第119話 本を買いに行きました 番外編 生活工房ギャラリー「渦巻く智恵 未来の民具 しめかざり」展

 しめかざり。

 普段は神社でしか目にしないものですが、お正月になると店頭に並び、クリスマスが済むと同時にリースに取って代わって玄関を飾り、にわかに目に飛び込んでくるようになります。

 門松にしめかざり。

 そんな季節の行事に欠かせない飾りものも、今では、だいぶ様変わりしています。

 しめかざりは、リースかと見まごうばかりの華やかでかわいらしいものもあります。

 そうした楽しみ方も生活様式の移り変りが感じられて楽しいです。

 一方、古来の由緒正しきものや、その土地ならではのものも、味わい深く、清らかな気配に心洗われるようにも思います。


 そんな新しい年を迎えるための飾りもの「しめかざり」の企画展「渦巻く智恵 未来の民具 しめかざり」を観覧しました。少し前に所用で出かけた折に、時間がとれたので立ち寄ってきました。

 『奥越奇譚拾遺』で、奥越の山奥の村での冬の作業として盛んだった藁細工について書くのに当たって調べものをした折に、しめかざりの本も読んだのですが、その本の著者が企画制作者ということで、これはぜひ見たいと思っていたのです。


 会場は三軒茶屋のキャロットタワーの3階と4階に展開されている生活工房のギャラリーとワークショップルームA・Bです。


 3階のギャラリー第1室「しめかざり時空探訪」で、まずは、しめ飾りの基本情報を学びます。

 ギャラリーでは、全国各地のしめかざりの分布が示されている大きな地図が出迎えてくれます。

 壁面には、しめかざりの歴史、各地に見られる多様性、構造、装飾部分をはずした「素のすがた」などが、写真とグラフックで解説されています。

 貴重なスライド写真の原版も見ることができました。


 「しめかざりの形態 CHECK POINT!」というタイトルのリーフレットで、しめかざりの観察ポイントを予習して、では、4階の第2・第3室へ。


 4階の第2室「月下のしめかざり」では、約100点の日本各地のしめかざりが展示されています。

 とても贅沢な空間です。


 以下に、出品目録の項目をご紹介します。

 

A.たわらの系譜……山形県鶴岡市に伝わる俵ジメや小正月の飾り物

B.漁師のカケノイオ……伊吹島に伝わるカケノイオ(懸の魚)を中心に紹介。

C.ケンダイ……福島県、宮城県に見られる「けんだい」を中心に、作り手の日常の藁細工も紹介。

D.フシ……ワラの「フシ(節)」を揃えたしめかざり

E.年男……30~50代の年男が作るしめかざり

F.シメノコ……シメノコ(縄から垂れた藁の部分)の数に注目したいしめかざり

G.右と左……しめかざりには右と左がある

H.ちょろけんとお玉さん……京都に伝わる「玉じめ」と「ちょろけん」

I.生き物……生き物を象ったしめかざり

J.イノチのカタチ……生き物を象ったしめかざり

K.ゴキ……供物を入れる器


 個人的に気になったのは、分類「K.ゴキ」のマグカップのような取っ手付きの逆三角錐のお椀型のしめかざりです。

 名称は「椀ジメ」と言うそうで、門松にくくりつけて、中に蜜柑やお餅などの供物を入れるのだそうです。

 年神様への供物を入れる器としてのしめかざりなのだそうです。

 キッチンに大小いくつも吊るして、食材を入れてもかわいいインテリアになりそうなデザインです。

 インテリアオブジェと言ってしまうと罰当たりな感もありますが、その多彩さユニークさ見事さに、和の空間演出には欠かせないインテリアオブジェ、和アート作品だと、思わず見惚れてしまいました。

 

 第3室「渦巻く智恵 未来の民具」の前には、しめかざりをはじめとしたお正月飾りで装った鳥居のようなものが設えられています。戦前の宮城県丸森町の門飾りだそうです。

 くぐって進んでいくと、しめ飾り作りの映像が流れていたり、稲わら雪ん子ファッションが展示されていたり、しめかざりに使う稲わらの種類が紹介されていたりと、盛沢山の内容で、しめかざり文化を存分に堪能しました。

 

 NHK BSPの番組「美の壺」の「新年を彩るお正月飾り」の回では、お正月飾りに使われる植物の由来について解説がありました。

 鏡餅やしめかざりにの柑橘は「橘」=「吉」、柿は「嘉来」、ウラジロは共白髪で長寿を願って、ユズリハは代々家を譲って栄えていくことを願ってといった具合です。

 しめかざりについては、森氏が登場していました。


 企画制作者の森須磨子氏は、2017年に、武蔵野美術大学の民俗美術室ギャラリーで、「しめかざり 祈りと形」展を開催しています。 

 https://mauml.musabi.ac.jp/folkart/events/76/


 全国各地を自ら回って収集した多彩なしめかざりは、人々の生活の中から生まれた造形美であり、単なる風俗ではなく、暮しの根底にある思想・信仰などを形象化したアートそのものでもあるのだと思いました。



 最後に、藁細工の出てくる自作をご紹介。

『奥越奇譚拾遺』

「消え消え」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884526082/episodes/1177354054888506816



<生活工房ギャラリー ワークショップルームA・B 三軒茶屋>

最寄駅 東急田園都市線線 三軒茶屋駅

生活工房のホームページで詳細をご覧いただけます。


<今回買った本>

『しめかざり』(たくさんのふしぎ傑作集) 森須磨子 福音館書店刊






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る