1495.質疑篇:勢いと矛盾

 直近のご質問などを精査しながらお答えしております。


 本日はご質問が一件ございました。

 予定をずらして明日3月19日金曜日の連載終了となります。

 また、一件コラムを書こうか迷っているお問い合わせもございました。

 明日金曜12時までにご質問・お問い合わせをいただければ、採用されますのでぜひご応募くださいませ。


 今回は「勢いと矛盾」についてです。

 ぐいぐい読ませる「勢い」を重視すると「矛盾」が発生しやすくなります。

 どうバランスをとればよいのでしょうか。





勢いと矛盾


 小説をぐいぐい読ませる「勢い」は、書き手に熱量がなければ書けません。

 「勢い」のある小説を読み始めると、ページをめくる手が止まらなくなります。

 それほど「勢い」は重要なのです。

 世の中の種々には正反対のものが必ずあります。

 「勢い」の反対は「矛盾」です。

 どんなにめくる手が止まらなかったとしても、「矛盾」は心に引っかかりを与えて読み手を我に返します。そして急に現実が気になりだすのです。




勢いがもたらす熱狂

 あるものに「勢い」があると、人々は熱狂します。

 サッカーでJリーグが開幕してからワールドカップへ出場するまでの破竹の「勢い」は、人々を熱狂の渦へと誘いました。

 世は知ったかぶりの「自称専門家」であふれ、テクニックや戦術の解説をして悦に入ったのです。

 それまでサッカーなんて学校の授業でしかしていないにもかかわらず。

 それほど「勢い」があると、人々は熱狂するのです。


 小説にも当然「勢い」が必要です。ページをめくる手が止まらなくなるほど「勢い」のよい作品は、間違いなく読み手を楽しませる「娯楽性」に満ちています。

 そして「小説賞・新人賞」に求められるのも、「勢い」なのです。

 「勢い」のある小説は冒頭の一行からキャッチーで、読み進めると没入して、先が知りたくなってどんどんハマっていく。そして気づいたらラスボスを攻略して物語が終わってしまいます。

 ここまで一気に読ませる力こそが「勢い」なのです。


 およそ「勢い」のない名文が「小説賞・新人賞」を獲ったためしがありません。

 どんなに文章が綺羅びやかだろうと、華やいだ表現だろうと。そんなもので「小説賞・新人賞」が獲れるのなら、大学国文科に通っていた学生は皆「小説賞・新人賞」を獲れてしまいます。

 現実に現役国文科が「小説賞・新人賞」を獲った話は聞きません。

 某「就職率九割超えのアニメ専門学校」のノベル科出身で、ライトノベルの「小説賞・新人賞」を獲れた方がどれだけいるでしょうか。かなり怪しいですね。

 そもそも某「アニメ専門学校」は、受講生をふるいにかけて、就職できないと見れば強制的に退学させています。そうやって才能がある受講生だけを就職させるから「九割超えの就職率」となるのです。あの数字には、立派なカラクリがありました。


 どんなに表現が巧みでも「勢い」がなければ読まれないのです。

 まったく同じ「あらすじ」を元にしても、書きあげた作品の「勢い」と「うまさ」は千差万別。人それぞれで配分が異なります。

 もちろん両立すれば最高です。もしどちらかと問われれば「勢い」に軍配が上がります。

 「勢い」は後天的に生み出せないからです。


 「うまい」表現をするなら、私の執筆法では「執筆」のあと「推敲」の段階が当たります。ひとつの言葉から「類語辞典」を頼りに多彩な表現とするだけで書けます。

 しかし「勢い」は「執筆」の熱量が高くなければ、つまり書き手自身が物語に没頭していなければ生み出せません。そして「推敲」で付与できない要素なのです。

 だから「勢い」は先天的な要素と判断されやすい。

 そのぶん「小説賞・新人賞」で有利になります。

 ここまでさらりと書いてきましたが、「勢い」がつけられるのは「執筆」のときだけです。「推敲」でいくら手を加えても、「勢い」は減殺できても増補できません。




矛盾がもたらす破滅

 一方「矛盾」には「現実に返させる」魔力があります。

 どんなに面白い作品でも、致命的な「矛盾」を発生させると、そこですべての読み手が我に返るのです。そこまで感情移入を深めていたのに、たったひとつの致命的な「矛盾」ですべて台無しになります。

 「勢い」を重視したライティングで、「矛盾」は発生しやすいのです。

 なにせ熱量が高く物語に没頭してしまうため、「矛盾」に気づけなくなります。

 「勢い」を重視する書き手によく見られる陥穽です。

 では「矛盾」ですべての読み手に嫌われないように、「勢い」をつけず「うまい」文章を書けばよいのでしょうか。

 これは明確に「否」です。


 「矛盾」は下準備の段階でいくらでも回避可能です。

 「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」までで、「矛盾」がないかをよく精査しさえすれば必ず見つけ出せます。

 そのための「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」なのです。

 「矛盾」は「執筆」へ入る前に除去してください。


 では具体的にどこを見れば「矛盾」に気づけるのか。

 「箱書き」の段階が最も気づけます。

 ここは場面シーンが「いつ」「どこで」「誰と誰が」出てきて、どんな決めセリフや決めポーズ、決め技をとらせようかと思案している段階です。

 つまり「箱」の流れをしっかり確認しておけば、「矛盾」の入り込む余地はありません。

 あとは「執筆」での表現の「矛盾」が発生しても、「推敲」で改められますのでこちらも気を配ればよいのです。しかも表現の「矛盾」は「小説賞・新人賞」にはそれほど影響しません。単なる思い違い、書き間違いだと思われるからです。

 その程度は担当編集さんがつけばいくらでも直せます。




下準備で矛盾を潰し、執筆に熱気を注ぐ

 「企画書」はあくまでも「どんな主人公がどうなった」から「どんな主人公がどうなりたくてなにをなしどうなった」を書いたものですから、ここで「矛盾」は発生しようもありません。


 次の「あらすじ」の段階で出来事を三つ埋め込みますから、展開の「矛盾」はこの段階で気づけるはずです。


 「箱書き」は「あらすじ」を場面シーンで分割していき、時間は、場所は、どういったものがあるのか、誰と誰がいるのか。これを当てはめていきます。

 ここで演出の「矛盾」が入り込みやすいのです。

 「山頂で川が流れている」なんてありえないはずなのに、その場の演出としてつい映える絵を書きたくなります。

 気をつけていれば回避できる「矛盾」なので、「箱書き」でしっかりと演出の「矛盾」を解消してください。


 「プロット」は「箱書き」さえきちんと完成していれば「矛盾」の犯しようがありません。

 ただ「散文」ドラフトでト書きを散文に切り替える際、叙述の「矛盾」を発生させてしまう方もいらっしゃいます。

 知らぬ間に太陽が西から登っていたり、川が下流から上流に流れていたり。ちょっとした表記ミスで小さな「矛盾」は発生するのです。

 まぁ「プロット」での叙述の「矛盾」は「小説賞・新人賞」では軽微なミスと捉えられやすい。「あらすじ」での展開の「矛盾」、「箱書き」での演出の「矛盾」は確実に潰してください。


 下準備が整えば、あとは「視点固定」ドラフトをもとに「執筆」すればよいのです。

 一心不乱に、一気に書き連ねてください。

 熱量が高ければ高いほど文章に「勢い」が生じます。

 あなたは「矛盾」を潰した完璧な「プロット」を手にしているのですから。

 迷わずひと息に書ききってください。





最後に

 今回は「勢いと矛盾」にお答え致しました。

 「勢い」は「執筆」だけで作り出されます。

 「矛盾」は叙述以外「あらすじ」「箱書き」「プロット」で発生するのです。

 だから「プロット」までの下準備であらゆる「矛盾」を潰してください。

 そうすれば「勢い」を感じながらも「矛盾」のない、つまり「完成度の高い作品」に仕上がりますよ。



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