第2話 傾国の美女、転生す……?
(あれ?)
不覚にも死んでしまった絶世の美少女の私。
目覚めた時には真っ白な部屋。
そこに真っ白なワンピースを着て寝ていたのです。私は体を起こしました。
「目覚めたか……」
天井から聞こえてくる不思議な声。
「私……死んだはずじゃ……」
「死んだ。お前の肉体は滅んだ」
不思議な声はそう私に現実を突きつけました。だけど、手足を見てもちゃんとあるし、意識も徐々に取り戻しています。
「死んでいるようには思いませんが……」
私は不思議な声の主にそう尋ねました。
「ここは死者が一時的に留め置かれる場所。お前は死の世界に行かず、我(われ)がここへ呼んだのだ」
「あ、そうですか」
いろいろと疑問に思ったけれど、ここはどう考えてもアウェー。
その場合は相手からできるだけ情報を聞き出すのが鉄則なので、私はわざと素っ気ない返事をしました。相変わらず、私の頭は冴えています。もう駆け引きは始まっているのです。
「お前は随分と落ち着いているのう……」
(しめしめ……もう引っかかった)
相手がこちらに対して興味を持てば、情報を聞き出す上でマウントができます。これは私の経験から来る作戦です。
「普通の人間はパニックになり、我にいろいろと聞くものだ」
「そうですか。そういうものなのですね」
「……面白い女だ」
「面白くはありません。正体不明の人に警戒しているだけです」
「我は神だ。正体不明の人ではない」
どうやら、声の主は神様だそうですよ。神なのにちょっと声色が不機嫌な感じに。
(自分から名乗ったよ、神様、ちょろ~)
もちろん、賢い私はそれを信じるほどチョロ子ではありません。自分のことを神などと言う人は、それだけで怪しいでしょう。
それでも話を合わせたのは、その自称神とやらが、私に何をさせたいか知りたかったから。
「神様はどうして私をここへ?」
いかにも騙された感じの小娘風に私は尋ねました。私の完璧な演技に少し不機嫌になったのに、コロっと騙された神様。すぐにこちらが期待する答えをしゃべりました。
「お前の能力がもったいないと思ったからだ。お前が我の与える課題(クエスト)をクリアしたのなら、もう一度、元の世界で生き返らせてやろうと思ったのだ」
「はあ、そうですか」
心の中では(やった、ラッキー、その話、乗ります)と叫んでいましたが、そんなことは表情には一切出しません。そもそも、この声の主が神とは限りませんし、そもそもこの状況が現実とも思えません。
「どうした、あまり嬉しそうではないが?」
私が『超ラッキー、超うれしい、神様ありがとう!』と言わないので、神の方が戸惑っているようです。最初の仕掛けから私の方がマウントしている状況は変わらないです。
「生き返らせるって、ゾンビみたいに生き返らせてもらっても迷惑ですから」
一応、そう言ってみました。元の美しい姿でなければ意味がありません。それに生まれ変わりとかいって、別に人間になるのもゴメンです。
それだと、どう考えても前の自分よりブサイクに違いありません。以前の私はこの世に2人といない至高の美少女だったのですから。至高より劣るのだったら、死んでしまいたいです。
「それは心配するな。お前が爆殺される1時間前に時間を戻してやる。そうすれば、あの事故はなかったことになり、お前は死なない」
「そんなことは無理ですよ。嘘を言わないでください」
私は神様を挑発しました。ここまで完全に私のペース。神様は明らかに興奮しています。
「できるとも、我は全知全能の神なのだから」
(はい、かかりました)
ここからが交渉開始です。
「では、それを証明書にしたためてください。口約束では信用置けません」
私はそうはっきりとそう言いました。相手が神様だろうが、王様だろうが、お代官様だろうが、口約束じゃ反故にされる危険性大です。文面にしてあれば、それを防ぐことができますから。
「お前はしっかりしておるのう。感心するわい」
天井からひらひらと神が落ちてきました。英語で何やら書かれています。
(神様、欧米かよ!)
『この課題(クエスト)を達成したら、お前を生き返らせることを約束する』
その他、諸々の生き返る条件が英語で細かに書かれていました。賢い私には日本語でも英語でも問題ありません。
私はその紙を見て心の中で(やったぜ、ラッキー、神ちょろい)とつぶやきました。
「分かりました。神様の要求に従いましょう」
課題とは……。
異世界スカルムーンの王国ショパンを滅ぼせ。傾国の美女となって、王を籠絡し、悪政を行って民衆の批判を浴び、隣国の大国ファルツ帝国に併合されるようにするのだ。
(傾国の美女ですか……それなら、私の役割にぴったりじゃない!)
元の美貌と知力があれば、王様の一人や二人を手玉に取って、国を滅ぼすことくらい私には簡単です。
しかも、神様は私に元々持っていた力の継承をするだけでなく、その異世界で生きていくための様々な固有能力(ユニークスキル)と魔力まで与えてくれるというのです。多少の中二病設定が気になりますが、まあ許容範囲でしょう。
この条件で楽勝じゃなかったら、何を楽勝というのでしょうか。
(神様、ありがとう。有栖川美琴、その王国の王様とやらをメロメロMAXにして、悪政とやらをさせまくってあげましょう。ラッキー、楽勝、チョロい課題(クエスト)をありがとう!)
「では、有栖川美琴(ありすがわみこと)よ。頼んだぞ!」
「はい、おまかせくださいませ!」
「一応、再確認しておくが……」
「は、なんでしょう?」
(ああ~。面倒くさ~。なんでもいいから話を進めろ~)
「ショパン王国は必ず、お前が原因で滅ぼすのだ。他の原因で滅びたのなら、この約束はなかったことになる」
「はいはい……私が原因で滅びるですね~他の原因はなしと。オッケーですよ」
私はそう軽く答えた。この軽さが後で自分の首を絞めることになる。
「しかと約束したぞ!」
突然、白い部屋の天井からズドーンと雷が落ちてきました。(うそ!)
「うぎゃ!」
全身を雷に貫かれた私は意識を失ってしまいました。
(あれ?)
(ここはどこ?)
私は再び目を開けました。
見知らぬ天井。
先ほどの生活感がない真っ白な部屋とは対象的。
汚れた天井。
異臭が漂う暗い部屋。
ムクムクと何か蠢いています。
(怖!)
(そして、なんだか臭(くさっ)!)
よく見ると子供です。小さな子供が狭い部屋にぎっしりと寝転がっているのです。
(臭い子供と一緒ですか?)
心の中で悪態をついた私。子供は嫌いです。騒がしいし、思考が読めないし、足が臭い。
私は頭が痛くなって、右手を額に乗せました。
(あれ、私の手、こんなに小さかった?)
視界に入った右手は小さい。左手も見ました。
(なに、左手も小ちゃ!)
体を起こしてみました。
(か、体も小さい)
ちんちくりんの自分の体が目に入りました。そして粗末で汚れた自分の服。麻で編まれたワンピースもどきの服。丈が小さいから薄汚れたパンツが丸見えなのです。
私は思わず、自分の体を手で触りました。
(何、このツルペタは!)
服の左に四角い布でこう書かれていました。
『ミコト 8歳』
(か、か、か……神(かみ)いいいいいいいいいいいっ~)
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