第3話 同じようにしか見えない
父さんも母さんも仕事を休み、俺の付き添いに試験場に向かう。
事情を聞いた受付嬢は驚愕したかと思いきや、偉い人がやってきた。
その偉い人が俺と話をして、更に偉い人がやってきて別のところで試験するとのこと。
その試験場は国会議事堂であり、ニュースをたまにしか見ない俺でも知っている顔が並んでいた。
緊張の中、発言が途切れ途切れになってなんていったのかはあまり覚えていない。
ただパフォーマンスとしていくつか能力を使っていくなか、見る目が可愛い子供から、途方もない金塊を見る目にシフトしていったのは覚えている。
俺の試験が終わり、最後に第2身分にするかどうかを議決する。
その方法は拍手であり、それが過半数に達していれば第2身分、そうでなければ第3身分となる。
「では賛成の方は----」
議長が最後まで言い切らず、拍手をした人がいた。
次に拍手をした人は手を潰さんかの如くバチバチと叩き
続いて拍手する人はスタンディングオベーションで行動を示していた。
議題は最早俺をどう扱うかではなく、俺にどうアピールにシフトしていたのだ。
身分の高さによって一票の価値が変わる日本では、俺個人の一票で8万票稼ぐことが出来る。煩わしい選挙公約を考えないで済むのだ。
どうやって取り入るか、取り入ることが出来ないにしても敵対しないでもらえるかをこの場でアピールするのは当然であろう。
とはいえ政治家たちの争いは
「すしは、サーモンは美味しかったか?」
この一言で一瞬で決着がついてしまった。
「あ、はい」
あしながおじさんにしては太っており足も短い。
そろそろおじさんではなくおじいさんと呼ばれそうな年齢だった。
よくみたらニュースでお金の問題で現在進行形で話題になっている人だ。
「今度は焼き肉でもどうだね。いい店を知っているんだ」
「……いいですよ。できるだけ早い方がいいですけど、今ならいつでも調整できます」
「助かるよ。聞いていたな。今日の会合は中止だ。代わりにこの方を招待する」
同じ党の議員が笑顔で承諾した。
一方他党の議員は苦虫を?み潰したようかのように、すごい形相だった。
君にはずっと前から期待していた。
君はもっと大きくなる。
その為には後押しが必要。
その後押しを私がしてあげよう。
かわりに今度の選挙は私に投票してほしい。
知り合いにもそう言ってほしい。
あと汚職事件でいろいろやばいから、イメージアップのために手をつないでいるところの写真を撮らせてほしい。
大体こんな感じの話をした。
「もちろんこっちが出すのはこれだけじゃない。入れ」
入室してきたのはエロい格好をした女性。
や、ヤバイ。
「こいつは、私の元娘でね。ハニトラに引っかかった時に掴まされた子なんだ」
聞いてもないのに、自分の話を始めた。
「なにをー捨ててやるーって思って写真を見たら、とてもとても可愛くてね。選挙活動に不利になるのが分かっていても、育てていたんだ」
「それで5歳の時、ギフト所持検査をやったら結果は陰性。何かの間違いだって思い何度も検査をしたけど変わらずじまい、そのときね」
「すっーて愛情が無くなったんだ」
「その……よくある話ですね」
この話は別に珍しくない。
いったいどこの誰がペットを何十年も育てるのか。
「重要なのはここからでね。折角5年も育てたのに捨てるのは勿体ない。でも役に立たないものを何年も手元に置くほど愚かでもない」
「だからさ、仕込ませたんだよ。母親と同じように」
「顔がよくなるのは分かっていたからね。男に好かれる身体になるよう調整しておいたのさ」
「そういう風にえさを食べさせ、そういう風になるよう出来るだけ日光に当てず、そういう風になるよう適度に運動させ出来上がった自信作さ」
「友好の印だ。受け取ってくれないか」
改めてその人を見る。
エロい以外の感想が浮かばない。
断るという選択肢が、一切浮かばなかった。
「ありがとうございます。俺達は友人です。絶対に票は入れさせていただきます」
投票できる年齢は15歳からなので今日から俺も清き一票を入れることが出来る。
「名前は何と呼びたいかな。デフォルトとしてりんねという勿体ない名前があるが」
「その名前でお願いします」
「ではりんね。お前の飼い主に挨拶をしなさい」
三つ指をたて、丁寧に頭を下げる。
「りんねです。これから一生をかけて飼い主様に仕えることをここに宣言します」
わぁい。
ただ正直この発言が聞けただけで満足した。
とはいえそれはそれ。
俺にもこの人に渡したいものがある。
「1つ。爆弾を投下します。この話が漏れた場合あなたは俺に敵対するとみなします」
「随分と穏やかな話ではないね」
「悪い話ではないんです。むしろ良すぎて困る話ですね」
この人は俺が出会った中で誰よりも頭がいい。
だから最悪頼るならこの人にする。
「はい。人払いも完ぺきにしてください」
「よかろう。りんねはどうする」
「これはもう俺のなんで」
「そうだった。失敬失敬」
周囲に人がいないことを確認し、入室禁止の張り紙を張る。
「実は俺ののギフト、あれ嘘です」
「嘘だと?」
満を持して俺の本当のギフトを紹介する。
「ええ。俺の本当のギフトは、ギフトを授けるギフトです」
「「……」」
信じられない、2人はそんな顔をしてをしている。
「あ、そうかそうか。大人をからかうんでない」
「そうですね。まずそう思いますよね」
第一人者の俺すら疑いから入った。
「りんね。どんな能力が欲しい?」
「え? ええ?」
現状把握が出来ていないようなので勝手に能力を授ける。
「求める色は橙 咎める楔は無し 捧げる贄はなし 欲するは重力操作 りんねに授けたまえ」
初めて他人にギフトを使う。
「あ ぁぁぁぁ」
「使い方は分かっているはずだ。やってみろ」
トングをりんね目掛け投げつける。
トングはりんねにぶつかる直前にふわりと天井近くまで飛び上がった。
「うそ……ほんとに……?」
りんねは自分がしでかしたことを信じられていない。
「ま、まさか君が私達にみせたものは……!?」
「はい。自分で好きな能力を授けました」
「それを見て、我々は疑問に思わなかった。つまり授けるギフトは高濃度のものも可能ということか!?」
「自分未満のものに限るという制限はありますが」
矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。
「そのギフトを使うにあたっての制限は!?」
「特には」
「与えるギフトにリスクはあるのか!?」
「必要に応じては」
「個数に限界は!?」
「10以上」
「あ、ありえん。そんなの第2身分なんてどころじゃない。第1(王)、いや第0身分(神)が相応しい」
「そうなりたくなかったので誤魔化しました」
そこまで行くと……ねえ。
人じゃなくなる気がした。
「あ、あの!」
「なんだりんね」
「このギフトに、期限はありますか」
「特にないね」
「飼い主様が生きている限り効果は永続なのでしょうか」
「知らない。多分もうそのギフトは完全にりんねのものになっているからたとえ死んでも効果は残っていると思うけど」
「つまり……私は人間なのですか?」
「そうなるね。人間になりたくなければ、ギフトを消すギフトを授かって消してやるけど」
周りには黒は複合の能力といった。
だがおそらくは能力に関する能力が黒。
「求める色は黒 捧げる贄はなし 欲するはギフト消去 我に授けたまえ」
その考えは間違いなかった。
「お願いします! やめてくださぃ!!!!」
その土下座は最初に見せた挨拶としての土下座ではなく、心からの懇願を込めての土下座だった。
「分かったやらない。でも俺が言ったことは事実だってことは伝わりましたか」
「伝わったよ。でもこんどは君の気持が分からなくなった」
俺が? 別にそこまで難しいことをしていないはずだが。
「それをなぜ私にだけ伝えた? 恐らく家族にすら伝えていないだろう?」
どうやらおいしすぎる話に、嫌な予感を覚えたらしい。
だがその予感は外れ。
「俺はですね。結構多くの人に会ってきました。医者、会社の社長、地方議員、アイドル。他にも色々います」
「だろうね」
「でもね、顔は覚えていないんです」
「人の顔は覚えておいた方がいい。難しくてもね」
ごめんなさい。そういう話をしているんじゃないです。
「1種類にしかないんです。利益をむさぼる能面のような顔にしか、俺には見えない」
覚えていないんじゃなく、別の何かにしか見えない。
「議事堂の中でも、みんな同じような顔でした。ただ……その中であなたが一番面の皮が厚かったので」
俺は多分性格の悪さを見ただけで認識できる。
「その上で言います。あなた悪人でしょ。自分の利益のためなら何でもやる人命なんて二の次三の次」
能面のくせに目を丸くして
「だからこそ、あなたに誰よりも利益を与え続ける限り、俺だけの味方でいてくれる」
パステル・アート・ディストピア(略してPAD) いちてる @ichiteru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。パステル・アート・ディストピア(略してPAD)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます