[5-3]波乱の予兆
怪鳥がパーティー会場を襲撃した時、ラディンとパティロは一緒にパティロの部屋にいた。
「ごめんね、ラディン。あっちも心配だと思うけど、ぼくたちだけだと心細いの。一緒にいてくれないかなー」
ルベルと手をつないだパティロにお願いされ、ラディンは正直迷った。自分はギアたちほど強くはないし、騎士たちに守って貰った方が安全なんじゃないだろうか、と。
でも、パティロは言葉と裏腹に怯えた様子がなく、幼いルベルを慰めて、優しく力づけていた。心細いのはパティロではなくルベルなんだな、そう思う。
パティロはおそらくロッシェから、ルベルを頼まれたのだろう。他の客人や騎士たちと一緒にいられない理由はわからないが、親と離れてただ一人、大人たちの中にいろと言われても、この年頃の子供にとって酷だというのはわかる。
「うん、わかった」
戦力という意味では自分が行っても行かなくてもおそらく変わりはない。外の様子が気にならないわけではなかったが、パティロの意向を尊重しようと考える。
扉を閉じて鍵を掛け、窓にもカーテンを引いて、部屋の照明を一番明るくした。それでも耳障りな絶叫は聞こえてきたが、さっきほどではなかった。
不安そうなルベルにパティロは優しく何かをささやいて、ぎこちなく頭を撫でている。音源がそれくらいなので落ち着かない気分だったが、何を話せばいいかも思い浮かばず、しばらく時間が過ぎ……。
「ごめん、パティ。胸騒ぎがするからちょっと様子見てくる」
「うん」
外はだいぶ静かになっていた。それなのに、言葉では説明できない悪い予感が振り払えない。
パティロの同意を確認し、扉の鍵を開けて外に出る。途端、廊下の濁った空気に微かな異臭を感じ取り、背筋に悪寒を感じた。
不安をかき立てる、鉄っぽい臭い。――まさか。
反射的に走り出す。ホールの方へ、と言うよりは、人が多く集まってそうな方向へ。
が、その途中でラディンの足は釘付けになってしまった。
廊下に敷かれた厚い絨毯を赤黒く染める血糊と、濃く満ちた血の臭い。その真ん中に若い男が倒れ伏しており、側には見知った姿が。
「……エリオーネ!?」
様々な予測が頭の中を駆け抜けたラディンだったが、呼ばれて顔を上げたエリオーネは怒ったような表情で言った。
「ラディン! ちょうどいいわ、ルインかフォクナー呼んできて! 早く!」
「わ、わかったけど、どこか……」
怪我でもしたのかという問いを皆まで言わせず、エリオーネは早口で怒鳴る。
「あたしじゃないわ、この
「了解、ルインかフォクナーだね! あ、ルイン!」
タイミング良くホールから駆けてきたルインを見つけ、思わずラディンは大声を上げて指を差す。その勢いに驚いたのか、ルインはびくっとして立ち止まった。
「な、なに?」
「ルイン怪我人! フォクナーは!?」
「ぼ、ボク怪我なんか……じゃなくてフォクナーなら、合成魔法の一発芸で
「そんなのどうだっていいわ、早く治しなさいよこのバカ!」
恐らくエリオーネは「バカな
「うっ、また意地悪言う……」
「言ってないでしょもうっ、鬱陶しいから泣かないの!」
語気の荒いエリオーネに気圧されて、泣きそうになりながらもルインは側に座り込み、
幸か不幸か、致命傷へ至る深さではないようだ。
彼が一命を取り留めたことに安心したのだろう。エリオーネの表情が和らぎ、汗で額に張りついていた前髪を撫でつけながら口を開く。
「こいつ、国王暗殺を企んでたらしいの。……もっともこんな腕じゃ、国王にたどり着く前に捕まってたでしょうけどね」
「どうするの、エリオーネ」
恐る恐る尋ねてみると、彼女は疲れたようにため息を吐きだし、顔を上げてラディンを見返した。
「それはあたしが決めることじゃないわ。とにかく、警備の兵に知らせましょ。あたしの予想が合ってれば、城側は暗殺の企みについては把握しているはずよ」
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