1482.質疑篇:語彙力の時代ですがどのくらい必要ですか
過去のご質問などを精査しながらお答えしているため、応募期間が多少前後しますのでご了承くださいませ。
近年提起されて一時代を築いた「語彙力」。
小説を書くにあたって、どれだけの「語彙力」を身につければよいのでしょうか。
語彙力の時代ですがどのくらい必要ですか
語彙力とは類語をどれだけ思いつけるかを表した能力です。
小説にももちろん語彙力は求められます。
しかし新聞記事や論文を書くのでなければ、それほど難解な語彙は必要ありません。
高校卒業までの国語・現代文で身につけた語彙を使いこなせればよいのです。
表現の多様化が図れる
語彙をたくさん知っていると、読み手へより正確に説明できます。
「言う」には「述べる」「伝える」「告げる」「ささやく」のような語彙があるのです。
すべての発言を「言う」で書いてしまうと、ひじょうに稚拙な印象を読み手に与えてしまいます。
「小説賞・新人賞」を狙いたいなら、「言う」の一辺倒はやめましょう。
一次選考の大きな関門は「語彙力」だと思われます。多少の誤字脱字はスルーして受賞させてからいくらでも添削で直していけます。
しかし語彙に関しては、応募段階から多用な表現ができていなければ即脱落です。
すべて「言う」で済ませて「小説を書いた気になる」方が多いのですが、それは大間違い。
「推敲」の段階で「表現」を改める段階がありましたよね。そこで確実に「その場に合った語彙」を使いこなすのです。
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「今度サボったらクビな」
上司に言われてしまった。
「本当に歩道橋に難儀していたおばあさんがいたんです」
オレは言った。
「この前も横断歩道を渡れないおじいさんがいたんだよな」
嫌味を言われてカチンときた。
「おじいさんもおばあさんも実在しています!」
激高して思いのままに言った。
「じゃあそのおじいさんとおばあさんを連れてこい」
上司はできもしないことを言った。
オレは唇を噛みながら怒りに堪えていると、それまで電話を受けていた桜沢さんが言った。
「あの、うちの課の仲本に会いたいというご老人が二名、受付を訪れているそうです」
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さぁ、すべての発言を「言う」にしてみました。
これを読んで、ものすごく稚拙だと思いませんか。なんですか、例題の物語が面白くないって。あくまでも例文ですからね。私が本気で書けばもっと質のよい例文だって書けます——と述べたいところですが、最近小説を書いていないのでかなり錆びついていますね。
上記を「言う」の語彙を使って書き分けてみましょう。
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「今度サボったらクビな」
上司から告げられてしまった。
「本当に歩道橋に難儀していたおばあさんがいたんです」
オレは語った。
「この前も横断歩道を渡れないおじいさんがいたんだよな」
嫌味を投げかけられてカチンときた。
「おじいさんもおばあさんも実在しています!」
激高して思いのままに声を荒らげた。
「じゃあそのおじいさんとおばあさんを連れてこい」
上司はできもしないことを述べた。
オレは唇を噛みながら怒りに堪えていると、それまで電話を受けていた桜沢さんがこう口にした。
「あの、うちの課の仲本に会いたいというご老人が二名、受付を訪れているそうです」
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このくらいの語彙力は残っていたのかとホッとしました。
厳密には「投げかけられて」「声を荒らげた」は「言う」の語彙ではありません。
ただ動作方向を明確にするため「言う」の代わりに使えるのでこうしてみたのです。
「プロット」「執筆」のときに「すべて『と言った。』でかまわない」と述べたのは、語彙を考えるのは「推敲」の段階でよりふさわしい言葉に置き換えれば済む話だからです。
この「後で置き換える」方法だと、直近で同じ表現を重ねずに済みます。
「プロット」の「散文」ドラフト、「執筆」のときに表現の重複を防ごうとすれば、かなり時間がかかってしまいます。
「執筆までは同じ表現でかまわない」「推敲で語彙・類語に置き換えていけばよい」と憶えておけば、執筆速度はどんどん上がるのです。
語彙を増やすには、暇を見て類語辞典に親しむこと
とはいえ、語彙を増やすのは相当に難しいのは確かです。
普通なら「小説をたくさん読め」と言われてしまいますが、今から読書量を増やしても間に合いません。
では今からできる語彙力の向上法はないのでしょうか。
あります。「類語辞典に親しむ」のです。
前述しましたが、当初はすべて「言う」と書いてかまいません。
それを「推敲」の段階ですべて置き換えていきます。このとき用いるのが「類語辞典」です。
たとえば「言う」のページを開いて、そこに書いてある類語へ適宜置き換えていくのです。こうすると「言う」の語彙をまとめて増やせます。
細かなニュアンスの違いは、もともとその類語を知っていなければわかりません。
そのような場合は、いったん国語辞典を取り出して細かなニュアンスを読んでください。それを用いるのが適切であればそれにし、どうも違うなと感じたら別の類語に当たればよいのです。
語彙力と言いますが、基本的には「類語辞典」にどれだけ親しめるかにかかっています。
私の執筆法では「プロット」の「ト書き」ドラフトではすべて「と言った。」でかまわないと述べました。「散文」ドラフトで小説の文章に変換するときもまだ「言う」で揃えてかまいません。「視点固定」ドラフトはあくまでも視点を統一するために書き直すので、ここでもまだ「言う」だけです。
「プロット」をもとに「執筆」するとき、可能であればその場で適切な語彙を選べればよいのですが、なかなかそうもいきません。適切な類語を思いつくのに時間がかかるようでしたら「言う」のままで結構です。
「執筆」をすべて書き終えたら、ここから「類語辞典」の出番がやってきます。
すべて「言う」「聞く」「見る」「書く」と書いたところを、一気に適切な語彙に換えていくのです。
先ほども書きましたが、一気に換えると近場で同じ表現をしないように意識できます。
結果として表現力豊かな文章に早変わりするのです。
でも、それは語彙力がなかったからできました。
なまじ語彙力があると、近場で同じ表現を繰り返してしまう可能性が高くなるのです。
どう表現するのが適切なのか。すべては「類語辞典」に書いてあります。微妙なニュアンスの違いがわからないときは、国語辞典を引きましょう。それだけで済むのです。
また平時から「類語辞典」を読むクセをつけると、表現力がどんどん豊かになっていきます。
人間、憶えているようで、いざというときにすんなりと出てこないものです。それは記憶から頻繁に出し入れしていないから。「類語辞典」を読んで情報の並び替えを行なえば、脳内の
すぐれた書き手になりたければ、他人の小説を読むのも大事です。それ以上に「類語辞典」を読んだほうが表現が華やぐのです。
語彙力関係の書籍を読んでも、それなりに知識がついて類語もいくつか仕入れられます。しかし「類語辞典」以上に多くのバリエーションはカバーしていません。
ここは横着せず「類語辞典」を読んでください。
最後に
今回は「語彙力の時代ですがどのくらい必要ですか」にお答え致しました。
語彙力は憶えるのが一番。しかしすべての類語を今から憶えるのはまず不可能です。
そこで適宜「類語辞典」を引きながら書けばよい。
しかも私の執筆法では最後の「推敲」の段階で、すべて「言う」だったものを「類語辞典」を引いて適切な類語に置き換えていくだけです。
こんな簡単な方法でも、表現力に雲泥の差が生じます。
現在はすぐれた「類語辞典」が数多くあるのです。それを使いこなして、あなたの表現力向上に役立ててください。
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