第21話 ジュラル山
「冒険者ギルドニ要請シタノデスガ……巻き角の魔獣ヲ恐レテ、引キ受ケル者ガイナカッタデゴザル。辛ウジテ、流レノ冒険者ガ引キ受ケタデゴザル」
山と言っても、岩ばかりの荒山で、資源として利用する価値もないのでこれまで山に入るものはいなかった。好き好んでA級モンスターと戦いたい者は多くはない。
「流れの冒険者ね……曰くつきの山によく行く気になったわね」
「桃苔ノ話ヲシタラ、乗リ気ニナリマシタ」
「ふ~ん。さすがは利に敏い冒険者ね。構成はどうなの?」
「経験5年ノ戦士2人ニ、神官一人、エルフノ、レンジャーガ一人デゴザル」
「エルフ?」
私は聞き直した。この世界には人間以外の種族が多数いるが、人間と意思疎通して行動できる種族は数えるほどである。
多くは自分たちの国で暮らしているのであるが、冒険者になり人間の国で活躍するものもいる。
エルフという種族は前から見てみたいと思ったので、この豆蔵の紹介する冒険者グループに興味をもった。
「ミコト様ハ、ウェザードト言ウコトニナッテイルデゴザル。ソレデヨロシイゴザルカ?」
「いいでしょう。マントで全身を覆って股引きを被るので、まさか子供がウィザードだと思わないでしょう。小さい人、ハーフフットの魔法使いということにしておいてください」
私の背丈は悲しいことに130センチ台である。子供では一緒に冒険してくれないから、背が小さいハーフフットと呼ばれる亜人間を装うことにした。
私の目的は巻き角の魔獣が出没する山で桃苔を手に入れること。これを煎じた汁をジータに投与して彼女の命を救うのだ。
私と豆蔵は待機させていた冒険者に会いに行く。
「お前がウィザードか……ハーフフットのウィザードとは珍しい」
「よろしくお願いします。私の名前はキラーラビット……」
私はそう名前を偽った。キラーラビットというのは、先日の山賊退治をした勇者の名前だったが、それを借りることにした。
桃苔入手のクエストを請け負った冒険者パーティとの対面。私は顔を隠して自己紹介した。
「キラーラビットね……どこかで聞いたような名前だな。俺はバーナード、ごらんのとおり、戦士を職業にしている」
パーティのリーダーの男、バーナード。年齢は29歳だという。ちょっと自信をつけた中堅冒険者という風体である。装備は徹の胸あてにブロードソードにラウンドシールドとオーソドックスな装備。奇をてらわない姿が安心ができる。
「わたしはレイン。バーナードと同じく戦士をしているわ」
もう一人の戦士は女性。この人の装備は革鎧。その下には軽い鎖帷子を身に付けている。女性であるので、パワーよりもスピードを重視した防具選びであろう。剣は細身のレイピアである。
神官をしているグローリーは、中年の男。身長は180センチ、体重100キロ超の巨漢神官だ。神官服の下に鎖帷子を着込み、巨大なメイスを右手で持っている。回復魔法や防御魔法をいくつか使えるらしい。
そしてエルフ。名前はシャオミ。期待通りの金髪くせ毛の長い髪。耳は長くエメラルドグリーンの大きな目。華奢な体はまさにエルフ。残念ながら胸は細身の体に合ったナインペタン。これは仕方がないだろう。巨乳エルフじゃないとファンタジ―好きにはつまらないだろうが。
このエルフのシャオミはレンジャーらしく、弓とナイフで武装している。防具は布の服に片胸だけの胸当て。革のブーツがいかにもエルフらしい。
「キラーラビットという名前は聞いたことがあるわよ。山賊オーガヘッドの一団を葬ったとされる小さな勇者だとの話だけど」
どうやら、このエルフ。私の活躍した話をどこかで聞いたようだ。バーナードはそれを聞いて目を輝かせた。
「どうりで聞いたことがあるはずだ。あなた様が、あの小さき勇者様でしたか!」
「さ、さあ……別人じゃあないでしょうかね」
私は話をはぐらかしたが、それがかえって真実味を増してしまったようだ。バーナードは思い出したように噂に聞く私の武勇伝を語り始める。
「悪逆非道の山賊を100人葬っただけではなく、ゴブリンの軍団も軽く倒したと聞きます。さらにドラゴンも倒したというドラゴンスレーヤーという噂も……」
(おいおい……どれだけねじ曲がった噂ですか……)
噂というものは大げさに伝わるものだが、これはあまりにも盛り過ぎである。
「まあ……そういうこともあったような、なかったような……」
「おお、さすがは勇者様」
「その力、是非とも見たいものですな」
「小さき勇者様と一緒に行動すれば、この任務も楽勝。不可侵の山と呼ばれているが、例え、巻き角の魔獣が出ても安心です!」
そうバーナードたちは目を輝かせて私を褒めた。関心なさそうに弓の手入れをしているエルフのシャオミ以外は尊敬のまなざしで見ている。
正直、その視線が痛いが今回は私も少しは余裕がある。
その余裕は戦利品によるものである。
それは前回の山賊との戦いで敵の魔法使いから奪った魔筆と魔道書。
あのウィザードから奪った魔筆は南方産のサザビー種と呼ばれる馬の尻尾の毛で作られたというもの。高級品らしく、豆蔵が言うには店で買えるレベルではかなりいいものらしい。
但しランクは『ハイノーマル』。しかし、この道具のおかげでレベル2の魔法が発動できる。
しかも奪ったポケットサイズの魔導書には、6種類の魔字が記されていた。
一つは「壁」。これは見えない透明の壁を発生させる。これで物理攻撃、魔法攻撃を一定時間防げるらしい。使いようによっては有効な魔法だ。
2つ目は「快眠」。眠りの魔法の上級バージョンだ。これで集団を眠らせることができる。これはあのウィザードが使った奴だ。
私が使える『眠』より上級。但し、眠りの魔法は人間や亜人間にしか効果がない。魔法抵抗がある者へは、あの山賊のウィザードが私を眠らせなかったことからも分かるように、効果が出ないこともある。今から対峙する巻き角の魔獣には、効果がないと思ったほうがよいだろう。
3つ目は「氷矢」。氷でできた矢を放つ攻撃魔法。4つ目の「炎矢」はこれの炎バージョンだ。これらは待望の攻撃魔法だ。
5つ目は「水」という魔法。唱えるとコップ一杯分の水を召喚することができる。水は浄化されたもので飲める。砂漠を旅行するときには便利かなと思う。少なくとも水筒を持参しなくてもいい魔法だ。
そして最後は「倍」。これは攻撃を2倍にする魔法だ。例えば、「炎矢」と書いた魔紙にこの「倍」と書いた魔紙をくっつければ、2倍になるのだ。
これらの魔法は決して強いわけではないが、魔力が無限の私が使うからそれなりに役に立つだろう。それに冒険者パーティの目標は巻き角の魔獣退治ではなく、桃苔の採取。
巻き角の魔獣に見つからないでそれをするのが作戦のスタンスだ。彼らも自分たちの実力を知っている。
「それじゃ、行くか」
リーダーのバーナードはそう出発の合図をした。
目的の山は町からそれほど離れていない。入ってはいけないとされ、風土病の感染源である生物が住むエリア。
そして巻き角の魔獣がうろつく、殺伐とした岩山なのだ。
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