第14話 護衛の兄弟
衛兵部隊の詰め所を後にしたガインのおっちゃんと私。次に冒険者ギルドへ向かう。ガインのおっちゃんは、先ほどの私の演技を褒めた。
「ミコト、お前は賢い子供だとは思ったが、俺の予想を超える賢さだ」
そう私の頭を撫でる。顔もニコニコしている。
(この程度で褒めなくてもいいですから。この私、傾国の美女になる器ですからね。この程度の演技で褒められるのは当たり前です)
ここで昨晩の怪しい男たちの話をしようと思ったがそれは止めた。話したとしても夜に出歩いたことを叱られるだけだ。
それに話したところで都へ行くことはやめられないし、衛兵隊と一緒に行動して、さらに護衛まで付けるという鉄板の警備体制。
あの副隊長のことは気になったけれど、衛兵と一緒に行動するのなら、山賊の小集団程度では、手出しはできないだろうと考えたのだ。
やがて、この小さな町にある冒険者ギルドに到着した。目的は護衛の依頼。衛兵隊と一緒に移動することに加え、自前で専属の護衛を雇うのだ。
受付で依頼事項を申し出ると、すぐにこのクエストをやりたいという冒険者が現れた。小さな町だけにクエストが少なく、冒険者は仕事にあぶれていた。
「ガインさん、俺たちが護衛すれば大丈夫ですよ」
「この町じゃ、兄者とこの俺は有名だからね。まず、普通の山賊は襲ってこないよ。それにゴブリン程度なら、俺たちを見て襲おうなんて思わないね」
そういって2人の屈強な戦士が白い歯を見せて笑う。日に焼けた肌が真っ黒で鎧も年季の入った皮鎧だから、ますます歯が白くみえる。
二人の名前はグラッスス兄弟。兄のライアンと弟のデビットの戦士コンビ。兄は大きな戦斧を武器とし、弟のデビットは槍(スピア)を装備している。
「ああ、君たちの腕は期待しているよ。ただ、先ほど衛兵隊の出張所で聞いた情報では、あの凶悪な山賊集団オーガヘッドがこの方面に移動してきているということだ」
そうガインのおっちゃんは、先ほど知った情報を話した。オーガヘッドという山賊は、国から指名手配されている武装集団。冒険者なら、その噂は十分すぎるほど知っている。
彼らは商人のキャラバンを襲い、男は殺し、女は捕らえて犯す。そして奴隷として売り飛ばす。金目のものは全て奪いつくすと言われていた。
「ガインさん、それはただの噂ですぜ」
「オーガヘッドがこの辺まで逃げてくるはずがない。それより、ゴブリン。奴らは間違いなくいますからね」
そうグラッスス兄弟は余裕をかましている。私はそんな態度が少し、不安になったが、ガインのおっちゃんは満足そうだ。これだけの警戒態勢をすれば安心だという経験からくるものだ。
やがて、ガインと私、このグラッスス兄弟は馬車まで戻ってきた。
「俺たちが護衛をする。安心してくれ。次の町までよろしくな。がっはははっ!」
「それにしても若い女の子はいいなあ。俺たちもいつか金を貯めて都の妓楼で遊びたいものだぜ」
私やジータはともかく、2人のお姉さんを見て少しエッチな目で眺める兄弟戦士。どうやら、女には不自由してそうだ。
「2人とも、その時は私を訪ねて来てくださいや。リーズナブルだけど、いい子がいる店を紹介するんで。でも、奥さんはいいんですかい?」
ガインのおっちゃんはそう話を合わせる。いざという時に命をかけて戦ってもらわないといけないので、機嫌を取っているようだ。
「はははっ……ガイン殿。嫁なんていないぜ」
「貧乏冒険者には、嫁など養えねえからな」
そういって豪快に笑う2人。
(ああ……何だかかわいそうだ……)
私はそう思った。この世界、嫁をもらうには相当な持参金がないともらえないのだ。この制度のおかげで結婚できない男が結構いる。財産のある男は嫁は4人までもてるらしく、女性は嫁ぎ先にはあまり困らない。
その結果、嫁をもらえない男たちは妓楼で一晩妻を求めるというわけだ。
(そう言う理由で私たちは買われていくというわけだけど……)
残念ながら、この2人がどんなにお金を貯めても、私がこれから売られる高級妓楼で女は買えない。
だって、高級妓楼だと少なくとも一晩2万ガル(日本円で約10万円)はする。しかも一見さんお断りだから、その10倍払って常連客にならないとHなことはできないのだ。
この2人の依頼料は、次の町までのまる1日の護衛で一人2千ガル(日本円で1万円)。
(ほぼ無理でしょうね。そしてこの二人。ちょっと見、強そうだけど、私は騙されない)
2人とも30代後半。それで嫁なし。そして、小さな町を根城に護衛任務を引き受けて細々と暮らしてしている冒険者ということを考えるとあまり期待できない。
(普通に考えて、腕は田舎の腕自慢程度でしょう……。力任せしか能がないイノシシ戦士)
(でも、ゴブリンや山賊の2,3人なら役立つかな)
腕の立つ冒険者なら、もっと大きな町でもっと稼げる仕事を請け負うだろう。嫁なしということは、この世界では稼げていないということと同義だ。
本当は強力な魔法を使えるウィザードや支援魔法が使える神官がいればよかったのだろうけど、そんな人間が小さな町にいるはずがない。
でも、ガインのおっちゃんは護衛が付いているという事実を重視したようだ。これは予防的な意味合いでの防犯対策。護衛まで雇った馬車をわざわざ襲うことはしないという判断だ。
防犯対策をしておけば、空き巣はもっと楽ができる家を狙うので狙われないという発想である。そして衛兵隊との帯同。もう鉄板である。
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