1477.質疑篇:推敲ってなにをすればよいのか

 過去のご質問などを精査しながらお答えしているため、応募期間が多少前後しますのでご了承くださいませ。

 今回は最近のご質問です。


 「推敲って具体的にはどうするの?」

 言葉を尽くしたつもりでも、読み手からすれば足りていない。小説でもよくあるケースです。

 そういう部分も含めて見ていくのが「推敲」になります。





推敲ってなにをすればよいのか


 確かにこの手の詳しい話はしてきませんでしたね。

 だいたいの方は知っているもの、という既成概念がありました。

 まぁモノクロレーザープリンターで印刷しろ、とかそのへんには言及していますが。

 そこで今回は「推敲」についてのご質問にお答えします。




推敲とはそもそもなにか

 これは数回書いたと思うのでスルーしていいかな。古代中国の賈島が韓愈に「推すがよいか敲くがよいか」尋ねて「敲くがよい」と言われたものです。

 まぁ推敲のたびに話しているのでこのくらいで。

 まず「推敲」とは文章が出来上がってから「よりよい表現」を探す行為です。

 今書いている文章であれこれ表現に悩むのは「推敲」とは呼びません。

 「推敲」とは自分で行なう修正で、他人が行なえば「添削」となります。

 だから韓愈がしたのは「推敲」ではなく厳密には「添削」です。

 ここでは「添削」も「推敲」に混ぜて語ります。「添削」を受け入れるかどうかは書き手の意志によりますので。

 「小説賞・新人賞」の応募期間が迫っている。書きあげたらすぐにでも応募しないと。

 これが「推敲」不足で一次選考を通過できない方に共通する特徴です。

 「推敲」もせずに応募するのは、すっぴんで外をうろつきまわるようなもの。己のブサイクを喧伝しています。




原稿を書いたらまず寝かせる

 「推敲」について、多くの文章読本では「一日寝かせてからするべし」とされています。

 なぜ「寝かせる」のか。書き手の頭が「執筆モード」のままだと、文章の欠点が見えてこないからです。

 では「寝かせる」期間について。これは一日でよいとする方と一週間寝かせる方がいらっしゃいます。どちらが正解ではありません。頭を「執筆モード」から「推敲モード」に切り替える時間がどれだけかかるかです。

 人によっては一日寝かせれば切り替えられる。他の人だと一週間かかってやっとの方もいます。

 だから「どれだけ寝かせる」かはその人によるのです。

 私のように頓着しない性格だと、「執筆モード」も「推敲モード」もスイッチひとつで切り替えられます。これは多分にスペックの差です。私は頭の切り替えが恐ろしく速く、少しずつ修正しながら同じ作業を繰り返すなんて芸当もできます。逆に言うと「記憶力がすこぶる悪い」のです。これを是とするかですが、万人にはオススメしかねます。その人の性格次第でこれがハマる方とまったく噛み合わない方がいらっしゃるからです。

 だからその他大勢の方に「推敲」を指導するときは「書いたら寝かせる」ように伝えています。

 原稿を「寝かせる」理由は、書き手が「執筆モード」から「推敲モード」へ切り替える時間がかかるから。それ以上でも以下でもありません。




原稿を客観的に見るには

 「推敲モード」に切り替わったら、原稿を客観的に見てください。けっして「ここを書くのに苦労したなぁ」などと主観を交えないようにします。主観が入ればまだ「執筆モード」のままなのです。だから客観的に見るよう努めましょう。

 これは何度も書いていますが、書き手ひとりで「推敲」したければレーザープリンターがあると心強い。液晶ディスプレイで文字を追うより、紙に出力してチェックすると「推敲」のレベルが数段変わってきます。

 芥川龍之介賞を受賞し三百万部超えを達成したお笑い芸人・ピースの又吉直樹氏。彼も「推敲」は紙ベースで行なっているのです。

 紙に印刷するだけでそれまでの主観が、一気に客観視できるようになります。

 液晶ディスプレイは「執筆」に使った道具なので、液晶ディスプレイを見るかぎりは「執筆モード」を維持してしまうからです。

 また紙に印刷すると、見つけたその場で修正できません。必ず紙にチェックを入れて「ここはこう直したほうが」と考えられるのです。つまり「推敲」した跡が紙に残ります。実はこの「推敲」の跡が残るだけで、「推敲」はすこぶる捗るのです。

 「寝かせる」「紙に印刷する」この合わせ技で、あなたも確実に「推敲モード」へ切り替えられますよ。




推敲は一度で終えない

 推敲は回数を重ねて精度を増す作業です。始まりから了までを一回読んで手を入れただけでは、ほとんどの問題点はすり抜けてしまいます。


 まず「誤字脱字」「用字用語」をチェックしてください。単に一文字ずつ読んでいけば間違いに気づけます。可能であれば声に出しながら読んでください。声に出すとつっかえる部分に気づけます。実際声を出さないと気づけないので、とくに「推敲」初心者にはオススメします。「液晶ディスプレイ」で「執筆モード」のままでは、一文字ずつ読もうとしなくなるのです。「さっきまで書いていた原稿なんだからミスはない」と思い込んでしまいます。それこそが落とし穴なのです。

 また固有名詞の「誤字脱字」は命取りにやりやすいので注意してください。あなたの小説で「健司」「研二」と書いてあったら、「けんじ」がふたりいるように読み手には映ります。どちらかが「誤字」であれば「小説賞・新人賞」でも致命的になりかねません。「健司」「健」と書いてあったら「けんじ」と「たけし」のふたりいるように受け取られますが、これも「脱字」であれば致命傷です。

 私も本コラムを五百万字以上連載してきました。「執筆モード」で書いてから、実際に小説投稿サイトへ掲載するまでに最低でも一日空けて、二回の「誤字脱字」「用字用語」チェックをしています。だからこそ、それほど大きな「推敲ミス」は発生していないのです。たまに失敗しますけどね。


 次に「助詞と漢字の重複」をチェックします。重複してよい助詞もあるのですが、基本的に一文で同じ助詞は使わないようにするだけで、文章はより洗練されます。

 重複してよい助詞は列挙の「と」「や」「か」「とか」くらいです。所有と所属を表す助詞「の」は連続二回までに抑えてください。連続三回以上になると、とたんになにが言いたいのかわかりづらくなります。

 漢字の重複は「馬から落馬した」「あらかじめ予定を立てる」の類いです。「馬から落馬した」は「馬」の字が重複しているのですぐわかるでしょう。「あらかじめ予定を立てる」は一見すると問題なさそうですが、「あらかじめ」を漢字で書くと「予め」なので「予」の字の重複になります。とくに副詞はひらがな書きするものなので、元となる漢字を憶えておかないと正確な漢字の重複チェックはできません。


 最後に「表現」の良し悪しを比べて、より伝わる表現に書き換えていきます。たとえば「檄を飛ばす」ですが、これを「気合を入れるために大声を発する」意で使う方が多い。実際には「仲間を集めるための書状を各地に発送する」意です。ここを勘違いすると「小説賞・新人賞」で一次選考を通過できなくなる可能性もあります。

 「推敲」の語源「推すか敲くか」の是非も「表現の良し悪し」を見ているのです。文章を書いているときに悩むのではなく、後から「推敲」するときに悩めばよい。そう思えば執筆に余計な時間はとられません。


 まぁ「誤字脱字」「用字用語」「助詞と漢字の重複」「表現の良し悪し」がてんでダメでも物語が傑出していれば「小説賞・新人賞」は獲れてしまうのが実情です。だからなにがなんでも「これがダメ」とは言えません。でも同じレベルの小説が二本あれば、大賞を獲るのは間違いなく「しっかり推敲できている」ほうです。

 MBS系『プレバト!』では毎週「才能アリ」が複数出ても「一位と二位」は点数で順位づけされていますよね。あのような採点が「小説賞・新人賞」で行なわれていると考えていただければよいでしょう。


 「句読点の打ち方」も「推敲」の対象です。昔から知られている文に「ここではきものをぬいでください。」があります。これが温泉での表記だと、あなたはどう捉えますか。

 「ここで履物を脱いでください。」なのか「ここでは着物を脱いでください。」なのか。

 ひょっとするとここで素っ裸になってしまう温泉客だっているかもしれません。

 本来なら漢字で書けばよいものを、子どもにもわかるようにとひらがな書きした結果、受け取り方が複数ある文になってしまうのです。

 どうしてもひらがな書きにこだわるなら「読点」を打ってはっきりさせましょう。

 「ここで、はきものをぬいでください。」「ここでは、きものをぬいでください。」

 どうですか。「読点」を打つだけで誤読が回避されました。

 「句読点」は誤読を起こさないために打つべきものです。もちろん息継ぎのポイントともなります。ですが「読み間違えない」ために打つのが本来の句読点のあり方です。


 「情報の間違いがないか」「論理が破綻していないか」も「推敲」します。たとえば何年何月何日の東京の天気が「晴れ」と設定しても、実際には「雨」の日だった、という事態を避けられます。これは事実がきちんとありますので、インターネットで検索すれば正しい情報が手に入ります。

 また「矛盾」も「情報の間違いがないか」「論理が破綻していないか」に含まれます。あるシーンでは橋を渡って右側に学校があるのに、このシーンでは橋を渡って左側に学校がある。これも「情報が間違っている」ので「矛盾」ですよね。

 「矛盾」の言葉自体が「どんな盾をも貫く矛と、どんな矛をも防ぐ盾、戦わせたらどうなるか」という「情報が間違っている」「論理が破綻している」例になります。




添削を受けてみる

 「推敲」はコツがつかめないとなかなかうまくなりません。

 どうやってコツをつかめばよいのでしょうか。

 「他人の添削を受ける」のも一手です。

 前述したように「添削」は他人が行なったものです。

 「添削」を受けてみると、どういったところを見ているのかがよくわかります。その「添削」の目を自分も持つつもりで「添削」結果を見ていくと、自然と「推敲」のコツもつかめてくるのです。

 また自分ではじゅうぶんに「推敲」できた、と思って他人に「添削」してもらったら、ごっそり指摘が返ってきたパターンも発生します。

 これなども「推敲」がいかに「客観視」をたいせつにするか体験できます。だから一度でもよいので他人の「添削」を経験すれば、「推敲」のコツを確実に飲み込めるでしょう。





最後に

 今回は「推敲ってなにをすればよいのか」についてお答え致しました。

 「文章を客観的に見て、是非を判断する」のが「推敲」です。

 客観視できるようになるまで原稿を寝かせ、紙に印刷してください。

 「執筆モード」と同じ液晶ディスプレイで「推敲」するから誤りを見つけられないのです。

 それでも「推敲」が苦手な方は、誰かの「添削」を受けましょう。

 「文章をどう直せばよいのか」を実地で教えてもらえるので、「推敲」の考え方を直接知るチャンスとなりますよ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る