第9話 奴隷市

「さあ、競り市だ。お前ら順番に並べ」

 ワイワイと騒がしいところへ私たちは引き立てられた。ちょっと段になったステージに私たちは並べられた。まるで牛や馬の品評会みたいなところでこれには屈辱を感じる。

(奴隷が存在するというだけで人権侵害のとんでもない世界だわ。歴史を遡れば、元の世界でも奴隷がなかったわけじゃないのだけど……)

 人間の文明が進み、その精神が高みに上るに連れて、奴隷制度はおかしいという考え方ができるようになる。いや、人間の精神の成長もあるだろうが、生活が豊かになれば自然とそういう制度はなくなるのかもしれない。

 私はこの時、思ったのだ。いつか私が傾国の美女となり、この国の権力者になったなら、この奴隷制度はぶっ潰すのだと。

 奴隷が果たす労働力の問題とか、経済効果だとか関係ない。やはり、人間は権力のある者もない者も、金持ちでも貧乏人でも、男でも女でも、大人でも子供でも、老人でも若者でもみんな平等なのだ。平等でない世界はいらない。

(平等じゃないこの国は私が滅ぼしてやる!)

 そんな思いを抱きつつ、私は傾国の美女になる第一歩を踏み出す。すなわち、ステージに上がって品定めの目に晒されるのだ。

 ざっと客は50人あまり。いろんな人がいる。女性もいるから様々な職業の人間が来ていると思っていい。さすがに一人ひとり、ステータスを確認するのは面倒なので止めた。

 私の作戦では、この奴隷競り市の常連であるガインのおっさんに高値で競り落とされること。

 高値というところにポイントがある。高値だとガインのおっさんは、絶対に高級妓楼に売るからだ。じゃないと商売にならない。

(問題は相場がいくらかということ……)

 神様からもらった基本情報でこの世界の貨幣は『ガル』という単位で魔法で管理された架空のお金である。みんなマジックペイと呼ばれるカードに記録されたこのガルの残高でやりとりするのだ。

 このマジックペイ(通称マジペ)は、カードに記憶された本人の指紋と目の色彩による瞬時の認証と頭に浮かべた4桁の暗証番号で管理されており、その安全性は幾重にもガードされた魔法によってガードされている。

 魔法はともかく、これは転生前の日本よりも進んだ制度である。日本でキャッシュレスが外国より進んでいないのは、治安がよくて偽札偽造が少ないというお国柄のおかげであるが、そうじゃない国はキャッシュレスが進んでいるそうだ。

 アフリカなんかは、携帯電話でお金のやりとりができるくらいに進んでいる。携帯電話はどんな小さな村にも普及しているのに、銀行がないという環境がそうさせているらしい。

 この異世界も似たようなものだ。よくあるファンタジー世界の金貨や銀貨なんて、重くて運べないから、この魔法が仲介するシステムは画期的である。

 無論、金貨、銀貨による貨幣もあることはある。これは過去に使っていたものの名残で、流通はわずかであるが町でも使えないことはない。この国の金貨1枚は1万ガルと同等。銀貨1枚は2000ガルだ。銅貨はその20分の1の100ガルというのが相場だ。

 ちなみに日本円との比較は物価との関係で推察するに、1万ガル=5万円というところ。金貨1枚5万円なら、それほどの違いはない。

 ずっしりと重い金貨の袋は質感が心地よく、利便性よりもあえてこちらで保管するという人間も存在する。また、魔法で管理されることを嫌う連中や、マジペが発行されない犯罪者、無法者はこの貨幣を使うしかない。

「さて、お待ちかねの商品だよ。まずは1番。18歳の南部カヤネ地方の出身。髪は見ての通りの赤毛。少し縮れているが容姿はまあまあ。最低価格は80万ガルだ」

「90万ガル」

「110万ガル」

「120万ガル」

 どんどんと値が上がり、最終的には135万ガルで最初のお姉さんは競り落とされた。買ったのは女衒商人である。これを皮切りに女の子たちは、どんどんと競りにかけられる。


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