統計信教:救いの章

尾巻屋

救い

春に生まれた風が、つま先をくすぐって、からだを安らぎに落とす

 土、雨の匂いが混じって、あおみを帯びた薄暗がりを満たす

 遠くの営みがきこえる

 こころはまぶたの裏をさまよう

 

 今日もまた起きようか 

 それとも惰眠を貪ろうか

 微睡みの中にいる間は、じぶんを忘れられるから好きだ

 覚醒のさきにあるものを憂いて


 憧憬が羨望に変わって、

 ひょうじょうが笑みを忘れて、

 やっかみが己の手をみちびいて


 期待は嘲笑で潰され

 希望は悪意で上書き


 つらいつらいと言えば競わされて

 自分がなお劣ったものだと思い知らされる


 化繊ロープの一端、珈琲一杯の苦味、それさえ贅沢だとまで言われて

 貧しいものこそが優勝のチキンレース 

 不幸者になってこその健常者だ


 ぜんぶ、ぜんぶに疲れきってしまって


夢って なんだっけ

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