第一章:機動要塞アルタイル

目が覚めると、天井らしきものが見えた。パイプ管が張り巡らされた天井。和也はベッドの上で目が覚めた。

「Kazu9826様。おはようございます」

 横から女の子の声が聞こえる。起き上がってみると、メイド服の女の子が立っていた。

「ここは?」

「機動要塞アルタイルの中でございます」

「そうか。分かった」

 どうなっている。パソコンでオンラインゲームをしていたはずなのだ。何故こんな所に。

「お着替えを用意しました。食事の用意ができ次第お呼び致します」

「あぁ、はい」

「何故、我々のようなものに敬語をお使いなのですか?貴方様はこの機動要塞アルタイルの主なのですから」

 メイド服の女の子はすぐに部屋から出ていった。

「俺が主? 意味が分からない。ゲームしていただけなのに。そういえば昨日バグが起きて、一対一で戦って負けた。その時の命令に従ったからか?これは異世界転移と言うやつか? まず着替えを、うわぁ!」

「どうされましたか! 何かございましたか!」

 ドアの向こうから、先程のメイド服の女の子の声が聞こえる。

「あぁ。いや、問題ない」

「わかりました」

 和也は驚いた。鏡にオンラインゲームの自分のスキンが写っているのだ。声を上げてしまっても仕方がない。和也は着替えて、部屋から出た。すると大量のメイドと一人執事の方がいた。

「どうされましたか。Kazu9826様」

「なんでもない」

 どうなっているのだろうか。この世界では主になのだろうか。

「ありえないだろう・・・」

「Kazu9826様。お食事の時間です」

「あ、わかった」

「食事の間までお送り致します」

「感謝する」

「有り難きお言葉」

 メイドと思われる少女は和也を転送させた。青白い光が放たれすぐに食事の間に到着した。

「失礼致します」

 メイドの子がそう告げるとすぐにワープして行った。机には豪華な料理が並べられていた。毎晩、スーパーのお惣菜だった和也はすぐにヨダレを垂らしてしまった。

「Kazu9826様〜、ど〜ぞお召し上がりください」

 少し特徴的な喋り方でスケルトンの男が喋りかけてきた。

「いただこうじゃないか」

 ナイフで肉を切りフォークで突き刺し口へ運んだ。口に頬張ると肉汁が溢れ出しとても美味しかった。

「とても美味いじゃないか」

「有りがーたきお言葉です」

「君が作ったのかね」

「そうでご〜ざいます。この食事の間の幹部として、召喚された〜のでね」

 やはり特徴的な喋り方である。和也はそんな事思いながら食事を済ませた。

「Kazu9826様。王座の間へ」

「あぁ。承知した」

 メイドの子は伝言を伝え部屋をすぐに退出した。

「王座の間ってどんな所だ?まぁ俺が主という事は確かなようだし、向かうか」

 王座の間は禍々しい、魔王の部屋のような場所だった。王座の隣に一体のアンデッドがいた。見た目は美しい。しかし、どことなく異様な気配がする。

「お帰りなさいませ。Kazu9826様」

「今戻った」

 王座の間の机に分厚い本が置かれていた。本の表紙には、何も書かれていない。

「これは・・・・・・」

「それはKazu9826様の前の主が置かれていったものでございます。中はスキルや魔法の説明などが記されていたかと…」

 本の中は本当に魔法の説明のようだな。しかし、半分から先が白紙のようだ。何か記す予定だったのだろう。和也は気が付いていた。この世界がいつもプレイしていたオンラインゲームの中だと言うことを。それならば持っていたアイテムが出せるかもしれない。

「サモンボックス」

 和也の前に箱が現れた。

「使えるようだな。中身も全て残っているようだし」

「何か出されるのですか? Kazu9826様」

 王座の間にいた、アンデッドが和也に話しかけた。

「その通りだ。少し図鑑を」

 和也がボックスを見ていると何か書かれた紙がでてきた。長文で契約らしきものが記されている。

「これは権利書か。一体、何の権利書だろう」

 紙のタイトルと冒頭を読む。

『機動要塞アルタイル権利書』

 冒頭には一文で重要事項が書かれていた。


 この権利書を所持しているものが、

『機動要塞アルタイル』の主の権限を獲得する。


「俺が主と認められているのはこの要塞の権利書をいつの間にか獲得したからなのか?」

 権利書にはこの要塞に住むアンデッド、数百匹の名が要塞の場所ごとに細かく記されていた。

「―ヴァルプルギス」

「なんでしょう?」

 王座の間にいたアンデッドが反応した。このアンデッドは魔女らしい。この世界に存在する五代魔女の一人、生と死を操る魔女のヴァルプルギス。説明にはそう書かれていた。

「全幹部に伝えろ。この王座の間に参れと」

「かしこまりました。十分程で集まるでしょう。その間少々お待ちください」

 そう言い残し目の前から姿を消した。ワープを使ったようだ。

「はぁ、せめて幹部と上位アンデッドの名前だけは覚えておこう……」

 この機動要塞アルタイルには十個の部屋が有り、それぞれに幹部がいるようだ。


 操縦席の幹部 デルスタ・パイロル。デュラハンである。元人間で昔からいろんな物の操縦士をしていたらしい。剣術はとても素早い。

 禁書庫の幹部 フォルベッド・ラインズ。リッチの女の子。大人しい性格で禁書庫の司書としての役割も果たしている。上位魔法を使用する。

 第一階層の幹部 リヴェンジ・ガルア。レヴァナントの騎士。元は攻め込んできた兵士だったが国に裏切られ、レヴァナントとして蘇った。復讐を果たすため力を蓄えている。

 第二階層の幹部 ノーブル・ハラサル。女性悪霊が付いたワイトである。第二階層まできたレベルの高い冒険者や騎士軍団を吸収して力をつけ、とても高い戦闘能力を誇る。

 第三階層の幹部 メデア・クリムゾン。ヴァンパイアの王子である。頭脳がとても優れている。アルタイルの作戦などを決める、軍師としても活躍している。

 第四階層の幹部 レデター・プレイズ。グールである。普通のグールと違い、高い知能を持ち、数多くのスキルを獲得している。代表するスキルとして偏食というものがあり、前にあるものを全て食らいつく暴走するスキルを獲得している。

 食事の間の幹部 コーク・ポーズ。スケルトンの料理長である。アンデッド達の料理人を担当している。とても美味しい料理を作る。しかし戦闘の時は悪魔のシェフと呼ばれ、大量の毒を無理矢理服用させる。

 秘宝の間の幹部 ブラレイズ・クロセス。女性の姿を普段はしているものが実際はドラウグル。戦闘時は体を巨大化させ、超人的な力を発揮する。その力は幹部の中でも上位を誇る。秘宝の間に入った人間を生きて返さず、血の一滴も残さない。

 王座の間の幹部。ヴァルプルギス。この世界に存在する五代魔女の一人、生と死を操る魔女である。死へ誘う事もでき、蘇らせることも出来る魔女である。しかし相手を殺す、生き返らせる事に大量の魔力を消費してしまうため普段は魔法で攻撃する事が多い。

 全幹部統括 エグザイド・コントローラー。全ての幹部のリーダーに位置する。このアルタイルで唯一の執事であり、幹部の中で最強の存在である。片手で1000人以上の軍隊を潰したという伝説がある。


「これが幹部か。なかなか特徴的なアンデッドばかりのようだ」

「お待たせしました。全幹部をお呼びいたしました」

 王座の間の扉が開きヴァルプルギスと共に幹部十人が集まった。

『Kazu9826様。我々幹部に命令を』

 和也の前で全幹部が整列し頭を下げた。

「頭を上げろ。今から会議を始める」

「Kazu9826様が直接参加しての会議とは珍しいですね。とても有難いです」

 メデアが和也にそう述べた。

「そうか。これからは私が中心として会議を進める。反論のあるものはいるか」

「全幹部賛成であります」

 エグザイドが代表として述べた。

「そういえばKazu9826って言いにくいし、響きが悪いな」

「そうでしょうか?」

 フォルベッドが不思議そうに和也を見つめた。

「ああ、数字も入っていて言いにくい」

「なら、アルタイル・キング・アンデッドなんてどうでしょう」

 ヴァルプルギスが和也に質問した。少しワクワクしている様子で。

「いいだろう。なかなか良い名前だ。これから私はアルタイル・キング・アンデッドを名乗る。皆もアルタイルと呼びたまえ」

『はい! アルタイル様』

「まず、メデア。今後の目標についてだが・・・・・・」

「アルタイル様の言いたい事、理解致しました」

「なに?」

「アルタイル様は名前の通り、王になりこの世界を良き世界に、昔のような世界に、戻そうアンデッドと考えておられるのです」

「―なるほど。アルタイル様はそのように考えておられたのですね」

 エグザイドが納得したような顔でこちらを見てきた。

「えっと……その通りだ!」

『おぉー!』

 幹部全員が歓喜を上げた。しかしアルタイルとして最初に考えた計画と全く予想していなかった方へ動こうとしていた。最初に考えていた計画というのは、この世界に他の転移者がいないかを調べる事、転移される前に共に対戦をしたタージェと名乗る存在を探すことであった。だが思っていた以上に計画が傾いていった。

「アルタイル様、それではどういたしましょうか?」

「メデア。まず、村や町を支配しなさい。人々が逆らっても虐殺だけはやめろ。恐怖を感じさせるような事はするな」

「分かりました。それでは人間の振りをして支配するのはいかがでしょう? 所詮人間。簡単に騙されることでしょう」

「いいだろう。しかし人間も侮ってはいけない」

「心配頂きありがとうございます。それでは準備の方へ行ってきます」

 そう告げるとすぐに部屋から出ていった。

「我々はどういたしましょうか?」

「他の幹部はリヴェンジとノーブルはメデアと違う町へ向かえ。人間に化け、向こうで人間からの評価を上げてこい」

『了解しました!』

「これで今日の会議を終了とする」

『機動要塞アルタイルに栄光あれ!』

 幹部達は自分の持ち場へと去っていった。

「さっきの掛け声……俺も参加したかった!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンデッド ワールド 夏宮 ナルト @naruto8konnpeimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ