第4話 城塞②
彼女の後を追いかけ長い門をくぐると、大きくきれいな町並みが視界に飛び込んできた。
正面には大きな通りがあり、その左右には大半が二階建てのお店らしき木造の建物が建ち並んでいる。いくらか人は歩いているが、街の端だからか人通りは多くも少なくともないといった感じだ。
左手の通りにもたくさんの店が並んでいる。店の前にテーブルが並んでいる所が多く、多分飲食店が多く集まっているのだろう。通りの壁側に他とは違う一際大きな建物があるが、そこの前には多くの人が集まり、他とは違う雰囲気と活気を放っている。
「おーい!こっちよー!」
右側から女兵士の呼ぶ声がした。
彼女のいる右手の通りは他二つの通りとは違い、木造ではなく白石造りの大きな建物が多く並んだ静かで落ち着いた雰囲気の街並みだ。通りの所々には門に立っていたのと同じ格好をした兵士が何人も見張りに立っており、そのあたりの空気を引き締めている。
女兵士は門のすぐそば、通りの右側の大きな建物の入り口の前でモトヤを手招きしていた。
彼女の元に向かうと、
「話は通してあるからここで手続きしてね。」
そう言ってモトヤを入り口の奥へと促す。
建物の中へと入るとすぐに小さなカウンターがあった。そこがこの預かり所の受付のようで、カウンターの中の中年女性と軽く会釈を交わすと、女性が一枚の紙をモトヤに差し出す。
「この魔力感応紙の円に手を置くと紙の色が変わります。その色で個人を識別するので、終わったら横の余白を切り取って無くさないよう保管していてください。」
渡された白い紙には右寄りの位置に大きな円、魔方陣が描かれており、そこに手を置けばいいようだ。
モトヤが右手を魔法陣の上に置くと、何かが手を通り抜けて出ていくような奇妙な感覚とともに少しずつ紙が変化していく。
始めは濃い赤色、そして次第に紫色が、最後には黒色が手を置いたあたりからあふれだし、紙を染めていく。変化が収まる頃には紙は僅かな赤紫を残し、ほとんど黒に染まっていた。
初めて見た不思議な光景にモトヤは――おお、すげーっ!――と何度も口にして興奮してしまう。だが紙の変化が終わったにも関わらず、女兵士も受付の女性も静かに黙ったままでいる、いや言葉を失っていると言う方が正しいかもしれない。なにか失敗してしまったのだろうか?
「えーっと…、手続きはこれでいいんですか…?」
モトヤがおそるおそる受付の女性に声をかけると、ハッとしたように女性は我にかえり、――ええ、大丈夫ですよ――と告げモトヤから紙を受け取ると、ナイフを使って黒く染まった余白をなれた手つきで切り取り、こちらに渡してくる。
女兵士のほうも気を取り戻したのか、受付の女性の指示でモトヤから鎌を預かると、奥の部屋へと運んでいった。
その後、戻って来た女兵士と一緒に預かり所を離れ、三つの通りが合流する門の広場に戻ると、
「手続きはこれで終わりよ。あの武器を受け取って街に戻るならアレにあった鞘を買って受付まで持って来てね。街から持って出るときは門の兵士に声をかけてくれたらいいわ。何か分からないところあるかしら?」
女兵士がこれが最後とばかりに確認をしてくる。
何か聞いておいた方が良いことあるだろうか、知りたいことは山ほどあるけど…。
そのときふと、さっき女兵士の言葉の一部が頭に引っかかる。
「ん、鞘を買って…?」
―――そのお金は?―――
「ああっ!!!そうだお姉さん!!!この世界でお金ってどうやって稼いだらいいのっっっ!!?」
「おっ、お金?」
思わず勢いで聞いてしまった。お金が必要なことに気が付かないとは、どうやらモトヤの頭は空腹でとっくに回らなくなっていたらしい。思ったこともどんどん口に出してしまうし、
ああ、俺ここ来てからこんなのばっかりだなぁ―――。
自分の軽率さに呆れながらもモトヤは続ける。
「そう!お金!!こういう中世的な世界ならぱぱっと出来る仕事とかあるんじゃないの!!?」
「中世……?言ってることがよくわからないけど、すぐお金になる仕事がしたいなら門から左、酒場が並んでる方にギルド連の支部があるからそこに行けば仕事くらい……というかキミ、あんな武器持ってて冒険者じゃなかったの??」
モトヤは女兵士に少し怪訝そうな顔を向けられてしまい、慌てて――俺って田舎者だから――とごまかす。
「とにかく!おねーさん色々教えてくれてありがとうね。俺この辺りのこと全然知らないから助かったよ。」
「いいえいいのよ。こういう縁、あたし大事にする方なの。この街にいればまた会うこともあるかもしれないわ。それじゃあ仕事、頑張ってきなさい!!」
最後に力強い声援をくれた女兵士のお姉さんに元気よく別れを告げ、モトヤはギルド連の支部とやらがある飲食店街に入っていった。
ダンジョンボスになった俺の気ままな異世界新生活 中谷Φ(なかたにファイ) @tomoshibi___
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