1440.端緒篇:企画書を書く

 今回から物語創りを本格化させます。

 まずは「企画書」です。

 ですが小説投稿サイトで活躍している書き手はほとんど「企画書」を書いていないようなんですよね。もし書いていたら「エタる(エターナル:永遠に終わらない)」はずがないからです。

「小説賞・新人賞」に応募する作品を書くときも、まずは「企画書」で候補作を何十本も考え、その中で最もよさそうな「企画書」で勝負してください。





企画書を書く


 小説を書く前段階が「命題」を知り「テーマ」を設定する、です。

 それができたらいよいよ「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」へと進みます。

「企画書」と聞いて、社会人は逃げ出したくなるかもしれませんね。

 でもだいじょうぶ。小説の「企画書」はとても簡単なものですよ。




どんな主人公がなにをする物語なのか

「企画書」と小難しく言っていますが、要は「どんな主人公がなにをする物語なのか」を決めるのです。

 マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL Z』であれば、「戦闘民族サイヤ人の孫悟空が超サイヤ人になって、宇宙の帝王フリーザを倒す物語」が「企画書」となります。

 連載マンガ・連載小説だと「企画書」がとんでもない大きさになってしまうので、長編一本、原稿用紙三百枚、十万字の小説に限ってみましょう。


 水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔城』であれば、「聖騎士に憧れる村人パーンが、ロードス島を暗躍する灰色の魔女カーラを仲間たちとともに倒す物語」となります。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』であれば、「ベータテスター通称ビーターのキリトが、デスゲームと化した浮遊城アインクラッドを攻略する物語」とざっくりこんなお話です。

 以上のように、「企画書」はワンテーマでかまいません。それだけで十万字はかるく到達しますよ。


 水野良氏の「命題」には「中世ヨーロッパのような」「剣と魔法のファンタジー」「英雄譚ヒロイック」「出世」が入っているようです。『魔法戦士リウイ』『グランクレスト戦記』も皆この「命題」を踏襲しています。

 ここから「テーマ」を設定して差別化を図るのです。『ロードス島戦記』は「島の中の箱庭戦記」、『魔法戦士リウイ』は「諸国遍歴」「魔剣探求」、『グランクレスト戦記』は「国盗り物語」が「テーマ」となります。

 川原礫氏の「命題」には「ゲーム世界」「攻略」「純愛」が入っています。『アクセル・ワールド』もこの「命題」で書かれていますよね。

 ここから「テーマ」を設定して差別化を図るのです。『ソードアート・オンライン』は「VRMMORPG」、『アクセル・ワールド』は「仮想ネットワーク」が「テーマ」となります。

「テーマ」は土台の「命題」の上に立ちます。そして「命題」で「テーマ」を表現するために「企画書」を創るのです。

 あなたに「企画書」で決めた「どんな主人公がなにをする物語」を書けるだけの「命題」の裏打ちはあるのか。掲げる「テーマ」で表現できるのか。それを客観的に見るために「企画書」を作ります。




どんな主人公がどういう出来事でなにをなしどうなったのか

 項題がさらに長くなりました。

 でも恐れる必要はありません。

 先ほどの「どんな主人公がなにをする物語」かを「起承転結」で表しただけです。

「起」:「どんな主人公が」

「承」:「どういう出来事で」

「転」:「なにをなし」

「結」:「どうなったのか」

 これが「企画書」バージョン2です。

 バージョン2に進めると、この物語が面白くなりそうか、ならなそうかが見えてきます。

 プロになったとしても、この「企画書」が創れると担当編集さんとの意見交換が活発になるのです。「こんな物語を書きたいんですけど」と担当編集さんに提案するとき、ある程度どういう物語かわかりやすい「型」に入っているほうが共有しやすい。

 では『ロードス島戦記』と『ソードアート・オンライン』で見てみましょう。

 まず『ロードス島戦記』の例です。

「起」:「どんな主人公が」父が聖国ヴァリスの聖騎士で自らも聖騎士に憧れるパーンが

「承」:「どういう出来事で」聖騎士を目指して村を出発し、ヴァリスで騎士見習いとなってファーン王がマーモ帝国のベルド皇帝の一騎討ちで相討ちとなるのを目の当たりにして

「転」:「なにをなし」ロードス島の裏で善悪のバランスをとる灰色の魔女カーラを倒し

「結」:「どうなったのか」カーラに肉体を乗っ取られたレイリアを助け出す

 まぁ完成された物語を元に「企画書」を書いているので、出来すぎの部分はあります。しかしこのくらいの「企画書」でもどんな長編小説になりそうかはわかりますし他人にも伝えやすいですよね。これが「企画書」を書く理由です。

 次は『ソードアート・オンライン』の例です。

「起」:「どんな主人公が」VRMMORPG「ソードアート・オンライン」のベータテスター通称ビーターのキリトが

「承」:「どういう出来事で」正式オープンした「ソードアート・オンライン」が「誰かが浮遊城アインクラッドを攻略しないかぎり生きてログアウトできない」事態に陥り

「転」:「なにをなし」謎の人物とプレイヤー全員ログアウトを懸けて一騎討ちに挑み

「結」:「どうなったのか」アスナの献身により一騎討ちで勝利して全プレイヤーが解放された

 こちらもかなりざっくりとしていますが、まぁ「企画書」バージョン2段階ではこの程度を決められたらじゅうぶんです。


 この「企画書」バージョン2を書き出せるようになれば、いつでもどこでも新しい物語を生み出せます。物語に必要な「起承転結」が揃っているのですから。

 小説書き仲間や理解のある知人などに「企画書」バージョン2を見せて「面白そう」か忌憚ない意見を聞いてみましょう。

 もし「ありきたり」と言われたら、十万字書く前に、物語を変更できます。

 これが「企画書」バージョン2の効用です。

 十万字書く前から「面白そう」か「つまらなそう」か「ありきたり」かがわかります。事前にわかれば、より工夫した「企画書」バージョン2を練られますので、同じ登場人物でもより「面白い」物語に仕上げられるのです。

 とくに「転」をどれだけ凝るかで物語の「面白さ」は左右されます。

 他はどうだっていい、とは言いませんが、重要度が高いのは間違いなく「転」です。主人公が「なにをなす」のか。どれだけ「転」で読み手を惹き込めるか。「小説賞・新人賞」を獲る書き手は主人公が「なにをなす」かを工夫しています。それに合わせて書き出しも変わってくるからです。




企画書を書かないと

 もし「企画書」を書かないまま小説投稿サイトで連載を開始したらどうなるでしょうか。

 無駄が多くなります。

「企画書」には、物語の根幹を担う「起承転結」に必要な情報や展開が書かれているのです。だから伏線も張れますし、不必要な人物を出さなくて済みます。

 もし十万字の長編小説を連載小説に切り替えたくなったら。

 長編小説の「起承転結」を、連載小説の「起承転結」の「起」にしましょう。

 つまり当初の「企画書」から四倍の出来事を起こせるのです。しかも「起」は綺麗に終わるだけでなく次の「承」の出来事への伏線にできます。

 こういった柔軟な構成の変更も、「企画書」があったればこそです。

 横着して「企画書」を書かなければ、意気込んで執筆しても空中分解してしまいます。それはそうですよ。先々の展開をまったく考えていませんから。

 執筆前にきちんと「企画書」を書いていたかは、連載中の作品を「企画書」バージョン2の「起承転結」に当てはめれば一発でわかります。

 連載が煮切ってストップした作品を「企画書」バージョン2に当てはめると、構成がつながっていないとすぐにわかるのです。

 きちんと「どんな主人公がどういう出来事でなにをなしどうなったのか」に当てはまっていたら、詰まる理由がありません。連載が「エタる(エターナル:永遠に終わらない)」のは「企画書」バージョン2が成立していないからです。

 もしあなたが「小説賞・新人賞」を獲得できたとして、小説投稿サイトに掲載している連載小説がいずれも未完のまま放ってあったとしたら。あなたの担当編集さんは頭を抱えるかもしれません。この書き手は面白い話が書けると思ったのに、一本も完結させていないじゃないか、と。

「紙の書籍」は規則正しく単行本を出して、きちんと結末まで書いて完結させないと読み手が放り出してしまうのです。どれだけ「面白い」連載小説が書けても、完結させないと読み手があなたを見放し、担当編集さんからも見放されてしまいます。そして二度と「紙の書籍」を書かせてもらえないのです。

 あなたが「小説賞・新人賞」へ応募した理由はなんでしょうか。

「紙の書籍」化してプロの仲間入りをしたいからではありませんか。まさかたった一作一巻出してプロに満足してしまうほど淡白な性格ではないですよね。それでは賞レースであなたに敗れた書き手たちが黙っていないでしょう。

「小説賞・新人賞」へ応募する理由が、あくまでも「賞金狙い」ならそれも「あり」です。

 しかし「紙の書籍」化してプロの仲間入りし、連載小説を書かせてもらってそれで食べていきたい。そう思っている応募者が多いのです。将来を夢見る書き手たちが悔し涙を流しているのに、たった一作一巻出しただけで満足されたらたまったものではありません。

 だから小説投稿サイトで一度始めた連載は、きちんと完結させてください。あなたが大賞を獲ってプロデビューしてできるだけ長い期間プロでいたいなら、真っ先に「企画書」そして「企画書」バージョン2を書きましょう。きちんと「転」の「佳境クライマックス」と「結」の「結末エンディング」を明らかにしておくのです。そうすれば担当編集さんも安心してあなたに連載を任せられますよ。





最後に

 今回は「企画書を書く」について述べました。

「企画書」とは「どんな主人公がなにをする物語なのか」を決めておくものです。

 一歩進んだ「企画書」バージョン2は「どんな主人公がどういう出来事でなにをなしどうなったのか」つまり「起承転結」などの構成を決めておきます。

「企画書」バージョン2は物語のタネです。ここでどれだけ面白い物語を思いつけるかどうかが、あなたの将来を約束してくれます。

 将来「小説賞・新人賞」を獲ってプロデビューしたいのなら、「企画書」と「企画書」バージョン2はいつでもどこでも考え続け、思いついたらメモをとるようにしてくださいね。



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