1441.端緒篇:あらすじを創る

 今回で毎日連載1400日となりました。

 終わりが見えてきたので、一気に駆け抜けたいのですが、皆様のメッセージやコメントを見て「補足」を付け加えていきますので、ご質問が切れるまでは続けるつもりです。まぁ毎日連載にはこだわりませんが。

 では前回創った「企画書」をもとに「あらすじ」に参りましょう。





あらすじを創る


「企画書」が決まったら「あらすじ」に移ります。

 ここで言う「あらすじ」は『小説家になろう』で1000字書ける作品概要ではありません。「小説賞・新人賞」応募の際に求められる「梗概こうがい」へ転用できるものです。

「企画書」バージョン2へさらに肉付けしていきます。どんな状況でどんな出来事・事態が起きてどんな結果が出るのか。それにより伏線はどう張り、どう活かすのか。

 つまり物語に起きる出来事・事態のすべてが書かれ、それにより主人公たちはどんな影響を受けるのかまでを記すのです。




企画書をブラッシュアップする

「あらすじ」は「企画書をブラッシュアップ」して創ります。

「企画書」バージョン2である「どんな主人公がどういう出来事でなにをなしどうなったのか」。これが「起承転結」になるのでしたよね。

「企画書」バージョン2で物語を通底する構成がはっきりとわかるのです。

 これは四部構成「起承転結」、三部構成「序破急」「三幕法」のいずれをとっても変わりません。

 まったく同じ「企画書」バージョン2から四部構成も三部構成も思いのままなのです。

 今回は四部構成「起承転結」を中心に述べます。要望の多かったハリウッド式「三幕法」(フィルムアート社様の書籍を参考にしています)は二回先に取り上げますので今しばらくお待ちくださいませ。次回は三部構成「序破急」です。




企画書バージョン2は起承転結と相性がよい

「企画書」バージョン2はそのまま「起承転結」を言い表しています。

 復習すると以下でしたね。

「起」:「どんな主人公が」

「承」:「どういう出来事で」

「転」:「なにをなし」

「結」:「どうなったのか」

 この構成のとおりに書けば、自然と「起承転結」の四部構成が書ける「魔法のような」物語作成法となっております。

 ただし気をつけたいのが分量の配分です。

 単純に十万字を四分割した二万五千字ずつを割り当ててはなりません。それでは「起」で主人公について語りすぎ、「結」で「対になる存在」を倒してからの後日談が長くなりすぎます。

 そうやって適切な長さに調整していくと、ハリウッド式「三幕法」に集約されるのです。だから本コラムでも取り上げました。

 都合のよいことに『カクヨム』で「フィルムアート社」様の公式アカウントが「三幕法」の試し読みを行なっています。読んでみて「これは使える!!」と感じたら、書店またはAmazon.co.jpや楽天市場、ヨドバシ・ドット・コムなどで取り寄せてみましょう。ただ難点もあって、「三幕法」はハリウッド式というだけあって「映画の脚本」を作るための方法論なのです。それを小説に応用したのが本コラムで紹介した「三幕法」なので、映画の脚本じゃ意味ないやと思われたら、本コラムで試し読みいただければと存じます。




企画書からあらすじへ

 まず取り組みたいのは「起」です。「どんな主人公」か見せて読み手の共感を得ましょう。

 これが殊のほか難しい。

 主人公の人となりを「説明」していくのは絶対にNGです。今の時代、夏目漱石氏『吾輩は猫である』をやってはなりません。主人公が自分を読み手に「説明」していては、設定の押しつけでしかないのです。ドラマの脚本でもこんな下手な紹介はしません。

 アニメの『ドラゴンボール』の「オッス、オラ悟空」も禁じ手です。

「吾輩は猫である。」と「オッス、オラ悟空」はともに主人公が読み手に自分をアピールしています。ただアピール方法がマズいのです。これでは「もしもし、私リカちゃん」となんら変わりません。すべて小学生までが対象のキャラクターばかりです。

 そうではなく、冒頭でいきなり「事件を起こし」て主人公をそれに巻き込んでください。

 ではどんな事件がよいのでしょうか。

 ここで「転」をどれだけ考えられたかが判明します。

 そうです。「転」で主人公がどういう行動をとるかで「起」にふさわしい事件が決まるのです。

 もし「転」で「対になる存在」とバトルするのなら、「起」でも主人公は「負けそうなバトル」の渦中にいるべきです。実際負けても、負け寸前で助けが来てもかまいません。

「転」で「対になる存在」に告白するのなら、「起」で主人公は「誰かにフラれる」か「誰かをフる」かするべきです。

「起承転結」での「起」は、物語の「佳境クライマックス」である「転」から逆算されなければ構成になりません。

「転」で「殺人犯を名指ししてアリバイトリックを崩す」のであれば、「起」で「誰かが殺され」なくてはならないのです。

 このように「起承転結」であれば、「起」は「転」への伏線にしましょう。

 だからこそ必ず「企画書」バージョン2を創るのです。


「企画書」バージョン2のうち、「起」「転」の出来事・事態は決まりました。残るは「承」「結」です。

 まず「結」は「結末エンディング」であり、ここで新たな出来事・事態を起こしてはなりません。あくまでも「転」の「佳境クライマックス」で主人公は「対になる存在」と決着しているのです。それなのに「結」で新たな出来事・事態を起こすと物語が閉じられません。

 実は連載小説でこれをやってしまった有名な作品があります。本コラム常連の田中芳樹氏『銀河英雄伝説』です。

 この物語の「転」は「主人公ラインハルトがユリアン・ミンツの抵抗を受け容れる」出来事です。残された「結」はラインハルトが病魔で死にゆくまでを書けばよい。

 そのはずなのに、田中芳樹氏は「結」へ至るまでに「ラインハルト亡きあとの銀河帝国」の布陣をあれこれと書いています。とくに「獅子の泉ルーヴェン・ブルンの七元帥」がその最たるものです。誰が七元帥になったのかを、物語の「佳境」前からその人物の紹介でさらりと書いてあります。

 これがあるから『銀河英雄伝説』は続編の期待値が高いのです。ミッターマイヤー、ミュラー、ワーレン、メックリンガー、ビッテンフェルト、ケスラー、アイゼナッハの七名が「獅子の泉の七元帥」だと語られるわけですから、読み手も彼らの活躍を読みたいに決まっています。

 この「未完」のような終わり方をしているせいで、『銀河英雄伝説』はいつまで経っても完結した気がしないのです。

「結」は「起承転」までに開いた物語を閉じるためのパートになります。『銀河英雄伝説』のように完全に閉じられないと生煮え感が残ってしまうのです。

 可能なかぎり「広げた風呂敷は綺麗に畳んで」ください。


 残るは「承」ですね。

 思いきりぶっちゃけます。四部構成において「承」は「かなり自由度が高い」パートです。「なにをやってもかまわない」とまでは言いません。しかしよほど唐突でないかぎりは、どんな出来事・事態が起こっても物語の筋道に影響しないのです。

 構成において「起」と「転」が一対の合わせ鏡であるのに対し、「承」は「起」をどの方向へ広げていってもかまわないのです。「起」からつながらない、または「転」へつながらない「承」は唐突なパートになって物語から浮きます。そのぶん評価が落ちるのです。


「起承転結」は以上のように「起承転」のパートごとに出来事・事態を起こして広げながら、「結」ですべて閉じて物語が細大さいだい漏らさず綺麗に終わるから「鉄板」の構成と呼ばれます。『銀河英雄伝説』のように「この先も物語は続くんですよ」なんてやっていたら、「完結できない書き手」のレッテルを貼られるでしょう。

「立つ鳥跡を濁さず」ではありませんが、読み終えたとき物語が綺麗に閉じて読み手のもとから飛び立っていくのが「よい小説」なのです。

 読後感がよいから「またあの主人公に、あのキャラクターに会いたいな」と思えます。

『銀河英雄伝説』のように完全に閉じないと「この物語の続きが読みたい」「いつになったらこの世界が完結するのだろうか」とやきもきしてしまうのです。

 だからなのか『銀河英雄伝説』は第二巻でキルヒアイスに不幸が訪れるまでをひと区切りとしてアニメ化やマンガ化、歌劇化されています。そこまでで終わっていれば物語が綺麗に閉じているからです。




あらすじに落とし込む

「企画書」バージョン2から「あらすじ」に落とし込む際、上記した「起承転結」に起こる出来事・事態を細大漏らさず書いてください。

 水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』なら、こんな感じになります。

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「起」:聖騎士の父を持ち、自らも聖騎士になりたいと願う一介の村人パーンは、親友の神官エトを伴って迷惑なゴブリン退治へと出かける。しかしゴブリンの数が予想以上に多く、二人は窮地に陥る。そこへドワーフのギムと魔術師スレインがやってきてなんとかゴブリン退治に成功する。

 パーンたちは聖国ヴァリスへ向かう道すがらハイエルフのディードリットと盗賊のウッドチャックを仲間とし、成り行きで誘拐されたヴァリス国王女フィアンナを助け出す。

「承」:フィアンナ姫救出に赴いていた聖騎士たちと出会い、父の汚名を晴らしたパーンは聖騎士見習いへと組み入れられ、マーモ帝国の皇帝ベルドとの一大決戦にパーン一行も駆り出される。しかし双方の総大将であるファーン王とベルド皇帝が一騎討ちの末死んでしまい、ヴァリス軍とマーモ軍は撤兵を余儀なくされた。

 大賢者ウォートのもとを訪れたパーン一行は、ロードス島の善悪の天秤を影から釣り合わせていた「灰色の魔女カーラ」の存在を知る。古代魔法王国の生き残りであるカーラに対抗するため、パーンたちはサポートアイテムとカーラの倒し方を譲り受ける。

「転」:ウォートから聞き出したカーラの居城へとパーンたちは乗り込んでいく。すでに戦闘準備を整えていたカーラに、挨拶は無用とばかり総攻撃を仕掛けるパーンたち。スレインは魔法封じのアイテムを使ってカーラの魔術を封じ、ギムが危険を顧みず突進してカーラの注意を惹きつけ、パーンとディードリットがカーラのスキをついて連携するもカーラに傷ひとつ付けられない。カーラはまずギムを仕留め、パーンたち前衛に気をとられていたスキを見逃さずウッドチャックがカーラの意志を封じ込めたサークレットを外すことに成功した。

 カーラのサークレットを破壊すれば任務完了だったのだが、古代魔法王国の知識に興味を覚えていたウッドチャックが欲望のままに自らサークレットを装着してしまう。カーラの意志に抗おうとしたが叶わず、ウッドチャック・カーラとなり歴史の闇へと消えていった。

「結」:パーンは闇に消えたウッドチャック・カーラを追う旅に出立し、ディードリットをともにする。エトはヴァリスへと帰還して国を立て直す力となる。残されたスレインは、ギムが命を懸けて守り抜いた、カーラに肉体を乗っ取られていた娘レイリアを彼女の母が待つ村まで送り届けることにした。

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 と細かな順番は置いておいて、大筋の流れはこんな感じです。

 これが「あらすじ」となります。

 最初からここまでの「あらすじ」は仕立てられないでしょう。ですが、数をこなせばできるようになります。

 そして「あらすじ」を書かなければ「小説賞・新人賞」の応募作に付ける「梗概」を書くために、物語の要約が必要になるのです。

 それなら最初から「あらすじ」を書いておけば、そのまま「梗概」にできるので一石二鳥といえます。





最後に

 今回は「あらすじを創る」について述べました。

「企画書」を「企画書」バージョン2へアップデートしたら、その勢いで「あらすじ」にまで仕立ててしまいましょう。

 どんな出来事・事態が起こるのか。「あらすじ」の中に網羅するのです。

「小説賞・新人賞」に添付する「梗概」も、この「あらすじ」をそのまま付ければよいため効率もよくなりますよ。



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