まさか君が、こんな所にいたなんて」
「……? その声は」
「まさか、ニーサスか? どうしたんだその姿は。
「さすがだね。事情は後でゆっくり説明するよ、カミィ。ルイズは元気?」
「もちろん、元気だとも。そうか……ならば一先ず、家に招こう。案内するからついてきてくれ」
あっという間に話がまとまってしまい、困惑げに自分を見るステイにシャーリーアは黙って頷きを返した。自分としても不安は残るが、ニーサスの友人なのであれば少なくとも害されることはないだろう。どんな関係性かは彼の家で聞けるだろうし。
「仕方ねーな、シャリー歩けるか?」
「何ですかもう兄貴風吹かせて。僕は全然何も問題ありませんから、早く行きましょう!」
「強がりかよ……まぁいいや、行こうぜ」
ボソリと何か言われた気がしたが、聞かなかったことにする。危険のない相手だと確定したなら、こんな道なき樹海とは早いところおさらばだ。差し出された手を取らなくたって、もう自力で歩ける。
と、半ば意地になって早足で進むシャーリーアの後ろから、小声の会話が聞こえてくる。
「ニーサス、知り合い?」
「うん、そうなんだ。
『ついていっても、大丈夫なのー?』
「ニーサスの友だちだって」
「
クロノスとモニカが小声で言い交わし、エアフィーラが首を傾げている。最後まで立ち尽くしていたリティウスが、観念したのか最後尾について歩き出し、小さく呟いた。
「……本当に、大丈夫なのか?」
その独白はニーサス以外全員の心境を代弁するものだったが。
だからといって、その場にとどまるという選択肢を選ぶ者もおらず、結局は全員が
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