世界の中心で舌打ちする召喚獣

達見ゆう

ダーウィン賞モノの勇者たち

ダーウィン賞は、進化論者であるチャールズ・ダーウィンにちなんで名づけられた皮肉の「名誉」であり、愚かな行為により死亡する、もしくは生殖能力を無くすことによって自らの劣った遺伝子を抹消し、人類の進化に貢献した人に贈られる賞である。なお、優れた業績を挙げた生物学者に授与されるダーウィン・メダルとは全く関係が無い。

(Wikipedia 「ダーウィン賞」より引用)



「……レガリアスの大地を司る精霊よ、我の呼びかけに応え、偉大なる召喚獣バハムートを我らの元へ!」


 遠くからわれを呼ぶ声がする。どうやら我の助けがいるようだ。声のする方向へ行くと光る魔法陣と召喚士の姿が浮かんできた。きっと魔物との闘いに我の助けが必要なのだろう。我は召喚獣でも最大級のクラスのバハムートだからだ。一息吐けばその炎は一瞬のうちに一面焦土と化す。中級クラスの魔物なら瞬殺だし、水の魔物であっても追加でもう一息吐けば灰燼に帰す威力がある。

 そんな我を召喚するからには相当手強い敵を相手にしているに違いない。我はその呼びかけに応えて魔法陣の元へ近づいた。


「やった! ついにバハムートを召喚できたぞ!」

「これで助かるわ!」

「ああ、この土壇場に召喚が成功するとはな!」


 空間移動には着地の際に煙幕が現れる。それが少し晴れた時、目の前には召喚士らしき人物と仲間と思しき人間たちが数名おり、歓喜の表情に満ち溢れていた。

 ふむ、見たところはそれなりに強そうだが、我を呼ぶからには強敵がいるはずだ。しかし、それらしき敵は見当たらない。召喚する前に彼らが倒したのだろうか?


『ここはどこだ? そして敵は?』


 相も変わらず煙幕が漂うため、軽く翼をはためかせて煙を追い払いながら我が問いかけると、リーダーらしき勇者がまくしたてるように話し始めた。


「ここはこの世界の中心にあるレガリアス大陸の首都中心部のアテナ……だったところです」


『だったところ?』

 過去形なのが気にかかり、言葉を返す。また煙幕が漂ってきたので再び翼を動かして払う。


「ええ、魔王が占拠してここに闇の帝国と魔王城を作り上げて……」


 ふむ、その魔王の戦いのために呼んだのか。我の相手にふさわしいが魔王はどこだ? そしてまた煙幕がきたので今度は強めに翼を羽ばたいて払う。炎の幻獣とはいえ、煙が多すぎるのは目障りだ。


『しかし、その魔王はどこだ? そして煙幕が晴れないのはなぜだ?』


「魔王は僕たちが倒しました」


 はい??


『ならば我を呼ぶ必要ないのではないか』


「しかし、魔王は最後の力で炎を一面に放ち、魔王城を燃やしてしまい、僕たちは取り残されたのです。出入口も業火に包まれ、魔導士たちも魔王との戦いに魔力を使い果たし、アイテムも底をつきました。最後の望みで召喚士にあなたを呼んでもらったのです。火属性のあなたならこの業火をなんとかできるでしょうから」


 辺りを見回すと煙の合間から炎の赤い光が見える。それに炎の幻獣の我が心地よい温度ということは火事でかなり温度が上がっているということだ。我はガクッとずっこけた。


『……バカなの? ねえ、バカなの?』


「え?」


『火事を消せというなら水属性のシヴァ呼べば良かったじゃん。我は……ええい、かしこまるのめんどい。俺は火を吐くことしかできないぜ」


「あっ」


 しかも、さっきから何度も翼をはためかせて煙を払った。つまり新鮮な空気を周囲に送っていたわけだから、より一層燃えているはずだ。あまりにもバカらしいので元の空間へ帰ることにした。


『って訳で、無理。じゃあな』


「そ、そんなー! あーれー!!」


 なんか、聞こえたが、あんなバカ達は生き残ってもしょうがない。むしろバカの遺伝子を残さないで消えた方がいいのだろう。


 チッ、全くもって無駄骨だった。俺は帰る間際に舌打ちをした。


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世界の中心で舌打ちする召喚獣 達見ゆう @tatsumi-12

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