1436.端緒篇:主人公という理想のあなたの活躍を書く
今回は哲学の要素がありますね。
物語の主人公は、突き詰めると「理想の自分」なのです。
でなければ主人公の立ち居振る舞いを頭に思い浮かべられません。
恥や照れなしで「主人公は理想の自分なんだ」と認識すると、途端に筆が走るようになります。
主人公という理想のあなたの活躍を書く
小説に「映像美」はありません。いくらディテールに凝ったところで、物語の面白さとは無関係です。
マンガやアニメには「映像美」があります。物語が面白くなくても「映像が美しけ」れば観てしまう。そんな人がかなりいます。
毒舌になりますが、宮崎駿氏や押井守氏や新海誠氏の映画はいずれも物語そのものはそれほど面白くありません。ただ圧倒的な「映像美」があり、「映像を堪能する」ために劇場へ大挙するのです。
しかし小説が「映像美」で売れるなどという事態は起こりえません。
理想とする主人公は理想のあなた
ちょっと哲学的な文ですね。
あなたが「物語」で活躍させたい主人公は、「あなたが理想とする自分」の投影です。
つまり「こんな人物になりたかった」「こんな活躍がしたかった」とあなたが妄想する「理想の自分」こそが、あなたの物語の主人公にふさわしい。
人間はつねに「理想の自分」を持っています。
「あのときこんな結末が待っていたら」「あそこできちんと決めていたら」「あそこでああしていたら」
そういうifを物語の形でいろんな人に知ってもらいたい。代償行為として小説を書くのです。
多くの書き手は「理想の自分」を主人公にしています。
「理想の自分」は書き手の妄想にいくらでも付き合ってくれる存在です。そして無双の活躍をします。そうして「理想の自分」を排泄して物語の形に昇華させて供養するのです。
もし物語で昇華させられないと、いつまでも「理想の自分」を捨てきれません。前を向けないのです。「あそこでああしていたら」をずっと引きずった人生を歩んでいくでしょう。
「理想」は「過去の栄光」をいつまでも追い続けているだけです。偶然手に入れた「成功」をずっとし続けるような幻想から「理想」は生まれます。「理想」があなたの未来を縛るのです。
しかし物語であなたの「理想」を供養してやれば、いつでも現実を直視できるようになります。
プロの書き手にとって小説とは「理想の自分」を存分に活躍させて、昇華・供養する行為なのです。
もっと言えば「理想の自分」という「煩悩」を滅却するために、体外へ排泄する行為。それが「小説を書く」なのです。
「物語を伝える」のは「読み手を楽しませよう」よりも「理想の自分を供養しよう」と思ったほうがうまくいきます。
仏教の開祖・
他人の開いた道を行かず、自らの力で煩悩を滅却したいのなら、「理想の自分」という煩悩を「物語」の主人公にして昇華しましょう。
あなたが「理想の自分」を主人公にした物語を百八つ書いたら、いずれ仏陀になれるかもしれませんね。
ウケる主人公なんてものは存在しない
どんな主人公を書けばウケるだろう。
いくら考えても「ウケる主人公」なんてものは見つかりません。
「理想の自分」を書いて無双の活躍をさせる。そんな主人公に読み手が「没入」できたら、それが「ウケる主人公」になります。
つまり最初から「ウケる主人公」を目指すのではなく、「理想の自分」を存分に書いて読み手が惹き込まれたら、それが「ウケる主人公」なのです。
あなたは渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公・比企谷八幡を「ウケる主人公」だと思いますか。ものすごく面倒くさくて、その割に美女が寄ってくる。とても「ウケる」とは言い難い煩悩の塊。でも物語で読むと、結果的に「ウケる」んですよね。
渡航氏は「ウケる主人公」は目指していなかったのかもしれません。「自分がこんな状況になったらいいな」と「理想の自分」のひとつだったら。渡航氏としては自然と比企谷八幡を主人公にできたはずです。
鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の主人公・上条当麻も「ウケる主人公」というより「こんな活躍がしてみたいなぁ」から発生した主人公に映ります。「もしすべての異能をかき消せる右腕を持っていたら」鎌池和馬氏はどうしたいと思ったのでしょうか。おそらく能力者らをぶん殴って改心させて爽快感を味わおうとしたはずです。だから上条当麻のような主人公になったのです。上条当麻が読み手から「ウケる主人公」になったので、鎌池和馬氏は煩悩のひとつを供養できたと思います。
このように、最初から「ウケる主人公」とはどんな人物だろうか、を考えても無意味なのです。「理想の自分」という煩悩を書いて、それが多くの読み手から共感され支持されるから「ウケる主人公」になっていきます。
順序を間違えてはなりません。
先にあるのは、つねに「理想の自分」です。
「理想の自分」を書くのは最初こそ恥ずかしい。でも数をこなせば恥とも感じなくなります。
前項で述べましたが、「理想の自分」はあなたの煩悩なのです。煩悩を滅却するために物語の主人公として昇華させます。
こう言ってしまうと身も蓋もないのですが、煩悩は人類共通です。だからあなたの煩悩は必ず誰かの心にヒットします。煩悩こそ「ウケる」要因なのです。
「理想の自分」という煩悩は、多くの読み手の煩悩につながっています。
であれば「ウケる主人公」は書き手の「理想の自分」なのです。
「読み手にウケる」ではなく「書き手が捨てたい理想の自分」を突き詰めましょう。それが結果として「ウケる主人公」になります。
もし「理想の自分」ではなく、これこれこういう要素を組み合わせれば「ウケる主人公」になると決めたら、おそらくまったくウケないでしょう。組み合わせて生まれた主人公は「理想の自分」ではないので煩悩とは言えません。だから人々の心にヒットしないのです。
煩悩にも背景設定
主人公を物語の「あらすじ」「箱書き」どおりに動かすだけだと、言動が一貫しなくなります。ある場面では強気なのに、ある場面では弱気になる。それがあなたの煩悩が持つ感情の振り幅なのかもしれませんが、そこまで極端なキャラクターはなかなかいません。
主人公は物語世界を生きており、当然ここに至るまでの人生があったのです。
主人公のブレをなくし「勝手に動き出す」ようにしたいのなら、主人公の「人生の履歴書」を作成してみましょう。
何年何月のどこで生まれたのか。幼稚園・保育園・養護施設のいずれで育ったのか。小学校はどんなところでどんな活躍をしてきたのか。中学校では、高校では、進学するなら大学では。身につけた知識や知恵、スキルやテクニックはどれほどか。初恋はいつ誰に。何歳のときに誰が死んだ、生まれた。幼馴染みはどんな人物か。
「異世界ファンタジー」なら、どこの国や市町村の生まれか。成人になるまでなにをしてきたのか。成人してからなにをしたのか。なども欲しいですね。
実際に文具店で「履歴書」を買ってきて、「理想の自分」の経歴をすべて書き出してみましょう。できればいつ読み返してもその主人公の人となりがわかるよう、志望動機や特技欄もフルに活かしてください。
こういった背景があれば、
どう言動させればよいのかわからなくなったら、「人生の履歴書」を見ながら「理想の自分」に問いかけてください。きっとあなたの中にいる「理想の自分」が答えてくれますよ。
最後に
今回は「主人公という理想のあなたの活躍を書く」について述べました。
物語の主人公は、結局のところ「理想の自分」なのです。
「理想の自分」だから存分に活躍してもらいたい。「理想の自分」の活躍を書くのだと思えば、どんなに文字数が壁になって立ちはだかっても楽しんで書けます。
そして楽しんで書くからこそ、読み手もつい「没入」するのです。
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