1447.端緒篇:プロットを創る

 今回から「プロット」に入ります。

 実は「プロット」と一言で書いていますが、「ト書き」ドラフト、「散文」ドラフト、「視点固定」ドラフトの三層で構成されています。

 そして私の執筆術では秘中の秘である「高速ライティング」は「ト書き」プロットで高い威力を発揮するのです。

 もちろん「散文」ドラフト、「視点固定」ドラフトでも「高速ライティング」は可能です。

 「高速ライティング」はのちほど重点的に掲載致しますので、ご期待いただければと存じます。





プロットを創る


 小説を書いてみたら、どうしても募集要項よりも短くなってしまう。

 それは「あらすじ」「箱書き」から直接「執筆」しているからです。

 「箱書き」を創ったら本文をいきなり書くのではなく、いったん「プロット」に落とし込みます。「箱書き」と「執筆」の間に「プロット」を創るのです。

 やるとやらないとでは、完成度がひと味もふた味も変わってきます。

 また「プロット」にはレベルが三つあります。何回も「プロット」を改めて精度を高めていけば、より伝わる表現にできるのです。




プロットはペン入れ

 「プロット(Plot)」は通常「あらすじ」を指す英単語なのですが、私は「ペン入れ」を指す単語として使っています。

 「執筆」は「ペン入れ」である「プロット」にベタや色を塗ったりスクリーントーンをかけたりハイライトを入れたりするくらいの気持ちで書くものです。

 絵やマンガで説明すると、「企画書」は「どんな絵を書こうかな」と検討する「ネーム」の段階。「あらすじ」は鉛筆で構図を書いてみる「ラフ」の段階。「箱書き」は「ラフ」から「下書き」を書く段階。そして「プロット」は「下書き」から「主線起こし」から「ペン入れ」をする段階になります。

 つまり「プロット」は、「箱書き」で「下書き」が出来あがっているから創れるのです。




プロットを書く

 「箱書き」を創ったら、「プロット」を書いたのち表現を改めながら本文を「執筆」していきます。

 最初の「プロット」はドラマ脚本の「ト書き」のようなものです。これを「ト書き」ドラフトと呼びます。

 物語の流れを、誰が発言し、誰が行動し、誰がリアクションしたのかを書きます。

 ライトノベルであれば、基本的にキャラクターの魅力を存分に表現しなければなりません。

 文学小説であれば、キャラクターの心の機微を豊かな描写力で表現します。

 またライトノベルの主流である「異世界ファンタジー」では、どんな世界であるのかも説明します。

 「プロット」はあくまでも「主線起こし」をして「ペン入れ」するのであり、書いてみて「どうも違うな」と感じたら、どんどん書き換えていきましょう。

 大まかな筋書きは「あらすじ」で確定させていますし、どんな場面シーンを盛り込むかも「箱書き」で確定させてあります。あとはあなたにとって理想的な文章の流れを浮かび上がらせるだけです。


 どうせ「プロット」は実際に「執筆」する段階で加筆修正されるものです。それほど厳密に流れを決める必要はありません。ただし「執筆」する段階で迷わないよう、どの場面シーンも話に矛盾を起こさせないながらも、必ず「伏線」を張りましょう。

 なにも「佳境クライマックス」や「結末エンディング」につながるものだけが「伏線」ではありません。

 次の場面シーンにつながる「伏線」であってもよいのです。

 「伏線」を張ってあるから、次回が待ち遠しくなります。

 これから執筆する長編小説や連載小説で、次回の投稿が待ち遠しくなるよう仕向けるには「伏線」を巧みに使いこなさなければなりません。


 「伏線」は「プロット」を書いているときに必ず盛り込む必要があります。

 「プロット」で素通りしてしまうと、「執筆」で確実に「伏線」を入れ忘れるのです。

 「伏線」は「あらすじ」の段階で、どのエピソードにこういう「伏線」を入れようと仕込みます。

 「あらすじ」から「箱書き」に割っていった際、どの場面シーンで「伏線」を出すのが効果的か、思案するのです。

 「プロット」の段階で「伏線」を明確に文章化してあれば、「執筆」で入れ忘れません。

 ここまでできていれば「執筆」で「伏線」の張り忘れはなくせます。




プロットは執筆の叩き台

 それほど「プロット」は細々とした点についても書かなければなりません。

 ある人にとっては「執筆した」と思ったレベルの文章が、手練れの書き手からは「プロット」に過ぎないと断ぜられるのです。


 このあたりは「お絵描き」に似ています。

 最初はバランスをとるだけで精いっぱいで、整った形にするのは困難です。

 慣れてくるとバランスがとれてきて形も整ってきます。しかし色を塗るのは下手なままです。

 さらに描いているとアニメのセル画のような塗り方ができるようになります。

 他にも水彩画や水墨画、油絵調の厚塗り、CG特有のグラデーション塗りなどさまざまな塗り方があるのです。

 当面そのすべてをマスターする必要はありません。

 絵師さんが自身で納得できる塗り方さえできればよいのです。

 ただし仕事として絵を描くことになったら、さまざまな塗り方を知らないといけません。クライアントからどんな塗り方を指定されても、対応できるのがプロの絵師です。


 小説の「プロット」もセル塗りの技術を憶えたにすぎません。

 他の塗り方に発展させるための叩き台のようなものです。

 だから実際の「執筆」は「プロット」よりもさらに高度なテクニックを用いて書きます。

 第一目標として「プロット」を書けるようになり、それを叩き台にしてさらに精緻な描写へ進めるよう心がけましょう。

 そうすれば、今よりも確実に筆力がアップしますよ。




書き出しから主人公を出す

 「箱書き」に書いた設定部分のうち「いつ」「どこで」「主人公が」をまず書きます。これが「書き出し」に書いていなければ、話が始まりません。

 とくに「主人公」を「書き出し」に持ってくるのがいちばんよい手法です。

 まず「主人公」を出して読み手に感情移入してもらい、「出来事を起こす」か「出来事が起きる」かします。

 「主人公」の動きを書いたら、そこで初めて「どこで」の場所を書くのです。書けるのならこの段階で「いつ」の時間も書きます。これが感情移入を促す、ごく自然な流れです。

 では冒頭で「主人公」を取り巻く出来事は解決したでしょうか。解決していなければ、解決するまでを書くことになります。

 「書き出し」から「主人公」を出すのは、現在の小説では必須のテクニックとなっています。




長い文章が書けない

 「書き出し」はなにを盛り込めばいいのかご理解いただけたかと存じます。

 次は地の文と会話文のバランスについてです。

 小説を書き慣れていない人ほど、「箱書き」には「会話文」ばかり書いています。

 悪いことではありません。「会話文」のやりとりで物語の展開が明確になりますから、とくに書き慣れていない人ほど「会話文」主体でよいのです。

 小説を書き慣れない人ほど「地の文」は少なくなります。

 「地の文」では動作と説明と描写を書きます。


 説明を書くのはそれほど難しくありません。設定や今置かれている状況を書くだけでよいのです。

 説明を細かく丁寧に書くほど長い文章が書けます。

 まず説明したいものを書き、そこに理由や対比を書いていき、例を引いてくるのです。

 「どうしてそんなことをするのか」「もしそうでなかったらどうなるか」「そうするとなにが起こると思われるか」といったことを書きます。

 ただし説明は物語の流れを停滞させない程度のつまびらかさで書きましょう。

 目の前にいる人はどんな格好をしているのか。髪や瞳や肌の色よりも、肉づき・か弱さやなにを着てどんなポーズをとっているのかを書きましょう。

 いちいち髪や瞳や肌の色を書く人は、人間の頭部しかイメージできていないのです。体には頭部のほか肩・腕・肘・手、尻・脚・膝・足、胴体・胸・腹・腰・背などがあります。そういったものを書いていって、顔のドアップ以外のカメラワークで説明するのです。


 難しいのは動作と描写です。

 動作は義務教育レベルの語彙で書きます。

 たとえば「『〜』と彼は言った。私は『〜』と言った。それを聞いた彼はこう言った。『〜』」のように「言った」という動作ばかりを書くのは小学生レベルです。

 まぁ「プロット」段階では「言う」の一点張りでもかまいません。ただし「執筆」で楽がしたいなら、「プロット」段階で言葉の多様性を活かすべきです。

 「言う」には和語だけでも多くのバリエーションがあります。

 「話す」「語る」「告げる」「伝える」「叫ぶ」「怒鳴る」「つぶやく」「ささやく」「吐く」「漏らす」「匂わす」とすぐに思いつく和語だけでもこれだけあります。

 「あげつらう」のような、義務教育レベルではまず習わない語彙を使う必要はありません。

 動作は「適切な動詞」を選び、かなり細かく書き込んで分量を増やしつつ質を高めていけます。読み手の感情移入を深く誘うために、主人公の動作や心象を読み手に余すところなく伝えて「共感」を築いていくのです。


 描写は「たとえ」「比喩」です。

 「当人は猫型ロボットだと言い張るが、僕にはまるで青いタヌキのようにしか見えなかった」といったものが「たとえ」「比喩」になります。

 描写の本質は「そのままでは理解するのが難しくても、読み手の知っている身近なものを引き合いに出してわかりやすく噛み砕いて表現する」です。

 「台風によって増水した川の流れは、まるで中国にある黄果樹大瀑布のような壮大さを感じさせた」という描写は「たとえ」「比喩」として適切ではありません。

 大瀑布ということであれば「黄果樹大瀑布」よりも「イグアスの滝」「ヴィクトリアの滝」「ナイアガラの滝」という世界三大瀑布のほうが有名です。「黄果樹大瀑布」の映像をなにかで見たことのある人がどれだけいるのでしょうか。「イグアスの滝」「ヴィクトリアの滝」「ナイアガラの滝」ならテレビで何度となく放送され、どんなものなのか知っている人が大半です。

 だから適切な「たとえ」「比喩」という点では、「台風によって増水した川の流れは、まるでナイアガラの滝のような壮大さを感じさせた」のほうが的確だと言えます。

 しかし描写による「たとえ」「比喩」は多用するべきではありません。「たとえ」「比喩」ばかりの小説は、話がまったく進まず、読んでいるとリズムがとっ散らかってすんなり読めないからです。

 ポイントを絞って効果的な「たとえ」「比喩」で伝えられれば、品格の高い文章が書けます。


 この説明と動作と描写を織り交ぜることで、地の文の分量が増していくのです。





最後に

 今回は「プロットを創る」について述べました。

 「書き出し」から「主人公」を出しましょう。長々と時代設定・状況設定を書いてしまうのは、一見格調が高そうで、その実読み手は「退屈だ」と感じます。

 読み手が求めているのは物語をまわす「主人公」を早く出してくれることです。「主人公」がわかれば読み手は感情移入を試みます。主人公の動きや感覚を書くことで「主人公」の感じ方を理解して深く感情移入できるのです。

 「文章が長く書けない」という方は、主人公の動作や心象を細かく書き、説明は主人公への感情移入を妨げない程度に増やし、描写でポイントを絞って「たとえ」「比喩」を用いていきましょう。

 「プロット」は絵でいうと「主線起こし」から「ペン入れ」の段階です。

 どれだけ密度の高い「ペン入れ」ができるか。それで絵全体の評価が決まります。

 すらすらと「執筆」できるようになるには、綺麗な「ペン入れ」となっているかどうかがかかっているのです。



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