第4話 運命の人?

駅のホームに電車が到着したのは、相崎 智美の腕時計で18:47だった。

(13分前だったら待たせてないよね。うん、大丈夫)智美は心の中で自分を納得させるように改札をけた。


「やぁ!相崎さん。こっちこっち」改札を出た直ぐの所で、千脇 伊織はさわやかな笑顔を智美に向けた。

「あぁ、千脇さん、ごめんなさい。お待たせしちゃいました?」智美は肩をすぼめながら伊織に近付いた。

「いやぁ、それほどでも。この線に乗られてたんで、きっと改札から出て来ると思ってました。さぁ、行きましょうか?」軽い挨拶を済ませると、伊織は駅構内に入って行き、駅とは反対側に向かった。

「駅裏に行くって、千脇さん、お店とかお詳しいんですか?」駅前のロータリー側にある、キラびやかなネオン街とは反対の方に向かう伊織に、智美はわずかな期待を寄せた。

「イエ、表の方は、会社の人間がいる可能性があるんで…イヤ!変な意味じゃないですよ。同僚どうりょうなんかに会って、隠し撮りとかされて、SNSで変な噂立てられちゃ、かないませんからね。相崎さんも嫌でしょ?」ペラペラ喋る伊織の言葉が智美にはさっぱり理解出来なかった。流石さすがはエリートは違うくらいに思っていた。「そ…そうですよね。SSNなんかねぇ…」

「ははっ、相崎さんって面白いですね。あっ、ここです。安くて美味いんですよ」伊織が指し示した店は、子汚こきたな赤暖簾あかのれんかった中華料理店だった。

(なーんだ。もっとお洒落しゃれなトコに連れて行ってくれると思ったのに…かんだから気を使ってくれたのかな?)

「相崎さん、ここの水餃子すいぎょうざが格別なんですよ!焼きだったらニンニクとか気になるでしょ?ここの水餃子は生姜しょうがかせてあって、おすすめです。食べてみます?」智美は朝に出会ったばかりの伊織の印象とのギャップに少し戸惑った。

「あぁ、お任せします。アタシ、あんまし中華っていただかないんで…」智美の戸惑いとは裏腹に、伊織は張り切って、色々とオーダーをした。しかし智美の予想に反して、料理は確かに美味しかった。


「いやー、食った食った。相崎さん、満足出来ました?」スマートなイメージと違い、腹鼓はらづつみを打ちながら言う伊織の姿に、猫をかぶっていた智美も、すっかり緊張が解けたようだった。

「もう充分!こんなに楽しい食事は久しぶりです」口周りに着いた麻婆豆腐のタレにも気付かず、智美はにこやかに答えた。

「そう。それは良かった」伊織は言いながら、備え付けのペーパーナプキンで、さりげなく智美の口元を拭いた。その行動に、智美はトキメキを覚えた。

「あっ、ご…ごめんなさい」頬を赤らめる智美を、伊織は真っ直ぐに見て言った。

「また…食事誘っても良いですか?」智美の心臓は、もはや口から飛び出しそうだった。

「も…もちろんです」


帰りの車中も二人の会話ははずんだ。ただ智美は時折、伊織とのジェネレーションギャップのようなものを感じた。聞けば今年の端午の節句に26歳になったばかりで智美とは一歳違いなだけなのにである。智美自身、流行には鈍感な方ではないとの自負はあったが、伊織と話していると、不思議とオバさんになった気分にさせられた。


「それじゃあ、おやすみなさい。また連絡します」先に駅で降りた智美に向かって、決して社交辞令とは思えない雰囲気で伊織は別れの挨拶をした。

「おやすみなさい。アタシもまた連絡します」そう言い合う二人をかつように、電車の扉は閉じた。


「やっぱ、運命の人っているんじゃん!あっ、ダメダメ!こっから慎重に行かなくっちゃ。でも…やっぱ運命感じるよねぇ」智美は今にもスキップしそうな足取りで家路に着いた。

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