第3話 8歳で売られたようです
あろうことか、完全完璧美少女である私こと、有栖川美琴は異世界に8歳の女の子ミコトとして生まれ変わっていた。
全部、あの怪しげな神様のせい。
(あいつ、本当に神ですか。8歳の幼女に王様を籠絡して、国を傾けろって……無理~)
しかも、この暗い部屋はどう見てもやばい。中にいるのは全部女の子。上は18歳くらいから、下は私くらい。床に粗末な毛布を被って寝転がっている。
(あ、こりゃ、大体状況が掴めるな……)
私はパーフェクトレディですから、頭脳は8歳の幼女ではない。私の頭脳から状況分析すると、答えは分かるというもの。
たぶん、故郷の貧しい村で住んでいたところ、飢饉でもあって親に売られたというシチュエーションだろう。買われた少女は近くの少し大きな町に集められて、これからどこかへ運ばれるという状況だろうと推測された。
(うん、間違いなし)
「あれ……ミコちゃん……眠れないだべさ?」
私の隣で寝ていた同じくらいの女の子が目を覚ましたよう。
胸には『ジータ、8歳』と書かれた布を付けている。ペラペラで破れた薄汚い服(ワンピース)。そして首にはチョーカーならぬ革製の首輪。これは売られた奴隷の証。私と同じ格好だ。
(ああ、たぶん、私の生まれ故郷の村の幼馴染って感じだね。それにしても、だべさってどんな田舎だよ)
ちなみにしゃべている言葉は私にはなんだか分からないのだが、方言を含めて内容は全て理解できている。
(さすが私というか、やっぱ、神の力だよな~)
賢い私はおおよそを把握した。それでも一応、情報収集するために話を合わせる賢い私。
「うん……パパやママに会いたいの?」
「?」
はてなという文字を顔に浮かべた幼馴染と思われるジータ。
よく見ると銀髪の長い髪をお団子ヘア、さらっとした感じが可愛い。私ほどじゃないが、将来楽しみな美少女になりそうな子。
「パパ、ママって変だべさ、ミコちゃん、普通はお父ちゃん、お母ちゃんだべさ」
(はい、ごめんなさい。今の私は下層階級の娘だったわ……)
私は一つ咳をすると言い直した。
「お父ちゃん、お母ちゃんに会いたいよ~」
ジト~とした目で私を見るジータ。
視線が痛いような気がする。
「ミコちゃん変だべさ。昨日まで私を売ったオヤジの野郎に目に物を見せてくれるわ!と怒っていたべさ」
「あ、そうだっけ?」
(おい、神~っ。たくまし過ぎるだろうが、こっちの世界の私!)
「あれ?」
私と会話していたジータが急に黙ったのだ。私はジータの様子が変だと気がついた。
一点だけを見つめて動かない。水色の目は光を失っている。
ちなみに私は日本にいた時と同じく黒髪、黒い瞳。この部屋にいる20数人の子供には黒い髪がいないから、珍しいと思われる容姿。
「あれ、ジータちゃん、どうしちゃったのかな?」
私はトントンとジータの肩を叩く。するとジータの首がカクカクと動いたのだ。
(こ、こわ~)
「我は神なり……」
「雷(かみなり)様ですか?」
「馬鹿者め、神じゃ!」
「ああ、神様ですか。というか、神様、これは何ですか、どうしていきなり、ミコちゃん、8歳ですううう……という状況なんですか?」
私はそう抗議をした。普通、異世界転生するなら、どこかの貴族令嬢からスタートだろう。
そこから女の戦いを勝ち抜いて王妃の座をゲットする流れ。
そこから贅沢三昧の生活をして国を傾ける。
これが王道。
これが最短距離。
(それなのに……)
「神様、ツルペタ幼女で奴隷身分からスタートって、いくら私がパーフェクトレディでもハンディキャップがあり過ぎです!」
「……それは運命じゃ。いたしかたなかろう」
(その人の運命を扱っているのが神様じゃないのですか!)
私はプンプンと怒ったけれど、神様が憑依しているジータに怒っても何だか怒りが沸いてこない。きっとこれを狙って可愛い幼女に憑依したに違いない。
神様ってやはり計算高い。
「確かに8歳で異世界から来たお前には不利な状況だ。だから、私がわざわざ降臨したのだ。お前にこの世界の一般的知識を教えよう」
「一般的な知識?」
「そうじゃ、それを知らないとさすがに困るだろうからな」
そう言うと神様が憑依したジータは右手を伸ばした。私の左手が自然とそれに合わさる。
(うっ……)
頭の中に知識が流れ込んで来る。この世界の一般的な大人が知り得る情報だ。地理、歴史、気候に生活風習。経済のしくみや物の価値、お金の単位を教えてもらう。
(なるほど……)
この世界の一般的な大人の知識と神様は言ったけれど、貧しい村の大人では知らないレベルのことを8歳の幼女が知っているということになる。
「一般的な知識はいいだろう。次にミコトよ。右手の甲を額にあてなさい」
神に言われて私はその仕草をやってみた。
(あれ?)
神が憑依したジータの姿に横に数値が出ているのに気が付いた。それは空間に書かれた文字。
ジータ 奴隷少女 8歳 魔力0 攻撃力1 守備力1
ミコトの幼馴染。しっかりとした優しい女の子。天然なところがある。ミコトのことがとっても大好き。
(おーい。ステータスだけじゃなくて、変な設定コメントまで見えるんですけど!)
(で、私のことが大好きって、照れるだろ~)
「これはお前に与えたユニークスキルだ。相手に抵抗する魔力がなかったり、低い場合はいろんな能力が分かったりする。まだ、慣れていないから、今のお前には全部は把握できないが、年を重ねて経験を積めば、相手のステータスをすべて知ることができるじゃろう」
「ふうん……そうですか」
私のユニークスキル、とんでもない能力である。
(個人情報看破って、ネット社会だったら最強だわ)
「ちなみに人間だけではない。生物や植物、人が創り出したアイテムについてもある程度のことは看破できる」
「へえ~」
軽く返事をしたが、これはすごい能力だ。私は右手の甲を額にあてるだけで、おおよそ何か知ることができる歩くネット百科事典になれるのだ。
(それにしても、もう一つの疑問は……)
それはジータの頭の上に青い宝石がくるくると回転していること。よく見ると、部屋で寝ている他の女子も名前と年齢と同じように青い宝石がくるくるしている。
中には赤い宝石の場合もある。そういう女の子の場合は、年齢が16歳だったり、18歳だったり……。
「神様、名前や年齢、魔法耐性などの数値はわかるけど、くるくる回っている宝石はなに?」
「ああ、それはあっちの経験があるかないかで決まるのだ」
「あ、あっちの経験?」
「男じゃ。男と交わると赤く変化する」
「は?」
私に顔を徐々に赤くなる。つまり、処女だったら青いが、非処女だと赤く変化するというのだ。自分はと見ると当然ながら青い。
あたりまえでしょう。現在の私は8歳という設定ですから。
(なんでもいいけど……何だか恥ずかしいのですけど……)
元の世界の私であっても宝石は青かったけれど、私が恥ずかしいと言ったのは宝石の色ではなく、そういうことがこんな状態で判別されるということに対して。
今の場合、青いことは恥ずかしいことではない。むしろ、多数派で誇らしい。
ここに集められた女の子の中では、赤い宝石は圧倒的に少ない。これが逆だったら青い方が恥ずかしいのだけれど、人間、やはり多数の方が落ち着くというもの。
ちなみに私のステータスを見た。
ミコト 奴隷少女{傾国の美女(笑)}8歳 魔力∞ 攻撃力9999 防御力9999
(おーい。ここに天才
(そして魔法力∞てなんでしょう。この力を使えればこの世界では無敵なんでしょうか?)
私の頭の周辺には『?』の文字が大量に現れる。これって私は無敵チート持ちってことでしょうか。
「お前は魔力はとてつもなくあるが、魔法がなんでも使えるわけではない」
そう言って神様はこの世界の魔法の仕組みを教えてくれた。
魔法は大きく3つの要素で成り立つ。一つは術者の魔力。これは魔法の威力や使用回数に関わる。銃で言えば『弾丸』にあたる。魔力が無限大という私の場合、その弾数が無限ということになる。
(ヤッホー、ロケットランチャー無限、マグナム無限の無双プレイじゃん!)
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