第4話 魔法の仕組み

 ところが、2つ目を聞いて私の表情は曇った。その魔力を使うためには道具がいるというのだ。それも魔法の杖でもあるのかと思ったら、何だと思います?

『筆』と『墨汁』

 筆と墨汁ですって。

 これは驚き。

 予想外。

 何という意外な設定!

 筆は動物の毛で作られたもの。使う魔法のレベルによって、材質が違うらしく、一般で使われているN(ノーマル)ランクの筆は山羊や馬の毛で作られている。墨汁は一般的には松の木や菜種油を燃やして集めた煤と膠を練って作った墨から作ったもの。これも伝説の木やら高品質な膠が使われると魔法の効果が違うらしい。

 そして3つ目は魔法の種類を決める文字。決められた文字を書くことで魔法が発動するというもの。

(はあ……神様、全く意味が分かりません)

 頭脳明晰な私でも神様の説明だけでは理解が不能。困った顔の私を見て神様はこう言った。

「試しに使ってみるがよい。まずは、人差し指で空中に四角か円を一筆で描きなさい」

「はあ?」

 私は自分の目の前で人差し指を動かした。特に何も起こらない。

「何も起きないのですけど?」

「当たり前じゃ、今のは練習じゃ。次は『我、記せし世界を欲する』と言いながら行うのじゃ」

「何ですか、その中二病設定は?」

「いいから、やるのじゃ」

 恥ずかしいからやりたくなかったけど、やらないと神様が怒りそうなので試してみた。

「我、記せし世界を欲する」

 するとどうだろう。

私の目の前に指で空間に書いた場所に、白い紙みたいなものが現れた。

「わっ、びっくり!」

「それが魔紙と呼ばれるものじゃ」

「魔紙ですか?」

「人間はMOPとも呼んでいる」

「MOP?」

「マジック・オブ・ペーパー」

(やっぱり神様、欧米かよ!)

 心の中で突っ込む私に神様は、筆と墨汁の入った器をくれる。

「これで魔紙に文字を書くのじゃ。文字は魔字と呼ばれる太古の言葉を文字にしたものである」

「はあ……太古の文字ね」

「これじゃ!」

 神様が乗り移ったジータが私に見せた紙切れ。そこには神様が言う『太古の文字』が書かれていた。

『眠』

「あの……」

「なんじゃ、ミコトよ?」

「漢字なんですけど……太古の文字って煽っていて、漢字ですか?」

 私はあきれてそう言った。でも、神様は全然ひるんでいない。

「漢字ではない。断じてない。この世界では魔字(まじ)である」

「その設定、マジですか?」

「おちょくるでない。とにかく、漢字ではない。二度と言うな」

 神様、怒ったようだ。空気が読める私はそれを軽くいなすことにする。

「はい、魔字ですね。そういうことにしておきましょう」

「と、とにかく、出現した魔紙に『眠』と書け」

「はいはい……」

 私はさらさらと魔筆と呼ばれる、どう見ても書道で使う筆で字を書いた。さすが私。8歳にして超達筆な文字。

そりゃそうでしょう。生まれ変わる前の私は、書道で文部科学大臣賞受賞の腕前だったのですから。

 空中に浮かんだ魔紙とやらに『眠』と刻まれる。

「書いたら、対象に向かって右手で弾くのじゃ」

「うるさいわね……話し声で眠れないわ!」

 むくむくと起き上がった黒い影。どうやら、私とジータの話声に起きてしまった女の子。私は目の前の魔紙をその女の子にむかって弾いた。紙は弾けて飛び散った。

 するとどうだろう。

 その女の子はそのまま倒れて寝てしまったのだ。

「どうだ。これが『眠』……相手を眠らせる魔法じゃ。『眠』なら対象一人を眠らせる。上位魔法、『快眠』なら複数を眠らせる」

「なるほど……文字で魔法が使えるというわけですか」

「そうじゃ。お前の魔力ならどんな魔法も使えよう。しかし、その筆と墨汁では初級の魔法しか発動しない」

「あの神様、ここは最初からチートな道具も与えてですね。課題を一挙にクリアさせた方が面倒臭くないんじゃないですか?」

 私はそう抗議した。魔力は無限大なのに道具がしょぼ過ぎて弱いんじゃお話にならない。つまり、弾数は無限で破壊力満点の弾丸があるのに、撃つ銃がしょぼくて破壊力が発揮できないというわけだ。ここは今流行りのお気楽展開にしてもらわないと話が進まない。

「そういうわけにはいかないのじゃ。人間というものは試練を乗り越えることで成長する。傾国の美女になるためには、楽な展開であってはいけないのだ」

「そういうものですか?」

 神様の言っていることは納得できそうでできない。確かにゲームでは序盤はチープなアイテムでコツコツやるのが面白いかもしれない。だけど、現実に行うものにとっては、命もかかっている。3週目、4週目プレイのご褒美チートアイテムで参加したい。

 そもそも転生というものは、そういう3週目、4週目プレイみたいなものだ。神様のご加護でノーストレス無双プレイがいいに決まっている。

「お前もノーストレス無双じゃつまらんじゃろ」

(いやいや、ノーストレス無双がいいんですよ。それじゃないと受けないです。というか、神様、私の心の中を読めるんですか!)

「心配するな、さすがの我でも、お前の思考は全部は読めない」

「読めるんじゃないですか、神様のエッチ」

 思考が読まれるほど気持ち悪いものはない。というか、丸裸にされた気分で実に恥ずかしい。

(くそ!)

 私は頭の中でこれ以上ないほどのスケベな映像を思い浮かべた。ネット漫画で見たあんなことやこんなこと……。

「うええええええっ……」

 ジータが吐きそうになった。私の頭の中を読んで神様が気持ち悪くなったらしい。

「ミ、ミコトよ……BLはよせ……そっちの趣味はない」

「あら、ごめんあそばせ」

 どうやら、こっちの思考を読む神様に反撃する方法としては有効らしい。これで神様、私の思考を不用意に読むことはないだろう。

(もし読んだのなら、トラウマ級映像を思い浮かべてあげますわ!)

「じゃあ、神様、初級レベルで使える漢……魔字を教えてください」

「今、お前、漢字と言っただろう?」

「いやだ、神様、魔字ですよ。マジで怒らないでください」

 私は神様を軽くいなす。

「全くお前という奴は……ゴホン。お前が使える魔字は、魔筆と魔墨の問題もあって、まだ使える魔法は少ない。今、使える魔法を教えておこう」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る