親しき人へ

@Ak386FMG

親しき人へ

「『不思議な画用紙』というお話があってね。興味ないとか言わずに聞いてくれよ。それは、こういう話なんだ。


 ある小学校のあるクラスで、『描く』という宿題が出された。生徒たちには、画用紙が1人1枚配られて、担任の先生は、そこに自分で自由に描いてきてくださいと言った。ある生徒が『なんでも、どんなものでもいいんですか?』と聞いた。そしたら先生は、『なんでも、どんなものでもかまいません』と言った。

 そこで、生徒たちは、めいめいに自由に絵を描いた。ある生徒は、絵を描こうとしたが描き始めで失敗してしまったと思った。ただ、それでもなんとか完成までこぎつけた。またある生徒は、おかしな模様を描き、おかしな色を塗った。それがどういうものなのか誰にも分からなかった。同じクラスの生徒にいたずらをされて、その画用紙に汚い線をいくつも描かれてしまった生徒もいた。その生徒は、なんとかして、その線を活かした絵を完成させようとしていた。そんな中で、ただ一人、画用紙に何も描けないでいる生徒がいた。その生徒は、何も描かれていない画用紙がとても美しいものであったので、自分がそれに手を加えることでその美しさが損なわれてしまうのが怖くて、手を出せないのでいたのだった。そこで彼が素敵な絵を描くと思っていた母親に描いてもらうことにした。

 その宿題が出された次の日、生徒全員が、絵などの描かれた画用紙を持参した。先生は、その画用紙を回収した。回収された画用紙に描かれた生徒たちの絵は、どれも輝いていた。絵を上手に描けているとは言えないものもあったが、不思議なことに、どれもが美しいように思われた。ある一枚を除いては。

 ただ1枚、同じクラスの生徒の誰が見ても美しくないと感じられる画用紙があった。それは、自分では手を出せなかった生徒の画用紙だった。汚い、醜いというわけではないが、誰が見ても価値のないものと評価されるように思われた。担任の先生は、自分で描いたのですかと尋ねた。その生徒は、はいと答えた。そうしたら、その先生は、そうですか、とだけ言った。その後、教室の後ろの壁や廊下に面した窓にそれらの画用紙が張り出されたとき、その生徒は、ほかの生徒の画用紙と比べて、自分の画用紙が全然きれいなものに見えないことに気づいた。さきほどまで、とても上手に描かれていると思った絵なのに。彼は、急にその絵が嫌いになって、教室の壁からその画用紙をとってビリビリと破ってしまった。その瞬間、彼は、消えていなくなった。

 

 君は、この話を怖い話だと思うかい? 僕は、むしろ希望を与えてくれる話なんじゃないかと思っている。何を描いても美しく見える画用紙。素敵な話じゃないか。そうならなかった生徒は残念だったが、まぁ仕方がないだろう。

 君は、画用紙にどうやって絵を描いていこうか悩んでいるようだけど、どうやったって最後には美しくなるんだから、君の思うように絵を描いて、色を塗っていけばいいんだ。」

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