1453.端緒篇:推敲する(削除)

 今回から「推敲」に入ります。

 さまざまな雑念を捨てて「執筆」の「高速ライティング」をしていただきました。

 それも「推敲」があったればこそです。

 「推敲」とは拙い「高速ライティング」を書き改める過程で、これにより描写や表現は一気に高まります。





推敲する(削除)


 前回は「執筆」の「高速ライティング」で拙いけど「勢い」のある文章を目指しました。

 しかし募集要項で定められている規定の枚数は超えているはずです。

 これをどうやって削減していったらいいのでしょうか。




頭を推敲モードに切り替える

 頭が「執筆」モードのままだと、小説世界が容易く頭に浮かんでしまいます。いくら消そうと思っても頭を離れないのです。

 ではどうするか。いちばん簡単なのは時間を置いて「原稿を寝かせ」ましょう。寝かせている間に頭の中から物語世界が消えてくれるのを待ちます。ですが離れるには相応の時間が必要です。

 募集されている「賞金付き企画」に応募したくて、時間がほとんど残されていない場合はどうすればよいのでしょうか。

 本来なら応募作は複数書いて、その中で最も出来のよいものを投稿するべきなのです。しかし仕事のスケジュールの都合上まとまってとれる時間が日曜日しかない、という方も多いでしょう。

 「一気に書き切る」ときはスマートフォンのメール機能を使うなどして移動時間中でも執筆はできます。そうやっても時間が足りない。

 いいでしょう。


 ならば今すぐ席を立ってPCや音楽プレイヤーで好きな歌や曲を聴き、部屋の中をうろちょろして、場所を見つけてストレッチしてください。そしてラジオ体操をします。終わったらコーヒーでも紅茶でも緑茶でもかまわないので、とにかく飲んで気を鎮めましょう。

 これで終わりです。


 要は「小説世界を頭から外す」と意識するのではなく「別のものに集中する時間を作る」のです。

 人はひとつのことに集中すると他は意識から自然と消えていきます。

 「瞑想」今で言う「マインドフルネス」も当初は「なにも考えない」意識に集中するところから始まるのです。慣れてきたら自然と「なにも考えない」意識になります。

 部屋で音楽を聴くのも、うろちょろするのも、ストレッチやラジオ体操をするのも、何かを飲むのも、すべて「小説世界」に集中していた意識を切り替えるためです。

 それができるのならなにをしたってかまいません。すべてを行なうのではなくひとつで「物語世界」から離れられるのならそれだけでよいのです。




全体の流れを俯瞰する

 頭が「小説世界」から離れましたか。いいでしょう。では推敲の開始です。

 まず「執筆」の「高速ライティング」で生み出した小説の文書ファイルを「複製して別の名前を付けて別のフォルダーに保存」してください。

 推敲していると、どうしても「あ〜っ! ここは削らなければよかった!!」と思う事態に必ず出くわします。

 そのときに推敲前の文書ファイルが残っていたらどれだけ心の安定につながるか。

 だから元ファイルは必ず別に残しておきましょう。


 たとえ十万字だったとしても文書ファイルの大きさはテキストファイルなら〇.二メガバイトしかありません。Word文書だと環境設定や書式設定などが入りますがそれでも一メガバイトくらいだと思います。

 パソコンにたった一メガバイトの余裕もない方は、USBメモリーやSDカードなどの外部デバイスに保存しておきましょう。とくにUSBメモリーはバルク品や格安ブランドなら4GBで千円もしません。まぁ安いUSBメモリーやSDカードは読み書きが正常にできない場合もあるので、有名メーカーで容量の少ないものを使いましょう。


 終わったら物語を頭から最後まで一気読みします。そのときに「このエピソードは必要か」とつねに疑問を持ちながら読んでください。

 物語を展開するうえで本筋に絡まない「エピソード」はないか。具体的には章単位ですね。それを見ます。

 もし「不要では」と思う章が見つかったらそこをバッサリとカットするのです。小説は本筋と直接かかわっている部分だけで構成されるべき。まったく絡まない章は「不要」です。

 また内容の重複や論理が破綻していて説得力に欠けるような部分はありませんか。あったらそれもカットです。

 これだけで大幅にカットできたはずですが、まだ多すぎますか。

 応募規定の上限まで削れたら先へ進みます。もしまだ多すぎる場合は、「エピソード」単位ではなく場面シーン単位で削れないか考慮しましょう。削れそうなのにどうしてもこの場面シーンのこの設定は必要なので残しておきたい。そう思うのであれば、その要素だけを取り出して新しく書き直す「短いエピソード」に落とし込めないか、また前後どちらかに内包できないかも考えます。こうすればかなりバッサリとカットしていけるでしょう。




段落の流れを俯瞰する

 次に段落を見ていきます。

 意味不明なところはないか、説明不足なところはないかを見ていきます。見つけたら即修正です。

 巧みな表現に変換するのでこの段階で手を加えるのはなかなか勇気が要ります。

 また説明不足は書き手が「小説世界」にどっぷりと浸っているときによく発生するのです。

 だから「原稿を寝かせ」て頭を「小説世界」から引き剥がす必要があります。醒めた目で見れば「これだと説明不足でなにか物足りないな」と思うところが出てくるはず。そこを補っていけば文章の説得力は格段に増すでしょう。とくに「五感」と「直感」を意識するのです。また文章が増えてしまいましたね。でも次で切り揃えていきますので今はよしとします。


 同じような文章が並んでいるところはありませんか。たいていはあるはずです。とくにひとつの出来事を強調したいときは、同じような文章をいくつも畳みかけて書いてしまうものです。これらはすべて冗長なので削っていきましょう。

 意味不明や説明不足以外の明確な理由もなしに文章を畳み込む必要はないのです。

 これでかなりの文章を削減できるはずです。

 ただしそれによって文章の「勢い」が弱まってしまうのは避けたいところです。

 「勢い」は後づけできません。その畳み込みが文章に「勢い」をもたらしているのなら削るべきではないのです。判断基準は「勢い」になります。


 同様に物語と絡まない文章はないでしょうか。あればそれも削除の対象です。理由は前項と同じで、物語と絡まないものは小説に必要ないからです。

 物語と絡まないのに書かれている文章は「水増し」ではないかと読み手や下読みさんに勘ぐられます。

 こちらとしては書きすぎて意地でも削りたがっているはずです。それなのに「水増し」を疑われる。これでは意味がありません。

 だから物語と絡まない文章はすべて削ってしまいましょう。


 たとえば主人公には暗い過去があり、それが原因でのちのエピソードで「ある判断」をさせる、というのはよくあることです。

 しかし物語の中でその「暗い過去」がどれほどの重要性を持っているのでしょうか。

 主人公の判断すべてに「暗い過去」がかかわってくるようなら必要なので残します。

 でも「ある特定の場面での判断」にだけ「暗い過去」がかかわってくるのであれば、その「暗い過去」はエピソードで見せるのではなく「幼少期に親から虐待されてきたためこちらから積極的に動くのが苦手である。」のような短い文章に縮めてしまうのです。これだけで分量がごっそり削れます。


 また文章のリズム感は小気味良いものになっていますか。文章を単文化し単純化していく。文末表現を工夫するなどして文章に「リズム」を作ります。リズムのよい小説はとても読みやすいのです。

 次々と先が読めるからすぐに小説世界へ読み手を誘えます。

 リズムが悪くてどうしてもそこで詰まってしまうようなら、リズムを重視して書き改めましょう。

 その部分だけ「しっかり読ませたい」意図があるのなら話は別です。ただしそのようなシーンがひとつの文章で何度も出てくるようでは停滞が著しい。基本的に一章でひとつ。できれば「三百枚」でひとつが望ましい。

 それ以上は煩わしくなるだけです。





最後に

 今回は「推敲する(削除)」について述べました。

 ここで余計な部分を果断に削除していくので、あらかじめ募集要項の十二万字を超える分量を書いていただいたのです。

 足りないところに付け足すよりも、余ったところを削っていくほうが、物語の展開をコントロールしやすい。

 これまで指摘しているように、「水増し」は文豪でも頭を悩ませるほど至難の業です。

 それなら多めに書いて削っていくほうが誰にでも簡単に分量をコントロールできます。また選考でも冗長に語りすぎるよりも「あえて省いてコンパクトに収めました」くらいの書き方が好まれるのです。

 次回は描写や表現を出し入れしていきます。



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