1484.質疑篇:誰か読み手を想定する

 過去のご質問などを精査しながらお答えしているため、応募期間が多少前後しますのでご了承くださいませ


 小説を書くなら、必ず「読み手」を設定してください。

 誰かに読まれるために十万字を書くのですからね。

 ですが本当に「読み手」を設定していない作品が意外と多いものです。





誰か読み手を想定する


 小説はとかく書き手が好きなように書きがちです。

 本来小説とは、読まれて初めて価値が生じます。誰に読まれるでもなく、書き手の書きたいようにするだけでは、結局誰にも伝わりません。

 そこで小説を書く際、「この小説を読むのは○○さん」とイメージしながら書くようにしてください。




読み手がわかるように書く

 特定の読み手を想定すると、その方にとってわかりやすい文章を書こうと強く意識します。

 たとえばあなたが親であれば、息子である中学三年生の男子が読むと想定するのです。

 作品に「バブルのジュリアナで見たようなワンレンボディコンギャルがそこにいた。」と書いていたら。伝わるはずがありませんよね。

 バブル景気なんて今から三十年以上前の話ですよ。今の中学三年生が実態を知りようもありません。

 「バブル」「ジュリアナ」「ワンレンボディコン」とはなにか。

 そこから詳しく説明しなければなりません。

 「儚い泡と消えた未曾有の好景気の頃、有名ディスコ・ジュリアナ東京で見たようなこれぞお立ち台ギャルと呼ぶべき格好をした女性がそこにいた。」

 これならかなり説明できたような気もします。

 「バブル景気」を知らない人にどう伝えたらよいのか。「ワンレンボディコン」なんて絵でも書かないかぎり正確には伝えられそうもありません。

 実はこのジェネレーションギャップが原因で「昭和時代やバブル景気の頃の物語」は数が少ないのです。

 「バブル景気」を体験してきた人だからこそ、「バブルのジュリアナ」と書くだけで共通認識を得られました。しかし現在の主要な読み手層である中高生にはなんのことかさっぱりわからないのです。

 書き手は知っているのに読み手は知らない。それを1から説明しなければならないなんて、冗長なのではないかとの感想を持ちます。

 しかし読み手は詳しく書いてくれなければ理解できないのです。

 こうなると昭和時代やバブル景気の頃を舞台にした作品が減って当たり前。

 その点「ナーロッパ」は書き手と読み手が認識を共有している世界観であるため、説明しなくても通じてしまいます。

 だから小説投稿サイトでは「ナーロッパ」が幅を利かせているのかもしれませんね。

 まぁ令和の時代に「バブル景気」の頃の物語を書いても、需要はそれほどないはずです。

 もっと他に、現代人が読みたがる時代設定があるでしょう。たとえば「小惑星探査機はやぶさ2」の開発と運用に挑んだJAXA職員の話なら、今の読み手もガッツリと食らいつきますよね。




読み手に満足してもらえる作品を書く

 小説は物語を読み手に伝えるために書かれます。

 であれば、読み終えたときに満足感を覚える作品のほうが評価は高いはずですよね。

 小説でも論文でもそうですが、なにかひとつ読み手に訴えかけるものを持ちましょう。

 太宰治氏『走れメロス』は「友情のたいせつさ」を訴えかけていました。

 世界初の長編小説と呼ばれる紫式部氏『源氏物語』は「プレイボーイの末路」を訴えかけたのです。

 訴えかけるものがあると、読み手はそれを強く記憶します。

 『走れメロス』を読んで「友情は大事だ」、『源氏物語』を読んで「プレイボーイの晩年は哀れだ」と感じる。そこに読み手の満足が反映されるのです。

 ここで「訴えかけるもの」と書いていますが、本コラムでは同じことを別の言葉で表現しています。

 「テーマ」です。

 「命題」「テーマ」「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の下準備のふたつめに当たります。

 小説はとくに「テーマ」つまり「訴えかけるもの」がないと読後感がスッキリしないのです。

 「テーマ」を設定せずに長編小説を書いても、読み手へ「訴えかけるもの」がありませんから、どうしても底は浅くなります。

 満足感こそ小説の価値を高めるのです。

 もし「テーマ」がなければ、その小説はその場限りの娯楽でしかありません。読み終わってもなんの教訓も得られない。時間の無駄だった。そんな感想を抱いたら、もう二度とあなたの作品を読まなくなります。

 書けば書くほど読み手が減って困る。

 そんな方はこれまで「テーマ」を蔑ろにしてきませんでしたか。




特定の誰かにテーマを届ける

 具体的に読み手をひとり想定する。それはその人に「テーマ」を届けるためです。

 わかりやすく噛み砕いた表現で、読みやすい小説を書く。

 そこまで手を尽くして気を配って、初めて小説は正当に評価されます。

 たったひとりにすら伝わらない小説が、万人に受け入れられるはずもありません。

 伝えたい「テーマ」のない小説は、たったひとりにすら「訴えかけるもの」がないのです。だからどんなに筆致を尽くしても、いくら表現が巧みでも、そんな小説は駄作と断ぜられます。

 小説を書くときに必要なもの。それは「テーマ」と「伝えるべきたったひとりの読み手」です。

 どうすればあの人にこの物語を、「テーマ」を伝えられるのか。

 その取り組み方で、文章はより洗練されていきます。

 書き手は絶対自分に溺れてはなりません。

 自分のために作品を書くのでは、文章も独りよがりとなりがちです。

 誰でもよいので「この人に読んでほしい」「この人に訴えたいテーマが伝わる文章を書きたい」と思うから、そういう文章になります。

 ひとりは万人に通じるのです。

 たったひとりが感動する作品は、必ず万人も心を動かされます。

 あなたに必要なのは「訴えかけるもの」つまり「テーマ」と、それを伝えるべき「たったひとりの読み手」です。





最後に

 今回は「誰か読み手を想定する」についてお答え致しました。

 ひとりを説得できずに、どうやって万人を説得するのか。

 弁論が立つ人は、目の前にいるひとりを完膚なきまでに言葉で叩き潰します。だからこそその他大勢からも恐れられる存在となるのです。

 あなたにとって、物語でなにを伝えたいのか。誰に伝えたいのか。これをはっきりさせましょう。



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