[2-2]少女を救え
海賊は、ルインが
油断なくこちらを見る眼光に隙は見いだせないが、ラディンもジリジリ距離を取りつつ、相手の動きを観察する。
双方様子見の、わずかな
「今のうちに逃げて!」
振り返る余裕がないまま、ラディンは少女に向けて声を押し出した。
自分もルインも武器を持った大男を一撃で
背後で身動きした気配がする。
「でもっ」
『ダメだよ、モニカじゃ足手まといになっちゃうよ』
唐突に聴こえてきた——耳に届く肉声ではなく体の内側に直接伝わる声に、びっくりした。
確かめられる状況にはないが、もしかしてあのトカゲ、喋るのだろうか。
モニカと呼ばれた少女はトカゲに促されて壁際まで後退したらしい。巻き込みを心配しなくていいことに少しだけ安堵する。
が、彼女の動きに海賊は焦ったようだ。
「逃すかア!」
威圧するように大声をあげ、大きく踏み込んできて
拳に力を込めて、相手の武器を持つ手に叩きつける。
「ていッ」
「痛ッツ!?」
骨に響くような痛みがあったが効果はあったようで、相手は
「てめえ!」
油を注がれた火のように怒りたった海賊が、ラディンを捕まえようと手を伸ばす。反射的に振り払おうとするも力で敵わず、強い力でがしりと腕をつかまれてしまう。
海賊の顔が至近に迫り、髭面がニヤリと意地悪く笑った。
「すばしっこいだけのヒヨッ子じゃねえか。生意気だぜ」
ガッと鳩尾を蹴られ、一瞬呼吸が止まって膝が崩れる。ルインが何か叫んでいるが、よく聞き取れない。
金属が擦れる音がした。
海賊が予備の武器でも抜いたのだろう、身の危険を感じて、何とか逃れようと暴れる。
瞬間、
バリバリバリッ——!!
白い電光が視界を
「ぼ、ボクが相手だっ……!」
切っ先が震えているが、ルインの碧眼は真剣だ。今のは彼が放った雷魔法だろうか。
ラディンは少し下がって彼と並び、痛みが残る腕と腹を触って確かめる。大きな傷はなく骨も無事、まだ戦えそうだ。
とはいうものの、勝ち筋が見えたわけでもない。
「ありがと、ルイン」
「ううん、……音は派手だけど、あんまり威力なかったかも」
なんとなく顔を見合わせたら、不思議と安心感を感じて口もとがゆるむ。
海賊は
「ガキどもが、まとめてサメの餌にしてやる」
「なんとか逃げられないかな?」
「無理だよ、本気で怒らせちゃったし」
「うぅ……勝てるかな」
涙目でルインが聞くので、ラディンは答えず肩をすくめた。運を天に任せて、だ。
自分一人なら全力で走れば振り切る自信はあるが、ルインとモニカのどちらかあるいは両方が捕まってしまうのも、目に見えている。
だが——海賊が動こうとし、ラディンが身構えたその時。
予想外のことが起きた。
「オジさん、動いちゃいけないわ。じゃないといくら首の太いオジさんでも、ほぅら、あっという間にバイバイよ」
海賊の後ろから、甘えるように囁く女性の声が聞こえたのだ。
「なんだ、おめえは……」
太陽は傾き、路地の影は深みを増している。
大柄な海賊の影に溶けるように立つ、黒い翼と小柄な影と。目を凝らしてみれば、海賊の首には細くて黒光りする紐が巻きつけられていた。
この手の稼業に慣れているであろう男の背を気づかれることもなく確保しておいて、闇色の女性は可笑しそうにふふっと笑う。
「あら、ただの通りすがりの
一介の
甘く紡がれる死の誘いに海賊は目を剥いて身震いし、ラディンもまた、金縛りにあったように身動ぎすらできなくなっていた。
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