1464.端緒篇:物語を象徴するもの
今日が正真正銘、毎日連載1,400日目となります。
これだけ長いと最初のコラムは内容が異なっている部分もありますね。
そんなわけで本日は「物語を象徴するもの」についてです。
長編小説では、ひとつ「物語を象徴するもの」を設定すると、芯が生まれて読み応えも増しますよ。
物語を象徴するもの
「物語を象徴するもの」とはなんなのか。
マンガの藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』でおばあちゃんに会いに行く物語は「タイムマシン」がなければ成立しません。つまりこの物語では「タイムマシン」こそが象徴なのです。
川原礫氏『ソードアート・オンライン』ではVRMMORPG「ソードアート・オンライン」に参加するためのデバイス「ナーヴギア」が象徴になります。プレイヤーの生死を左右するからです。
長編小説には欠かせないもの。それが「物語を象徴するもの」です。
それは指輪物語から始まった
異世界ファンタジーの祖といえばJ.R.R.トールキン氏の代表作『指輪物語』とその世界観である「中つ国」です。
エルフやドワーフなどの亜人・妖精が活躍し、後世
日本では『D&D』リプレイとしてコンピュータゲーム雑誌『コンプティーク』で連載されたグループSNE『ロードス島戦記』によって広まったのです。
だから日本の「異世界ファンタジー」は『ロードス島戦記』の「剣と魔法のファンタジー」を踏襲している作品が多い。でもルーツをたどれば結局『指輪物語』に行き着きます。トールキン氏はとくに日本に大きな貢献をしたのです。
異世界ファンタジーといえばJ.K.ローリング氏『ハリー・ポッター』シリーズも有名ですよね。「異世界ファンタジー」でありながら『指輪物語』とは異なる世界観を築き上げ、世界中にブームを巻き起こしました。
それなのに日本の「異世界ファンタジー」は水野良氏『ロードス島戦記』シリーズの世界観、突き詰めれば『D&D』そして『指輪物語』まで遡ってしまうのです。
この発想の貧困さは致命的とすら言えます。
他人が創った世界観を丸パクリし、自らはその上で物語を繰り広げるだけ。
まさに「二次創作」大国なのです。
その意味では『ロードス島戦記』すら「二次創作」なんですよね。
なぜか指輪物語から学ばなかった
そんな『指輪物語』ですが、後発の作品はなぜか「物語を象徴するもの」を真似しなかったのです。
なにも「一つの指輪」である必要はありません。冒頭で示した『ドラえもん』の「タイムマシン」だってよいのです。
その「物語を象徴するもの」が示されていない作品ばかり。「二次創作」なのになぜか日本人は「物語を象徴するもの」をパクらなかったのです。
それにより薄っぺらい物語ばかりが増え続けました。
『ドラえもん』が「異世界ファンタジー」なのかと言われてしまいそうですね。藤子・F・不二雄氏が掲げた「すこしふしぎ(SF)」な物語のひとつに当たります。つまり「ライトSF」です。ですが、令和の時代に昭和55年頃の日本を見せられているわけですから、一種の「ファンタジー」と言えなくもありません。
『ドラえもん』は物語に必ず「ひみつ道具」が登場します。それが秀逸なのです。
「物語を象徴するもの」が毎回異なるから、読んでいて楽しめます。しかも連載で同じ「ひみつ道具」は連続して登場しないように計らっているのです。
だから毎回「どんなひみつ道具が登場して、のび太はどう使うのかな」と小学生はワクワクしながら次号を待っていました。そして今でも毎週テレビの前で放送を待ち続けているのです。こんな長寿コンテンツとなった理由。一話一話で「物語を象徴するもの」つまり「ひみつ道具」が異なっているからです。
ではあなたの小説には「物語を象徴するもの」があるでしょうか。
ほとんどのアマチュアの小説には「物語を象徴するもの」がありません。
実は『小説家になろう』を始めとする小説投稿サイト発の作品には取り立てて「物語を象徴するもの」がないのです。それなのに多くの人に読まれて「紙の書籍」化されてきました。
では本当に「紙の書籍」化で「物語を象徴するもの」が必要ないのでしょうか。
そんなはずはありません。なにがしかの「物語を象徴するもの」は存在するはずなのです。もしかするとそれは「物体」ではないかもしれません。
マンガの冨樫義博氏『幽☆遊☆白書』の「霊丸」のように形のない武器として「物語を象徴するもの」が設定されている場合もあります。
形のない武器はマンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』の「かめはめ波」を思い浮かべる方もいますよね。亀仙人から孫悟空に伝授され、息子の孫悟飯へ受け継がれた、まさに「物語を象徴するもの」と言えます。もちろん真に「物語を象徴するもの」はタイトルにもなっている「ドラゴンボール」です。ですが『DRAGON BALL Z』になってからはただの「便利アイテム」に格下げされています。「なんでも願いを叶えてくれる」よりも「強いヤツを倒す」物語にシフトしたため、もはや「物語を象徴するもの」は「かめはめ波」になってしまったのです。これは海外のコスプレイヤーを見れば一目瞭然です。彼らは皆「かめはめ波」と言いながら両手を前に突き出したポーズで写真に収まります。つまり『DRAGON BALL』イコール「かめはめ波」となっているのです。
話を戻します。
あなたの小説に「物語を象徴するもの」は存在するでしょうか。
ほとんどの作品には「物語を象徴するもの」が存在しないのです。
だからこそ、もし「物語を象徴するもの」を設定した作品は、多くの読み手を惹きつける魔力を備えます。
「物語を象徴するもの」がはっきりしていると、物語がとてもシンプルでわかりやすくなるのです。
『指輪物語』がなぜ世界にフォロワーを持つに至ったのか。「一つの指輪」があったればこそです。この「一つの指輪」を巡って繰り広げられる物語は、とてもシンプルでわかりやすくなりました。世界中の少年が虜になるほどです。
たったひとつのアイテムを巡る物語は普遍なのです。どの時代にも通用する面白さを秘めています。
だからこそ、あなたの小説に「物語を象徴するもの」がないのはとても残念なのです。
本来ならもっと多くの読み手に受け入れられるはずの物語が、魅力を発揮しきれず内輪でしか盛り上がらない。残念このうえありません。
本コラムを読んだということは、「物語を象徴するもの」の重要性を考える素地を手に入れたのです。
実際にあなたの小説で「物語を象徴するもの」を登場させたほうが多くの読み手に受け入れられるかもしれません。
今の読み手は「物語を象徴するもの」なんて求めてはいない。このコラムの筆者は時代後れな作品ばかりを並べて、さも「より面白くなる」「より読まれる」と主張しているにすぎない。
そう考えてもかまいません。本コラムはあくまでも皆様の叩き台なのです。
あらゆる提案をしますが、そのすべてが正解とはかぎりません。「物語を象徴するもの」が必要だった時代はとうに過ぎ去ったのかもしれないのです。
ですがよく考えてください。推理小説には「凶器」や「アリバイトリック」など「物語を象徴するもの」が必ず設定されていますよね。西村京太郎氏は「時刻表」ひとつで十津川警部シリーズを書いて、テレビドラマも大好評を博しているのです。あなたの小説に西村京太郎氏にとっての「時刻表」はあるでしょうか。あればそれが「物語を象徴するもの」となります。
「剣と魔法のファンタジー」「異世界ファンタジー」であっても、なにかひとつでよいので「物語を象徴するもの」を設定してみませんか。
そこから万人が手に汗握る冒険は紡がれます。
最後に
今回は「物語を象徴するもの」について述べました。
小説投稿サイトへ掲載される作品の四割ほどが異世界ファンタジーなので、本文も異世界ファンタジーを念頭に置きました。
しかし歴史小説でも推理小説でも日常系でも。「物語を象徴するもの」があると俄然面白くなります。「タイムリープ」があるから筒井康隆氏『時をかける少女』は面白いのです。
そう考えると宮崎駿氏のアニメ映画にも「物語を象徴するもの」はありましたよね。『天空の城ラピュタ』の「飛行石」なんてその最たるものです。
子供だましのようで、大人をも唸らせるのが「物語を象徴するもの」の持つ魔力と言えます。
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