長くつ下の見積書

新巻へもん

仕事の代価

 どうしてあんなことをしてしまったのだろう?


 私は今、頭を抱えていた。

 私は作家である。古典と言われる童話を現代的にアレンジしなおして、話の筋を作り、適当なイラストレーターに挿絵を依頼して、電子出版したところ、何が受けたのか分からないがそれなりのダウンロード数を稼ぐことができた。


 童話に突っ込むのも野暮というものだが、よく読むとストーリー的には破綻していることも多い。森に小石をまいて帰り道を辿るだけの脳がありゃ、パン千切って置いておいても無駄なことぐらい気づけや、とか。招待されなかっただけで人を呪い殺すか、とか。


 この辺りを膨らまして矛盾無い話にしたのは私の頭から出たものだ。それなりに悪くない出来だったと思う。ただ、私の話にマッチした挿絵による部分も大きいということは分かっていた。この作風は他者には真似できない。


 ネットでの評判がよく、なんと3作目は本での出版の話を頂いた。私はそこで魔が差してしまったのだ。他人のイラストを自分のものとして、文と挿絵を両方とも出版社に持ち込んでしまったのだ。


 3作目はペロー原作の話にした。『寓意のある昔話、またはコント集〜がちょうおばさんの話』に収録されている一編だ。著作権は切れてるから二次創作は問題ない。筆が乗ってボリュームが膨らんだため、上下巻という形になり、上巻が発売される。問題はそこで発生した。イラストレーターが盗作ということに気づいて猛抗議をしてきたのだ。


 拝み倒して下巻分のイラストの見積書を依頼した返事が帰って来たのが今日の事。震える手で紙を広げ視線を走らせ、万事休したことを知る。世間は池に落ちた犬を叩くことを止めないだろう。私の作家人生は終わった。


 見積書

 タイトル:長くつ 下

 イラスト:表紙(カラー) 1点

      人物立ち絵(白黒) 6点

      指定カット(白黒) 4点

 見積金額:金10,000,000円(税別)

 備考  :上巻含め、貴殿が著作権者でないことを明示すること

        

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