第16話 汚物消毒

 私は行動を起こした。まずは戦力。私は腰に付けたポーチから、竜の牙を取り出した。これを地面に撒くと竜牙兵が現れるという。私は馬車の幌の隙間から牙をばら撒く。

「混沌の先兵、龍の申し子、竜牙兵、我の召喚に応えよ!」

 神様に教えてもらった超恥ずかしい言葉を唱えて、右手の平を地面に撫でまわすようなジェスチャーをする。誰も見ていないから、我慢する。

 するとどうだろうか。地面がもくもくと盛り上がると、そこから頭に角の生えた骸骨が生まれた。右手には剣。左手には盾を持つ戦士だ。

「な、なんだ!」

「なんで化け物が現れるのだ」

 これには山賊たちも驚いた。突然、地面から何の前触れもなく骨の戦士が現れて、剣を振りかざして襲い掛かってきたからだ。その数7体。竜牙兵は1体でベテラン戦士3人と同じ力をもつ。

 その竜牙兵が7体も現れて、山賊たちに斬りかかる。大混乱に陥る山賊たち。

「さて、私も戦いますか」

 私は馬車の後ろからそっと地面に降りた。武器は馬車に中にあった鋼鉄でできたお玉である。野外で使うから家庭用よりも大きなもの。だからと言って、このままじゃ武器にもならない。だから、私は魔法を使う。

「我、記せし、世界を欲する」

 空中に現れた魔紙(MOP)。本当はここで『大虐殺』と書いたら、山賊全員を地獄に送りこめればよいのだけど、残念ながらケチな神様のせいで使えるのは、1人を眠らせる『眠』と1人を魅了する『魅』。そして力を強化する『強』の3つである。

 この状況で使うとしたら当然、『強』しかない。私は目の前に10枚の魔紙を召喚している。

「強(ストレングス)×10」

 一度に10回の複数発動。私の∞魔力のなせる業である。『強』の魔法は私の身体能力を強化する。まずは筋力の増強である。

これを使えば幼女の私の力でも、怪力自慢の成人男性をはるかに上回る。そして鋼鉄製おたまにも強化の魔法を使用する。これで平凡な調理器具が、破壊力満点の山賊(バンデット)スレーヤーとなる。

「ふうふう……なんだか、みなぎる筋力を感じるわ~」

 見た目はただの幼女である。しかし、その筋力はダンプカーと衝突エネルギーと同じ力。足の筋力は通常の大人の3倍で動くスピードを出せる。そして、攻撃力999という数値。繰り出す技は通常の人間では出せないレベルのものである。

 私は竜牙兵と交戦中の山賊たちにひょこひょこと近づいた。一応、正体はばれないように体はマントで覆った。顔を隠さないとと思ったが、適当なものがない。

一応、ガインのおっさんの股引きがあったのでそれををかぶり、穴を開けて目を出した。両足部分が兎みたいになっている。何だか、滑稽な格好でなりは小さいから、威圧感は全くない。

「な、なんだお前は!」

 竜牙兵との戦闘で混乱する山賊の一人は私を見下ろして、こういった。1体の竜牙兵を3人がかりで破壊し、肩で息をしている。たぶん、状況に混乱してのことだと思う。

 私は右手の甲を自分の額に当てて、この男のステータスを見る。神様からもらった個人情報公開の能力だ。


ロッパ 男 38歳 山賊 オーガヘッドの一員 魔力0 攻撃力67

殺した人間9人。先日も村を襲って2人を殺した。かなり極悪である。


(ああ、こいつは処刑しても大丈夫な奴ね)

 私は上を見上げてニヤッとわらった。大男のロッパのちょうど股間くらいが私の身長だ。

 私の強化の魔法でダイヤモンド級に強度の増したお玉が光る。


「必殺、汚物消毒(ゴールドクラッシュ)!」

 お玉を山賊の男の股間に打ち付けた。魔法で強化されたお玉と私の筋力。そのコラボは自動車のドアを一撃でへこませる衝撃。それが急所の1点に放たれる。

「うぼっ!」

 男は短く叫んでその場に崩れ落ちた。女性を誘拐して暴行する性犯罪者は、股間を破壊して不能にするに限る。

「天誅だわ。さて次の極悪人は……」

 私は次のターゲットに狙い定める。あの魔法を使ったウィザード。魔法が使えるのに悪に使った悪人である。

「お、お前はなんだ……そんな小さいのにそんな力が……あ、まさか、魔法か!」

 私はウィザードの個人情報をゲットする。

 

アッサム ウィザード 38歳 魔力97 冒険者であったが、思ったよりも稼げず、女性にもモテなかったので、オーガヘッドの一員となる。女にモテなかった僻みで、犯した女性は10人以上にのぼる


(完全なクズだわ!)

「まさかじゃないわ、この女の敵め~」

 私はお玉を振りかざす。下から上へ向かってスイングする。

「ぐぼああああああっ……」

「天誅、汚物消毒スペシャル!」

 ウィザードは散った。もう二度と女性に悪さはできないだろう。地面にこのウィザードが使った筆が落ちている。毛を見ると神様からもらった私のノーマル筆よりも上等な感じだ。

「これはもらっておきましょう」

 私はこの山賊ウィザードから筆を奪い取った。材質のよい筆ならば、より高度な魔法を使用できるのだ。さらにこいつは小さなサイズの魔導書を持っていた。ポケットタイプのものである。魔法のポシェットに素早くしまい込む。ありがたくいただいておく。

「次の奴!」

 私は走って次の標的に向かう。同じく竜牙兵を倒した山賊だ。ロッパとアッサムがやられたのを見て唖然としているから、こいつは楽勝だ。あっという間に地面にうずくまる。

「うあああああっ……」

「ぎゃああああっ……」

 手ごわい竜牙兵との戦の中で、素早く動いて次々と股間を破壊する私に山賊たちは次々と地面に転げまわった。

ゴキン、ゴキン、グシュッ。

私は動き回ってお寺の金を打つかのように、お玉をぶつけていく。

「必殺、汚物消毒(ゴールドクラッシュ)!」

「必殺、汚物消毒(ゴールドクラッシュ)!」

「必殺、汚物消毒(ゴールドクラッシュ)!」

 潰した数13人。これでオーガヘッドの戦力ははほぼ崩壊である。

「この化け物がああああっ!」

 副隊長のグレンである。ピクッと肩を動かし、私に向かって剣を振るってきた。さすがは衛兵隊の副隊長である。私は避けそこなって、頭に被った股引きが裂けた。破れて素顔が晒される。

「な……子どもだと!」

 私が幼女だと知って、グレンは驚いた。そりゃそうだろう。こんな小さな女の子が凶悪な山賊をほぼ全滅させたのだ。

「フフフフフ……」

 私はゆっくりと右手の甲を自分の額に付けた。男の頭上に文字が浮かぶ。


 グレン  ストックガルド駐在衛兵小隊 副隊長 36歳 攻撃力135

 ケインに隊長の地位を奪われて腐っている。前から山賊とつながり、その分け前をピンハネする極悪人。


(あ、こいつ、やっぱり雑魚だった)

「子供でも容赦はしない、ここで死ね!」

 ブロードソードを振り上げ、子供の私に斬りかかる。躊躇しないその態度は、この男の残虐性を表す。もはや、同情なんて1ミクロンもない。すべて浄化するのみ。

 私はグレンの3連撃を左右に体を揺らすだけでかわした。最後の横なぎの一閃はひょいとジャンプする。

「うっ!」

 着地した瞬間に私はグレンの懐へと飛び込んだ。私と目が合ったグレンの目は徐々に恐怖に侵食されていく。

「せいの!」

 私はお玉を股間にぶつけ、そのまま跳ね上げた。そのまま、空へと舞い上がる裏切り者。

「ぐああああああああああああああっ……」

「貴様、悪魔か!」

 山賊のリーダーが私に向かって襲い掛かってきた。手にしたカトラスを振りかざす。だが、その動きは私にとっては実に緩慢。強化された私の身体の動きは到底捕らえられない。

 振り回される剣の刃を潜り抜け、私は山賊の頭の懐へと飛び込んだ。

「これでおしまいだわ!」

「ちょ、ちょっと待てくれ、降伏する、罪を償う……頼む助けてくれ……な、な……」

 リーダーは慌てて両手を広げて私に命乞いをしてきた。先ほどの勇ましさとは違った弱弱しい態度である。

「俺はオーガヘッドに入って間もないんだ。悪いことはあまりしてないんだよ。それに免じて許してくれ。もうしない。真面目に働くから……」

私は黙って左手の甲を額に当てる。この男の個人情報を読み取るのだ。


ジョーンズ 42歳 元オーガヘッド第2隊隊長 攻撃力123

残忍で冷酷。これまで殺した人間は100人を超える。命乞いしても笑って無視する冷酷漢。さらに、相手に憐れみを誘って不意を討つ卑怯な手も使う。


(ああ……やっぱり最低のゴミだったわ)

「フハハハハッ、やはりガキはガキだな、あの世でママのおっぱいでも吸ってろ!」

 私が許すつもりで攻撃を止めたと思った山賊のリーダー。大笑いして剣を振り上げて私を頭から真っ二つにしようとした。

 だが、その刃は空を切り、地面へと突き刺さった。私は軽くジャンプをしてリーダーの後方へ回る。

「あなたがそういう卑怯な手を使うことは分かっていましたよ」

 私は振り向きざまにお玉を山賊のリーダーの股間めがけてすくった。強化された鋼鉄が股間を直撃する。

「ママのおっぱいを飲むのはあなただわ」

「ぐああああああああっ……」

 山賊の頭が倒れた。私の必殺技の前にもろくも崩れ去った。そして、戦いの帰趨も決まった。山賊たちは一人残らず、股間を破壊されて転げまわっている。

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