[3-2]銀河の属性
ライヴァン帝国とティスティル帝国の興りは千年ほど昔と言われている。
当時は戦乱の時代で、暴虐を尽くす
だが、十年前にライヴァン帝国でクーデーターが起きて、建国王の血筋ではない者が王座を奪った。
それは当然
彼の苛烈な施政は三年前に突然、終わりを迎えた。炎帝は不意の病に倒れて帰らぬ人となり、まだ若い皇太子が後を継いで王となったのだ。
それが、シャーリーアが広報誌や書物によって知っている大陸の現状である。
魔術や芸術への関心が高い国とは聞いていて、いつか行ってみたいとは思っているが、一人で訪ねるにはリスクが高い。
だから、目の前の
黙ってしまったシャーリーアを気にする様子もなく、リーバは話を続けている。
「私の育ての親は、
驚くべき告白に、シャーリーアはこくりと息を飲む。
故郷では、そういう話を聞いたことはない。しかし、自分が生まれる前の話なら、忌まわしい出来事として大人たちが口を閉ざしている可能性も考えられる。
その目的は様々だが、少なくともリーバの場合は『喰う』目的でさらわれたわけではなかったのだろう。
とはいえ、彼が逃げ出してすぐ会った
そしていずれにせよ、突き止めるのは不可能と言えるくらいに難しいだろう。
手段は皆無ではないが、結局のところ高額を積んで腕のいい占い師を当たるか、相当高位の魔術師を当たるかしかないからだ。
「私は、自分の出自を知りたいんだ。私にとっての故郷……故郷とはもう呼べないかもしれないが、それを知らなければ、どこにも帰れない気がして。いや、帰る場所なんて、始めからどこにもないかもしれないけどね」
言葉の最後はあきらめのような響きを帯びていた。
嘘であるとか、何かの目的で自分を騙すための演技だとは思えなかった。
助力できるものなら、同族でもあるし何かしてやりたいと思うが……手がかりが何もないのでは打てる手もない。
「出自を示すようなものはないんですか? 持ち物とか、憶えていることとか」
「何もない、手掛かりになるものなんて何も持ってない。名前すら、ニーサスがつけたものだからね」
沈んだ声でリーバは応じ、シャーリーアはそれを受けて思考に沈む。
ここまで推測材料がないのであれば、占術を頼るのが最善かもしれない。
彼の所持金がどれほどかはわからないが、能力の高い
そう伝えようとシャーリーアが顔を上げた時。
「あ、言い忘れていたけど私は無属性なんだよ」
リーバが言った。シャーリーアは思わず目を丸くする。
個人の属性は、当人の生命維持に関わる精霊の特徴によって決まっている。扱える魔法系統だけでなく、研究者の間では体質や気質にも影響を与えると言われているらしい。
無属性は銀河の属性とも言われ、一般的な『火、水、風、土、光、闇』とは異なる系統だ。あるいは、属性が『無い』と言い換えてもいいだろう。
彼らが扱える魔法は特別の系統であり、高位の魔法使いともなれば、精神や時間、魂や星への干渉力さえ有するという。
そして無属性の者は、非常に珍しい存在だ。
一国に一人、現れるかどうかと言われている。
「……なるほど」
シャーリーアには、ニーサスという
その
「そういうことでしたら、手はありますよ。リーバさん」
確信を込めた声でシャーリーアはリーバを見る。
シャーリーアの自信に満ちた言葉に、リーバの表情が少し明るくなった。
「本当に?」
「ええ。『無属性の者は国家により保護されねばならない』というのが、精霊の統括者により定められた
正直、彼の故郷探しに関して自分ができることは何もない。
城であれば占術にしても魔術にしても腕のいい者が揃っているだろうし、万が一
リーバはキョトンと目を開いて、シャーリーアの言葉を
「ありがとう。……ところで、保護を求めるってどうやって?」
「冗談でしょう? 王城の
正真正銘の世間知らずだった。
呆れながらもどこか憎めない気分を持て余しつつ、シャーリーアは立ち上がる。
本当に何も知らないのだ、この青年は。この年齢になるまで、いったいどんな仕方で養育されてきたのだろうと勘繰ってしまう。
頼りないことこの上ないし、道中でロクでもない何かに巻き込まれる未来が見えるようだ。
まあいいさ、シャーリーアは胸中で独白する。
無属の者と逢えるなんて、一生に一度あるかないかの経験だ。もしかしたら無属系統の魔法を目にすることもできるかもしれない。
別に急ぐ用があるわけでもないし、困っている者、それも同族に対して親切を示すのは当然だろう。
誰に問われるわけでもないのに、そう理屈づけて自分を納得させ、シャーリーアはリーバを連れて図書館を後にした。
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