1448.端緒篇:プロットのドラフト

 今回は「プロット」のドラフトについてです。

 当然ながら「プロ野球ドラフト会議」をするわけではありません。

 「Draft」の中でも「草案。草稿。」を指しています。

 つまりまだ「執筆」までいかないギリギリの状態です。

 ドラフトには三層あって、最後のドラフトの次が「執筆」になります。

 本格的に書くまでに「三つも」経ないといけないのです。

 私の見たところ、小説投稿サイトへ掲載されている作品の大半が「ドラフト」の途中で投稿しているように映ります。

 なにが「ドラフト」なのか。どういったものが「ドラフト」なのか。

 見ていきましょう。きっとあなたの「執筆」に関する思い込みがブレイクされますよ。





プロットのドラフト


 「プロット」はどれだけ手っ取り早く「執筆」の下ごしらえを終えられるかがかかっています。

 そのために「プロット」は三回の「ドラフト」を経るのです。

 もし回数を重ねて「ドラフト」を洗練させなければ、せっかく「プロット」を書いたのに「執筆」が高速かつたやすく書けなくなります。

 「執筆」をできるだけ短時間で行なうためにも、「プロット」では納得するまで「ドラフト」を改めていきましょう。




ト書きドラフト

 「プロット」の初回はドラマや映画の脚本とそれほど差はありません。「ト書き」でもじゅうぶんなのです。だから初回は「ト書き」ドラフトと呼びます。

 書き慣れてきたら「高速ライティング」した「ト書き」ドラフトから、実際の「執筆」により近い「散文」ドラフトを書いていきましょう。

 例文として「ト書き」ドラフトを掲示します。(これは過去に書いたものを再掲しています。コラムの今後の展開も大量に脳内で処理しているため、ここは手を抜かせてください)。

――――――――

午後五時。夕暮れのサッカー部の部室。チームメイトの隆と耕太がユニフォームから制服に着替えている。そこへ後れて高橋コーチが入ってくる。


サッカーパンツを脱ぎながら隆が耕太に語る。

隆「なぁ耕太。今日来たコーチ、どう思う?」

耕太「高橋コーチだっけ。俺は悪くないと思うけどな」

と耕太はスパイクを脱ぎながら応えた。

隆「俺は嫌いだね。ランニングばっかりじゃないか」

と隆が不満を口にする。

耕太「サッカーは持久力勝負だろ。まず走り込みでスタミナをつけるのは当たり前だよ」

隆「だからって、今日は一回もボールを蹴っていないんだぞ。ストレスも溜まるだろ」

と隆の不満はどんどん出てくる。

隆「ただ走らせるだけじゃなく、ボールを蹴りながらでもいいじゃないか。ボールの感覚がなくなったら、本番でドリブルがうまくできなくなるかもしれないんだぞ」

耕太「まぁ確かにドリブルの練習はしていないな。でも前線から足を使ってボールをチェイスすることだってストライカーの仕事だろ」

と耕太はランニングの重要性を隆に納得してもらえるよう話す。

隆「ストライカーは点を決めてこそだ。ただ前線からボールを追うだけなら、馬でも雇えってんだ」

耕太「馬にあの切り返しは不可能だろ」

隆「たとえだって言ってんだよ!」

と隆が大声で叫ぶと同時に部室のドアが開いた。くだんの高橋コーチだった。

隆と耕太はびっくりして着替えの手を止め、高橋コーチを眺める。

高橋「サッカーは百二十分全力で走り続けられる者だけがトップ選手になれるんだぞ」

隆「高校サッカーは四十分ハーフだから八十分走れればよくないですか?」

高橋「私は高校だけで終わらない選手を育てたいんだよ」

隆&耕太「高校だけで終わらない選手?」

と隆と耕太はその言葉に唖然とした。

高橋「そうだ。お前たちはA代表に入れるだけのテクニックがじゅうぶんある」

と隆と耕太は次の言葉を待った。

高橋「足りないのは持久力と集中力だけなんだ」

隆「持久力と集中力……」

とパンツ一丁の隆は反復する。

――――――――

 という具合に、会話文の頭に発言者名を記し、動作は地の文に「と〜」の形で書くのが「ト書き」です。

 「プロット」初回の「ト書き」ドラフトでは視点の固定は気にしないでください。今の段階で視点を意識すると、途端に一文も書けなくなります。まずは視点など気にせず、どんな会話や動作が行われているのかだけを「高速ライティング」で書き出せばよいのです。




散文ドラフト

 そして次が二回目の「ドラフト」です。

 「ト書き」ドラフトはあくまでも脚本用なので、これを小説の文章である「散文」に改めます。

――――――――

午後五時。夕暮れのサッカー部の部室。チームメイトの隆と耕太がユニフォームから制服に着替えている。そこへ後れて高橋コーチが入ってくる。


 サッカー部の練習が終わった午後五時。部室でふたりの選手が制服に着替えている。

「なぁ耕太。今日来たコーチ、どう思う?」

 サッカーパンツを脱ぎながら、隆は耕太に声をかける。

「高橋コーチだっけ。俺は悪くないと思うけどな」

 耕太はスパイクを脱いだ。

「俺は嫌いだね。ランニングばっかりじゃないか」

 不満を公言する。いつもの隆らしい。

「サッカーは持久力勝負だろ。まず走り込みでスタミナをつけるのは当たり前だよ」

「だからって、今日は一回もボールを蹴っていないんだぞ。ストレスも溜まるだろ」

 隆の不満はどんどん募ってくる。

「ただ走らせるだけじゃなく、ボールを蹴りながらでもいいじゃないか。ボールの感覚がなくなったら、本番でドリブルがうまくできなくなるかもしれないんだぞ」

「まぁ確かにドリブルの練習はしていないな。でも前線から足を使ってボールをチェイスすることだってストライカーの仕事だろ」

 ランニングの重要性を隆に納得してもらえるよう話して聞かせる。

「ストライカーは点を決めてこそだ。ただ前線からボールを追うだけなら、馬でも雇えってんだ」

「馬にあの切り返しは不可能だろ」

「たとえだって言ってんだよ!」

 隆が大声で叫ぶと同時に部室のドアが開いた。くだんの高橋コーチが立っていた。

 隆と耕太はびっくりして着替えの手を止め、高橋コーチを眺める。

「サッカーは百二十分全力で走り続けられる者だけがトップ選手になれるんだぞ」

「高校サッカーは四十分ハーフだから八十分走れればよくないですか?」

「私は高校だけで終わらない選手を育てたいんだよ」

「高校だけで終わらない選手?」

 隆と耕太はその言葉に唖然とした。

「そうだ。お前たちはA代表に入れるだけのテクニックがじゅうぶんある」

 二人は次の言葉を待った。

「足りないのは持久力と集中力だけなんだ」

「持久力と集中力……」

 パンツ一丁の隆は反復する。

――――――――

 これが二回目の「ドラフト」で「散文」ドラフトと呼びます。

 地の文が「と〜」から別の形に変わりました。より「散文」である小説に近づけたものです。

 でも表現の点では、このまま投稿するのが憚られるレベルになっています。

 だから「プロットのドラフト」は叩き台なのです。

 ここからどれだけ表現を増やし、磨きをかけられるのか。それが書き手の筆力を如実に表します。

 小説投稿サイトの掲載作品を読むと、「散文」ドラフトのものが多いんですよね。「散文」ドラフトと「執筆」には雲泥の差があります。




視点固定ドラフト

 上記の場面シーンは視点をまったく考慮していません。どうも「神の視点」の印象が強いですね。

 三回目の「ドラフト」で「視点を固定」します。これを「視点固定」ドラフトと呼びます。

 「神の視点」は「小説賞・新人賞」では一次選考落ちが確定しているからです。

 「一人称視点」でたったひとりの主人公が見た世界や心の中だけを書くか、「三人称視点」で誰の心も書かないか。または「三人称一元視点」で名前は基本三人称で進むがたったひとりの心の中は覗ける、つまりそのひとりの「一人称視点」を全員三人称で呼ぶスタイルをとるか。だいたいこの三択になります。

 「三人称一元視点」は「箱書き」(場面シーン)が変わるたびに視点保有者を変えてもかまいません。「群像劇」を書くには「三人称一元視点」で場面シーンごとに主人公が変わらないと、キャラクターを深堀りできないからです。

 今回は、耕太の「一人称視点」に改めてみましょう。

――――――――

午後五時。夕暮れのサッカー部の部室。チームメイトの耕太(主人公)と隆がユニフォームから制服に着替えている。そこへ後れて高橋コーチが入ってくる。


 サッカー部の練習が終わった午後五時。部室で俺と隆がユニフォームから制服に着替えている。

「なぁ耕太。今日来たコーチ、どう思う?」

 サッカーパンツを脱ぎながら、隆が声をかけてくる。

「高橋コーチだっけ。俺は悪くないと思うけどな」

 俺はスパイクを脱いだ。

「オレは嫌いだね。ランニングばっかりじゃないか」

 不満を公言する。いつもの隆らしい。

「サッカーは持久力勝負だろ。まず走り込みでスタミナをつけるのは当たり前だよ」

「だからって、今日は一回もボールを蹴っていないんだぞ。ストレスも溜まるだろ」

 隆の不満はどんどん募ってくる。

「ただ走らせるだけじゃなく、ボールを蹴りながらでもいいじゃないか。ボールの感覚がなくなったら、本番でドリブルがうまくできなくなるかもしれないんだぞ」

「まぁ確かにドリブルの練習はしていないな。でも前線から足を使ってボールをチェイスすることだってストライカーの仕事だろ」

 ランニングの重要性を隆に納得してもらえるよう話して聞かせる。

「ストライカーは点を決めてこそだ。ただ前線からボールを追うだけなら、馬でも雇えってんだ」

「馬にあの切り返しは不可能だろ」

「たとえだって言ってんだよ!」

 隆が大声で叫ぶと同時に部室のドアが開いた。くだんの高橋コーチが立っていた。

 俺と隆はびっくりして着替えの手を止め、高橋コーチを眺める。

「サッカーは百二十分全力で走り続けられる者だけがトップ選手になれるんだぞ」

「高校サッカーは四十分ハーフだから八十分走れればよくないですか?」

「私は高校だけで終わらない選手を育てたいんだよ」

「高校だけで終わらない選手?」

 俺たちはその言葉に唖然とした。

「そうだ。お前たちはA代表に入れるだけのテクニックがじゅうぶんある」

 コーチの次の言葉を待った。

「足りないのは持久力と集中力だけなんだ」

「持久力と集中力……」

 パンツ一丁の隆は反復する。

――――――――

 これで「神の視点」が「耕太の一人称視点」に置き換わっています。

 「視点固定」は早いうちに行なったほうが手間が少なくて済みます。もしこのまま「執筆」の「高速ライティング」をしてから「視点固定」を始めると、直さなければならない箇所が大幅に増えてしまいます。当然気をつけていても「推敲漏れ」が起こってしまうのです。

 初回は視点や重複を気にせず伸び伸びと「ト書き」ドラフトで書き、二回目は「散文」ドラフトで「地の文と会話文」に変換するだけを考えればよい。

 三回目の「視点固定」ドラフトで「視点の固定」をすれば、「執筆」でもイメージがつかみやすいですし手直しも最小限で済みます。




プロットのドラフトはあくまでも執筆の前段階

 「プロットのドラフト」レベルで連載して応募しているかぎり、「小説賞・新人賞」は獲れません。こんなものは小学生にだって書けます。

 描写力・表現力のありったけを「執筆」の「高速ライティング」に使うべきです。

 その差こそが「小説賞・新人賞」の一次選考を突破する鍵を握っています。

 もちろん「命題」「テーマ」「企画書」「あらすじ」「箱書き」と経ていることが大前提です。

 これが出来ていれば物語は明確ですから、あとは描写力と表現力の勝負になります。

 「プロットのドラフト」はどれだけ精緻でもかまいません。

 「執筆」の「高速ライティング」の前にどれだけ精緻な「視点固定」ドラフトが書けるかで、作品の質の高さを担保できます。

 けっして「ドラフト」段階で満足しないようにしましょう。





最後に

 今回は「プロットのドラフト」について述べました。

 「プロット」は「ドラフト」の精緻さによって三つにレベル分けできます。

 「ト書き」ドラフト、「散文」ドラフト、「視点固定」ドラフトです。

 「執筆」の「高速ライティング」に迷いが出ないレベルまで精緻に書かれてあれば、平凡な展開でも傑作は生まれます。

 そうなれば「小説賞・新人賞」の一次選考を通過するのも容易いのです。



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