第3話 違和感の世界

「ですから、総務部の相崎 智美です。あ・い・さ・き!相崎 智美です。……

えっ?いないってどう言う事ですか?意味が分かりません。えっ?もしもし、もしもーし!」朝から痴漢被害に合い、相当の時間を遅刻してしまっていた相崎 智美は、会社に報告の電話を入れるも、そんな人物は存在しないと言われ、一方的に電話を切られてしまった。今までも、何度か欠勤や遅刻の電話をした事はあったが、こんな仕打ちを受けた事は一度たりとてなかった。なのにこの日に限って自分の存在すらなかった事にされるのは、智美にとって我慢ならない事だった。「もう!そんな態度に出るんだったら、こっちから休んでやるんだから!」怒り心頭の智美は、そのまま会社方面とは反対側のホームに行き、郊外のショッピングモールへと向かった。

ショッピングモールに着いた智美は驚いた。

「あれ?いつの間にこんな豪華なデパートが出来たんだろう?前って確かサトーホーカドーがあったはずなんだけど。E・N・E・O・N?なんて読むんだろう?」まるでキツネにでもつままれたような気分のまま、智美はモール内のトイレへ行き、化粧直しをした。

それからモール内を歩いて回っていると、ふと、洋装品売り場で足を止め、洋服を見ながら、千脇 伊織の事を思い出していた。

「KBプロダクツって…今、結構話題になってる外資系のベンチャー企業だよね?…って事は、彼ってインテリなのかな?それにしても、このSEってどんな役職?」伊織にもらった名刺に目を通しつつ、智美は一人言を言っていた。そんな事を思いつつ、智美はある決心をした。洋装品売り場にてパステル調のピンクのワンピースを買い、試着室で着替えた。その後、レストランフロアで喫茶店に入ると、軽い昼食をる事にした。

「何?このロコモコセットって」智美は店員を呼び寄せ聞いてみた。すると店員は困ったような戸惑とまどった顔をして「あのー、その…ハワイの名物料理でライスにハンバーグや目玉焼きやサラダをワンプレートに乗せた料理なんですが…」店員は "この客は何故なぜこんな事も知らないのか?" と言いただった。

何気なにげさっした智美は「あぁ、そんなんだぁ、あだすぃ田舎いなががら出でぎだばっがだがらぁ」と東北弁でもしゃべるようになまりを入れて返した。それで上手く乗り切ったつもりの智美だったが、店員は首をかしげながらオーダーを通しに行った。

(何だろう?朝から変だよね?町の雰囲気も…駅だって綺麗になっていたし、ここって本当にアタシがいた町なの?)違和感をぬぐい切れないまま、智美は伊織の名刺を取り出し、携帯電話でかけようとした。

(何?この番号の下のURL http://www.何とかって?)とりあえず智美はURLを無視して携帯番号と書いた番号に電話をかけた。

「はい、千脇です」低く心地の良い声が智美の耳に入って来た。

「あの…突然すみません。アタシ、朝の…その…」智美がしどろもどろに話していると「あぁ、相崎さんですか?」と伊織の方から返してくれた。

「はい!相崎です。本当に突然なんですけど、今夜ってお仕事…遅かったりします?」智美はおうかがいを立てるように聞いた。

「えぇ?まさか今時いまどき、残業なんてしませんよ。そうですね…6時半までには退社しますが?」

(えっ?残業しないんだ。やっぱエリートは違うのかな?)

「あっ、それじゃあ今朝けさのお礼に食事でもご馳走ちそうさせて下さい」智美は精一杯の勇気をしぼって言った。

「お礼なんか良いのに…じゃあ、かんでどうです?一応はオレも男だし」

「わ…分かりました。それじゃあ千脇さんの会社の最寄り駅に7時で大丈夫ですか?」

「分かりました。それじゃあ7時に駅前で…」

電話を切った後、智美は思った。

(男って言うんなら、おごりますとかないんだ。まぁ、こっちはお礼なんだから良いけど…)

その後、出て来たロコモコセットを食べて智美はビックリした。(へぇ、最近じゃあ、こんなの流行はやってんだ。メチャ美味しいじゃん)

その後も智美は驚きの連続だった。デパートの中に大手の東西映画のシアターはあるし、スポーツジムを "フィットネスジム" とうたってお洒落しゃれに展開されているのだ。

そうこうしている内に、太陽は西日を強めて行った。

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