第49話
「何いってるのよ、これまでだってこの部屋で寝起きしながら良壱の食事を拵えてきたでしょ。まあ、調理道具が揃ってなかったからまともな料理はできなかったけどね」
清架は、いったあと右手で髪を押さえつけながら俯いた。
「まあな。そうしてくれれば俺はずいぶんと助かるんだけど、清架の両親に何て説明したらいいんだろう」
「良壱が心配してくれるのは本当に嬉しいんだけど、私ももういちいち親の許可を得る歳じゃないから。それと前にもいったけど、私も人の役に立つことがしてみたいと思ってる。私としては、いまは無理だけど、行く行くは良壱のような特殊な能力を見につけれたらなあとも思ってる」
清架は心底からそう思っているらしく、良壱に向ける顔の目もとにそれが現れていた。
「能力っていっても、そう簡単には……」
「わかってる。簡単に見につくなんてそんなこと思ってない。だけど良壱だってもともと特殊能力があったわけじゃないでしょ? だったら私だって努力すればできると思う。いや、きっと習得して見せるわ」
「確かにいうとおり、あの冬の朝の突発的な事故が原因でこの能力を授かったと思うから、全面的に否定することはできない。まあそれほどまでに清架がいうんだったら俺も協力を惜しまない」
「ほんと? よかった。それはいいんだけど、早いうちに一度ご両親の金沢に顔を見せに帰ったほうがいいんじゃない? そのほうが私も安心して良壱の体調管理ができるから」
清架はほとんど冷めてしまっているマグカップを口もとに持って行った。
「ああ、そういうことなら、一日も早く体調を元に戻して母さんたちに顔を見せるようにする。そして俺のやってる仕事を胸張ってちゃんと話すよ」
「そうね。良壱が仕事をはじめるのを待ってる依頼人が大勢いるから、その人たちのためにも早く復活しないと」清架は優しい笑みを浮かべながらいった。「それもそうだけど、バタやんのことすっかり忘れてたわ。急いでペットの葬儀屋に連絡しないと」
清架は部屋中を見回してスマホを見つけると、画面を何度も上下にスライプさせはじめた。
良壱は壁に凭れかかると背中を丸めている清架を一瞥し、マグカップを手にしたまま視線を天井に向けた。その横顔には希望が漲っているように見えた。
(了)
奇妙な宅配店 zizi @4787167
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