1459.端緒篇:同じ作品を複数の小説投稿サイトへ掲載しない
将来「紙の書籍」でプロとして活躍したい方が本コラムをお読みかもしれませんね。
今回はそんな方のためにひとつの忠告です。
どんなに面白くても「マルチポスト」したら「紙の書籍」にはなりません。
あなたの作品はインターネットにおいて無料で多くの方に読まれればよいのでしょうか。それとも「紙の書籍」化して一般の方にも広く読んでもらいたいのでしょうか。
まずその腹をくくりましょう。
同じ作品を複数の小説投稿サイトへ掲載しない
せっかく書いた小説です。いろんな小説投稿サイトへ掲載して、より多くの方に読まれたい。そう思いますよね。
ですが、基本的に同じ作品を複数の小説投稿サイトへ掲載するのはオススメしません。
大きなチャンスを自ら潰してしまう恐れがあるからです。
ギャグはその場で読むから面白い
小説投稿サイトには、ランキングでTOP10に入りながらもいっこうに「紙の書籍」化されない作品がゴロゴロしています。
なぜ人気があるのに「紙の書籍」化されないのか。
大きな理由のひとつは「紙の書籍」にはふさわしくないからです。
たとえばブラック・ジョークが豊富で、そのままではどこかの商標権を侵しかねない。
これだと「紙の書籍」化して大々的に売り出すわけにもいきませんよね。
マンガの空知英秋氏『銀魂』はかなり有名なものを揶揄したり滑稽にしたりしています。この問題児が大いにウケたのは、その攻めた作風が読み手に痛快さをもたらしたからです。それもマンガというサクサク読める媒体だからできました。
では『銀魂』のような小説を書いたらどうなるでしょうか。
なかなかウケないんですよね、これが。
読んでいて楽しめるのは確かです。でもウケません。まるで大空に打ち上がる花火のような存在だからです。
打ち上げ花火は大空で炸裂して光が尾を引くから観客の心に残ります。
ギャグ小説も、ネタを読んだときはとてもおかしくなって笑ってしまいますし心にも残ります。ですが同じ部分を何度読んでも笑えるかといわれると難しい。どうしても真剣に文字を追うので表現に慣れてしまいます。
ギャグ小説はその場限りの面白さが肝なのです。
深く考えてしまうと面白さが消えてしまいます。
だからギャグは「勢い」に任せて出したほうがよいのです。計算で「笑わせよう」とするのはプロのコメディアンでもなかなかできません。
一度小説投稿サイトでウケたからと、改めて「紙の書籍」化したところで同じだけの評価が得られるとはかぎらないのです。
なぜ名作なのに
ギャグではなく真面目で真剣な物語なのに「紙の書籍」化されない小説もあります。
基本的に物語をしっかりと読ませる作品は「紙の書籍」化しやすいのです。
物語の構造が堅固で揺るぎない。
出版社レーベルとしても狙いを定めるかもしれません。
それなのに「紙の書籍」にならない。
第一の理由は「小説賞・新人賞」を獲っていないからです。
出版社レーベルは小説投稿サイトのランキング上位だからとむやみやたらと「紙の書籍」化しません。他の作品を差し置いて「紙の書籍」化するには大義名分が必要だからです。
もし「小説賞・新人賞」を勝ち抜いていない作品を「紙の書籍」化するなら、「小説賞・新人賞」受賞以外の大きな理由が求められます。
たとえば住野よる氏『君の膵臓をたべたい』は『小説賞・新人賞』を獲っていません。にもかかわらず2015年に「紙の書籍」化されています。以後小説は売れに売れて2020年12月時点で300万部のベストヒットとなりました。
ではなぜ『君の膵臓をたべたい』は「紙の書籍」化されたのでしょうか。
この逸話はあまりにも有名でしょう。当初『君の膵臓をたべたい』は『小説家になろう』に掲載され、それをライトノベル作家の井藤きく氏が目に留めて双葉社に打診。それを機に「紙の書籍」出版に至ったのです。
つまり出版社レーベルはプロの作家からの推薦で「紙の書籍」化を決めました。
これも立派な大義名分です。
いくら「小説賞・新人賞」へ応募を繰り返しても受賞できない作品でも、プロのひと声で「紙の書籍」されて300万部も売れました。双葉社としては「将来のドル箱」をプロの作家から教えてもらったようなものです。
そうなると誰もが「小説賞・新人賞」受賞の他に「どこかのプロ作家が出版社レーベルに依頼してくれないかな」と夢見るようになります。
しかし「柳の下の二匹目の泥鰌を狙う」のは意味がありません。
プロの作家があなたの作品にたどり着けるとはかぎらないからです。とくに『小説家になろう』には78万9千以上もの作品が掲載されています。その中からたった一作をプロの作家が拾い上げる確率がどれほど低いか。おわかりになりますよね。
第二の理由は「マルチポスト」しているからです。
マルチポストとは「複数のところに重複投稿」している状態を指します。
たとえば『小説家になろう』『カクヨム』『エブリスタ』『ノベルアップ+』の四サイトに同じ作品を掲載していたら。
おそらくどんなに名作であっても「紙の書籍」化はされません。
出版社レーベルとしては「将来のドル箱」を掘り当てたようでも、複数の小説投稿サイトに掲載されていると、どこの小説投稿サイトに打診してよいのかわからないのです。
基本的に小説投稿サイトへ掲載されている作品を「紙の書籍」化するには、その小説投稿サイトに申請しなければなりません。
しかし複数の小説投稿サイトに「マルチポスト」していると、出版社レーベルが「紙の書籍」化を申請するサイトがいくつあるのかわからなくなります。それでは手間がかかるので、「紙の書籍」化をあきらめてしまうのです。
プロの作家の推薦がなくても、出版社レーベルはつねに「紙の書籍」でも売れる作品に目を光らせています。もちろんそのために「小説賞・新人賞」を開催してもいるのです。
それでもランキング上位にいれば、出版社レーベルは「紙の書籍」化を検討します。
それなのに「マルチポスト」されている時点であきらめるのです。
だから、もし出版社レーベルから「紙の書籍」化したいのなら、「小説賞・新人賞」応募作以外の作品も「マルチポスト」しないようにしてください。
つねに自信のある作品を、最も適した小説投稿サイトへ掲載するのです。
「異世界ファンタジー」ものなら『小説家になろう』『カクヨム』が強いですし、「恋愛」ものなら『エブリスタ』『アルファポリス』が強い。
強いところに掲載して勝ち抜けばランキング上位も獲れるでしょうし、出版社レーベルにもアピールできます。
小説を書いたから、たくさんの人に読んでもらいたい。
そうであったとしても「ひとつの小説投稿サイトにだけ掲載」しましょう。
けっして「マルチポスト」をしてはなりません。
仮に面白くて絶品なのに「マルチポスト」しているから「紙の書籍」化を妨げられる。
これでは「たくさんの人に読んでもらいたい」のに、インターネット以外の読み手に読んでもらえないのです。
『君の膵臓をたべたい』は300万部売れました。それだけ読まれたのです。「小説家になろう」のアカウントだけでも現時点で200万弱です。全員が読んでも「紙の書籍」に敵いません。
つまり「たくさんの人に読んでもらいたい」のなら「マルチポスト」をするべきではないのです。
どんなに面白くて、ひとつの小説投稿サイトでランキング上位が獲れたとしても、他の小説投稿サイトへ「マルチポスト」した時点で「紙の書籍」化は露と消えます。
あなたの「たくさんの人に読んでもらいたい」はインターネットの中だけで終わるものでしょうか。「紙の書籍」としても多くの人に読まれたいのでしょうか。
けっして「マルチポスト」してはならないのです。
これと決めた小説投稿サイトでだけ活動しましょう。他の小説投稿サイトを使いたいのなら、けっして「マルチポスト」せず、そのサイトの需要に適ったジャンルの作品を掲載するべきです。
最後に
今回は「同じ作品を複数の小説投稿サイトへ掲載しない」について述べました。
小説投稿サイトを使っていると「この作品、こんなに読まれているのに『紙の書籍』化の話が出てこないな」と思うときが来るでしょう。
だからといって同じ作品を複数の小説投稿サイトへ掲載してはなりません。
「マルチポスト」は自ら「紙の書籍」化の可能性を潰す行為なのです。
どのジャンルに強い小説投稿サイトなのか。ジャンルに応じて小説投稿サイトを使い分けるのが正しいあり方です。
他の小説投稿サイトにも同じ作品を掲載して、この作品を知らなかった読み手にもぜひ読んでもらいたい。
これでは「紙の書籍」化はされません。
現に、本「小説の書き方」コラムにも「紙の書籍」化の話は来ないのです。『ピクシブ文芸(これからpixiv小説に吸収合併されます)』『小説家になろう』『カクヨム』と三つの小説投稿サイトで掲載しているのですから、どんなに好評を博そうが「紙の書籍」の話なんて舞い込むはずもありません。(そもそも面白くもタメにもならないからでしょうけど)。
あなたも今は「マルチポスト」をしているのかもしれませんね。その場合は、連載の途中であっても、連載する小説投稿サイトをひとつに限定しましょう。ある投稿話までは「マルチポスト」しますが、それ以降はひとつの小説投稿サイトに絞るのです。
※追記
なお「他の小説投稿サイトで開催されている小説賞・コンテストに応募したい」場合は、現在掲載している小説を非表示にしてから行なってくださいませ。
非表示にしておけば「マルチポスト」にはなりませんので。
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