第62話 特別展「清方と鏡花 ~ふたりで紡ぐ物語の世界~」
鎌倉へは、晩秋から冬にかけて、ふらりと訪れます。
一つは、鎌倉文学館のバレンタインおみくじをひきに行くためです。
おみくじには、恋愛に関する文学作家の言葉が記されています。
期間限定で、武者小路実篤記念館のチョコレートも扱っています。
人気のようで、売切れのこともあります。
事前情報でそれを知ってしまうと、今年はいいかな、と訪問を見合わせることもあります。
別の一つは、年賀はがきやお年玉袋を求めに行くためです。
和紙に木版のデザインものや、色とりどりの千代紙、和紙のブックカバーなども、つい手にとってしまいます。
そこにいかないと手に入れられないものがあるというのは、いいものです。
さて、今回は、泉鏡花没後80年の特別展が開催中ということで、
小町通りが混んでいたので、途中から裏通りに入り、しばし進んでからまたもどろうとわき道を辿っていると、貸しスペースにアンティーク着物のお店が出ていました。
着る用ではなく小物作り用に何かないかと思い、ふらふらと中へ。
鏡花のイメージカラーかなと思っている色合いの紫の端切れが目に飛び込んできました。
少々中途半端な大きさだったのですが、読書の合間にこれを眺めて鏡花世界に浸ろうと思い購入。
次々欲しくなりそうだったので、長居は無用と早々にお店を出ました。
小町通りを再び進んでいき、記念館のある脇道へ。
閑静な通りにすっと現れる記念館の門をくぐると、季節の庭花が出迎えてくれます。
こざっぱりと整えられたアプローチを歩いていき、入口から館内へ。
受付を済ませて入っていくと、ちょうど学芸員さんによる館内ツアーの時間帯だったようで、解説を聞くことができました。
ライトノベルのイラストがかなり読み手の興味を惹くポイントになるように、明治時代の本では、装丁や口絵、舞台化された時の絵看板などが、文学小説の世界への興味をかきたてるものとして重要でした。
鏑木清方は、泉鏡花の小説の大ファンで、いつか絵を描かせてください、と切望していたとのこと。
展示作品で今回印象的だったのは、絵看板の絵を屏風仕立てや掛け軸にした作品です。
その絵看板は、鏡花の代表作にして明治の怪奇幻想文学の代表作『
いずれも舞台に越前界隈が絡んでいるのにも興味をひかれます。
泉鏡花は学生時代にゼミをとっていたこともあり(研究ではなく“とった”だけでしたが)、有名どころとゼミで取り上げられていた作品や発表テーマだったものは読み、映画化されれば観に行ったりしてました。
幻想的というより、幻妖的な感じがするなと思っていました。
鏡花の小説の舞台の中でも奥深い山は、海と違って視界が開けない上、森に洞穴に谷にと隠れる場所はそこここにあるので、妖のものたちがいても不思議ではないのですよね。
うねうねと連なる山に霧がたちこめ迷ううちに、うっかり境目に立ってしまうと、突然風が吹いてにわかに視界が開けて、白昼夢のようなしらじらとした空間が広がっていて、ここはこの世ではなかろうとなぜか心の中で確信して、動くこともままならず、地から湧いたのか天から降ってきたのか、こまごまとした妖しのものたちが宴を始め、どうやら自分のことは妖しのものたちには見えないらしいが、ちょっとでも動いたらだめだろうと息を殺して立ち尽くす自分の姿が、夢か
そうした場面を思い浮かべながら、展覧会を鑑賞しました。
鑑賞後、もう一ヶ所立ち寄ってから、露西亜亭の‘ぴろしき’はやっぱり売切れなのを確認して、それではと、やわやわの麦田もちを手土産にしました。
鎌倉カスターのお店にも行ったのですが、なんと、全て売切れ。
ふわっと、とろ甘に癒されようと思っていたのに……
そういえば、鎌倉に行くと立ち寄っていた古書店も、なくなっていました。
なくなるものあれば、復活するものもありで、神奈川県立近代美術館 鎌倉別館はリニューアルオープンしてました。
では、もう一ヶ所立ち寄ったところについては、また追って。
※泉鏡花記念館について書いています↓
六箇所目 金沢三文豪――泉鏡花 徳田秋声 室生犀星――の記念館 金沢
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882605676/episodes/1177354054883081561
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