第7話 天然ジータ

「ねえ、ミコちゃん、このご飯、美味しいずら……」

 昼になった。お昼ご飯もちゃんと用意されていた。今度は調理された熱々のもの。湯気が立った食べ物に閉じ込められていた女の子たちも心が少しだけ緩む。

 粗末な木製のお椀でミルク粥を貪るように食べているジータ。鼻の頭に粥の汁が付いている。昨日まではこのような温かい料理は食べていないから、餌に群がる子豚のような食べ方になるのは分かるが、もう少し品を持とうよと言う目で私はジータを見た。

(この子の容姿なら、妓楼の見習いになる可能性はあるけど、このままじゃ高級店は無理ね。気品がないから。磨けば光る可能性もあるかもしれないけどね……)

 私はミルク粥を食べた木のスプーンをナメナメしているジータの姿を見て再び迷った。同じ村の幼馴染設定のジータを見捨てるかどうかということをだ。

(傾国の美女を目指すには不必要な子だけど……私の下僕としてなら一緒に行動してもよいと思ったけど、今の状況からできるかしら……)

「おい、お前ら、食事を早く済ませろ。済ましたら、この服に着替えるんだ!」

 男が3人、大きな木箱や水の入ったバケツをもって怒鳴った。係りの男たちだ。ここは奴隷の一時預け所のような場所なので、男たちは手慣れたものだ。

木箱の中には古着のドレスが入っている。みんな汚いなりだから、売る前に小奇麗にするらしい。

 まずはバケツに入った水にタオルを浸し、絞って体を拭く。みんな黙々と行っている。

「ミコちゃん、わたすが体を拭いてあげるずら」

 そう言うとジータは水で濡らしたタオルを固く絞り、私の背中を拭いてくれる。微妙な力加減でなかなか上手だ。

私はこれで決めたことがある。自分の運命はとっくに決めたが、このほんわかした幼馴染の運命も決めてやったのだ。

(うん、ジータ、これは気に入ったよ。あなた、私と一緒に来て私の身の回りの世話をしてもらうわ)

「ジータ、上手だね……」

 ジータを褒めると嬉しそうにどんどんと仕事を進める。この子は召使いになると、なかな気が利いて重宝しそうだ。

(うん、決めた!)

 私は心の中でジータを見捨てる選択を破り捨てた。使えるのなら助けるべきだし、一応、幼馴染設定で生まれた時からの友人らしいから、見捨てると後味が悪そうだ。

「お前ら、体を拭いたらこの服を着ろ。下着も取っ替えるんだぞ!」

 そう言って粗末な木箱に無造作に詰められた古着の山。中にはパンツやシミーズ、ブラジャーなんかともにシンプルなデザインのワンピースが何着もある。

(これは助かる~。正直、汗臭くて下着もドロドロなんだよね。古着でも助かるわ~)

 正直、下着の古着はどうかと思うが、この世界は魔法はあるけど文明レベルは低い。下着を多量に作る工場もないから、新品は高いに違いない。

「ミコちゃん、これなんだべさ?」

 ジータがブラジャーをお約束のように頭に載せている。帽子か何かと勘違いしているようだ。

「ジータ、それはブラジャーだよ」

 私は教えてやった。それを聞いてジータはパッと顔を輝かせた。わかったという顔だ。

「これがブラジャーずらか。初めて見るずら。家じゃ、おっかあは布巻いていたずら。ミコちゃん、わたす、このブラジャーを付けてみるずらさ……」

 ジータがブラを取ってみるが、それを収めるふっくらまんじゅうなんてもってない。だから、ぽろりと落ちる。

(はいはい、お約束だね)

「ああ、無理だったずら」

「ジータ、それは無理だよ。もっと大きくなってからだよ」

 私は一応、そういったが生まれ変わる前に自分がいくつでブラジャーを付けたか思い出そうとした。

(ああ、たしか中2だったわ)

 そこから結構成長はしてくれたが、もう少しがんばってくれたら、セクシーグラビアアイドルの方面でもスカウトされたかもしれない。

 さて、下着を付けると今度はワンピース。これまで落ち込み気味だった女子の集団が色めき立った。やはり女は服を選ぶときは、どんな状況でもうきうきしてしまうのだ。

年齢がいってるお姉さんたちからすると、ここで少しでもかわいく見られようと、必死でかわいい服を物色している。

 少しでも高値で買われることは、これからの自分の運命を変えると自覚しているのだ。だから、競うように箱の中の服を探す。

かわいい服を着るという点では、私も同じ立場であるが、いかんせん、小さい女の子用のは少ない。私やジータに合う服は、小さいワンピースで2着しかなかった。水色髪のジータによく似合う水色のものと、私の黒髪によく映える赤いもの。古着だから色は冴えないが、それが返って私とジータの魅力を際立たせた。

(ああ~。かわいい子というのは、どんなボロを着ていてもそれが踏み台になって、輝いてしまうのね~)

「ミコちゃん、その服、反対ずら」

「はれ?」

 完璧な私。ついうっかり、前後ろを逆に来てしまった。ジータに注意してもらわなかったら、危なく恥をかくところであった。


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