1476.質疑篇:推奨の創作法でこうすればと閃いたら

 過去のご質問などを精査しながらお答えしているため、応募期間が多少前後しますのでご了承くださいませ。

 今回は最近いただいたご質問です。


 本コラムでは誰もが必ず最後まで長編小説が書ける「システム」として「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を提唱しています。

 しかしある程度書ける方だと「プロット」を書いているときに「こうすればもっと面白くなるかも」とひらめいてしまうそうです。

 そのとき推奨の書き方とひらめきのどちらを重視すればよいか。

 なかなか難しいご質問にお答えします。





推奨の創作法でこうすればと閃いたら


 本コラムにおいて推奨しているのが「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を経てから執筆する手法です。

 ここまできっちりと物語の構造を固めているのに、それでもひらめきは突然湧いてきます。

 「こうしたほうがもっと面白くなる」

 ひらめきのままに改変してもよいものでしょうか。




プロットを書きながらひらめいたら

 「企画書」「あらすじ」の段階では、ひらめいたらそのまま反映させればよいのです。この段階なら一日にいくらでも思いついて、新しい物語をストックしておけます。

 「箱書き」は「あらすじ」を場面で区切って物語の構成を決定する段階です。この段階もひらめいたらそのまま場面を増やしたり変更したり外したりすればよい。いくらでもやり直せるのが「箱書き」を創る利点です。

 しかし「箱書き」が確定して「プロット」に突入したら、注意が必要になります。

 「プロット」は「箱書き」で定まった構成を文章化する段階です。つまりここでアイデアがひらめいても、それを書き加えたり書き換えたりしただけで物語は破綻しかねません。よほど注意深く検討しなければ、どうしても構成がまとまらず、「小説賞・新人賞」でも選考通過は難しくなります。




次回作にまわせないか

 「プロット」に入ってからひらめいたら、基本的に完成した「箱書き」は変えないでください。ここで変えてしまうと構成がめちゃくちゃになりかねません。

 でも思いついてしまったからには、書かずにいられない。

 衝動を抑えきれない方も中にはいらっしゃるはずです。

 ですが、ここはぐっと我慢してください。ここで「箱書き」を変えてしまったら、完璧に組んだ構成が破綻しかねないのです。

 でもせっかく思いついたのだから。

 その思いもじゅうぶんわかります。

 であれば、そのひらめきを次回作にまわせないでしょうか。ひらめいたアイデアを却下するのではなく、次に活かせばよいのです。なぜ今書いている物語にひらめいたアイデアを入れなければならないのか。

 人間は衝動の生き物です。衝動に突き動かされて火を手に入れ、道具を発明して便利な社会を構築していきました。

 だから衝動にはなかなか抗えません。

 しかし抗えなければ構成がめちゃくちゃになり、せっかく書いた十万字の長編小説も「小説賞・新人賞」の一次選考すら通過しなくなる可能性もあります。

 あなたは、今の満足と将来の満足のどちらをとるのでしょうか。

 衝動を今満たして、「プロット」を書きながら「箱書き」を大幅に書き換えてしまうのか。衝動を抑える。そして、ひらめきを活かせる次回作へ繰り越すのか。

 本気で「小説賞・新人賞」が獲りたいのなら、衝動を抑制して冷徹に判断してください。感情よりも計算を上におくのです。

 そもそも「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の順に小説を書く理由は「システマティック」に小説を書くためです。衝動やひらめき、思いつきなどをとことん排し、構成を論理的に定め、定まった筋書きに従って「執筆」していきます。

 この中にひらめきや思いつきの入り込む余地はないのです。

 「プロット」を書きながら「こうしたほうが面白くなる」とひらめいても、それは次回作で活かせばよい。新たな「箱」を用意して「面白くなる箱書き」を作成しておくのです。それを次回作の「箱書き」に混ぜて構成を決めます。そうすれば長編小説を書くごとにどんどん面白い物語が生まれる。好循環を生み出せるのです。

 だから「プロット」に踏み込んでからの「ひらめき」は今作には混ぜないでください。

 次回作を今作よりも面白くするのは、つねに今作を進める過程で生まれた「ひらめき」です。

 質のよい「ひらめき」は修羅場になればなるほど生まれてきます。そうして創作の手を止める働きがあるのです。

 皆様も、忙しいときに限って「よいアイデア」が「ひらめき」ませんか。

 その「ひらめき」は正しい。ですが、それを今作に反映させるのは正義ではありません。すでに固まっている構成をぶち壊してしまう凶悪な猛獣かもしれない。




職人ほど注文を忠実に作る

 これまで「ひらめき」に頼って連載小説を書いてきた書き手ほど、「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を用いたシステマティックな創作で「ひらめき」を得ます。

 それを駄目だというのは、あなたが創っているのが小説ではなく刀剣だったらどうなるかを考えているからです。

 刀剣にはさまざまな工程があらかじめ定まっており、たとえ鍛造中に「ひらめき」を得たとしても、今打っている刀剣はこれまでどおりシステマティックに創り上げます。そして次の刀を打つときになってから先ほどの「ひらめき」を試してみるのです。

 仕事として刀鍛冶をしているのであれば、名刀の作り方を変えてはなりません。安定して名刀を生み出すためにです。しかし今よりも素晴らしい名刀になる可能性がある「ひらめき」を得たら、それを試すべき。でもそれは今ではない。今は安定した名刀を創るときであって、先方の基準を満たした名刀を納品しなければなりません。納品がきちんと済んでから、新たな素晴らしい名刀になる可能性のある「ひらめき」を試すのです。

 刀鍛冶はなかなかピンとこないたとえかもしれませんね。

 一流料理人のレシピ作り、人気パティシエのスイーツ作り、定評のあるパン屋の新作。これらにもたとえられます。いずれも注文が入ったら(「小説賞・新人賞」がアナウンスされたら)その商品を作るのです。作っている途中でいくらすぐれた「ひらめき」があっても、注文は揺るがせません。

 すべての職人は、今求められているものと、新作を考えるときを区別しています。

 注文をこなしている仕事中に、新作開発なんてしません。閉店してから考えるのです。




それでもひらめきを貫きたいなら

 それでも「プロット」を書きながらひらめいたアイデアに変えたいと強く思ったら。どうしても抑えようがなく、書きたくなったならば。

 今回の「小説賞・新人賞」は獲れなくなる可能性が高くなります。でもどうしても衝動を抑えられないのなら、意を決して「ひらめき」に従いましょう。

 ですが単に「ひらめき」のままにするのではありません。いったん「箱書き」まで戻って、新たな構成に改めていくのです。もし「箱書き」すべてを確定するのに一週間かかっていたら、今回の改定でも一週間かかるかもしれない。「小説賞・新人賞」の募集期間までに完成できるでしょうか。スケジュールをとことんシビアに計算してください。

 「ひらめき」の衝動を抑えられなくても、それを組み入れるには周到な計算が不可欠です。

 もし間に合う算段がついたら、大急ぎで「箱書き」を確定させてください。ここからは時間勝負です。

 「箱書き」が決まったら、すぐに「プロット」の「ト書き」ドラフト、すでに書ける方は一気に「散文」ドラフトを書いてもかまいません。「ト書き」は小説を書き慣れない方でも作品を完成させられるステップに過ぎないからです。最初から「散文」が書けるのなら、あえて手間のかかる「ト書き」ドラフトを挟まなくてもかまいません。

 「散文」ドラフトが出来たら、頭から読み返して「視点固定」ドラフトを済ませましょう。これが終わると、あとは表現力との勝負「執筆」に移行できます。

 No.1474でも書きましたが、最低でも「執筆」に二十日間、「推敲」に十日間は欲しいですね。ですので「プロット」が締め切り一カ月前までに完成しているのが条件になります。

 私が書くのだから文章にミスは犯さない。だから「推敲」なんて一日で終わらせられる。だから三週間あればじゅうぶんだ。

 そう自信過剰になる方もいらっしゃいます。そういう方ほど些細な「誤字脱字」だけではなく慣用句の誤用を招いても気にしません。

 しかしただ応募原稿を読む選考さんはすぐに誤字脱字・誤用に気づきます。コツコツと減点が積み重なっていくわけです。

 よほど物語が群を抜いて面白くなければ、選考レースから早々に脱落してしまいます。

 だから絶対に「推敲」は十日間用意しましょう。「執筆」しながら、確定させた部分を読み返して続きを書くようにすれば、「執筆」時間に「推敲」を混ぜられます。この場合でも合計で三十日間はとってください。またこのスタイルで執筆するとき、書き出しが抜群にうまいのに、佳境クライマックスに近づくほど訂正箇所が多くなって残念になるケースが多いのです。だから佳境クライマックスから結末エンディングまでを最低でも三回見直せるくらいの余裕を持って「執筆」を終えてください。


 ここまでやれそうなら、ひらめきを今作に入れてもかまいません。

 しかし「自分は書けるほうだから」と自己評価だけでひらめきへ脱線すると、たいてい取り返しがつかなくなります。

 「システムに乗らなくても書ける」と言い張れるのは、システマティックに執筆してたくさんの作品を世に放ってきた方だけです。実績もないのに「私は書ける」なんて考えないでください。





最後に

 今回は「推奨の創作法でこうすればと閃いたら」についてお答えしました。

 自分の技量とスケジュールを知らなければ、いちがいに脱線しろとは言えません。

 「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を経れば、誰でもシステマティックに小説が書けます。だからまずはシステムに乗っかって長編小説を連発するのです。そうやって書き慣れて初めて「ひらめき」を採用しても応募期間に間に合わせられます。

 一作も満足に書けない方が、「プロット」の最中に「ひらめき」に従っても、結局今作も完成させられないでしょう。

 「ひらめき」が盛り込めなくて欲求不満になるかもしれません。

 しかし長編小説を一作一作、確実に量産していかなければ、そもそも「ひらめき」が活かせるレベルには達しないのです。

 まず技量とスケジュールを把握してください。



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