1435.端緒篇:文章が拙くても大賞は獲れる

 本コラムで「文体篇」「構文篇」を書いておきながら、かなり大胆なコラムです。。

 よほどひどい文章でないかぎり、大賞を授かるチャンスはあります。

 しかしそれには秀でた部分が必要です。

 とくに誰も思いつかないような「アイデア」こそ至宝となります。





文章が拙くても大賞は獲れる


 皆様が苦労して応募している「小説賞・新人賞」ですが、実は文章力はそれほど重要とは見られていません。

 文章力なんて、担当編集さんがあなたに付いて添削すればいくらでも矯正できるものです。

 よほど怪しい日本語で、なにを書いているのかさっぱりわからないレベルでもなければ、文章力で選考を通過できないなんてありません。

 ですが実際に一次選考を通過できない作品もあります。中には文章が拙いままでも大賞をかっさらっていく書き手もいるのにです。

 いったい選考さんはなにを見て選考を通過させているのでしょうか。




類い稀なアイデアは文章力より物を言う

「文章が拙いままでも大賞をかっさらっていく」

 これができれば誰も苦労はしないですよね。でも「小説賞・新人賞」の選考さんが著した書籍を読むと、よほどひどい日本語でなければ文章力が拙くても授賞や書籍化を推すとされています。

 文章力よりもなにが優先されるのか。

 項題に書いていますね。「たぐまれなアイデア」です。

 文章力はあとからいくらでも直せます。しかし「アイデア」の泉は書き手の人生経験や知識、着眼点によって定まってくるので、早晩改善しないのです。

 いくらでも伸ばせる文章力はほとんど見ていません。よほどひどい日本語でなければ落選させる理由にはならないのです。文章力には正解があります。目指すべきレベルが明確だから、学校の国語や現代文の授業のようにじっくりと鍛えていけばよいのです。

 しかし授賞後に書き手の「アイデア」を伸ばそうと思っても、なにか正解があるわけでもないので伸ばしようもありません。「アイデア」は芸術の核であり、「アイデア」をひらめかなければ素晴らしい作品には仕上がらないのです。

 たとえ石像を彫る技術が拙くても、「類い稀なアイデア」を見出だせばそこに値段のつけようのない価値が生まれます。どんなモチーフをどんな形で表現するのか。批評家の目に石像を彫る技術は映っていません。「どんなモチーフをどんな形で」に「類い稀なアイデア」があるかを見るのです。

 ミケランジェロ・ディ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニ氏(本名は長いので一般に「ミケランジェロ」と呼ばれています)の『ダビデ像』は旧約聖書の「ダビデとゴリアテ」から生み出された大理石の彫刻です。当時のフィレンツェではダビデ人気もあり、ミケランジェロに『ダビデ像』の製作依頼が舞い込みます。そして三年をかけて彫り出したのです。

 もちろんミケランジェロ氏の彫刻の腕前は一級品であり、『ダビデ像』も筋肉の隆起などきわめて精巧に彫られた逸品といえます。

 それ以上にフィレンツェ市民が親しんでいた「ダビデとゴリアテ」物語の主人公だった。これが大きかったのです。

 つまり題材だけですでに名声は疑いようもなかった。あとは題材に違わぬ技術で彫れさえすれば万人ウケします。

 ミケランジェロ氏は、約束された名声のために『ダビデ像』を彫ったのです。


 小説でそこまでの「題材」と技術の関係はあるでしょうか。

 たとえば小説投稿サイトでは「異世界転生ファンタジー」や「異世界主人公最強ファンタジー」が大人気です。これを一定以上の技量で書きさえすれば名声が約束されたようなもの。しかし「紙の書籍」であるライトノベルにした場合、小説投稿サイトで約束されていた名声が役に立ちません。

 小説投稿サイトでいくら「凡百なアイデア」が人気だろうと、「小説賞・新人賞」の大賞は獲れないのです。「小説賞・新人賞」は「類い稀なアイデア」が求められるのであって、「凡百なアイデア」では既存作との差別化が図れません。

「小説賞・新人賞」で大賞を獲るのは小説投稿サイトで一位の作品ではないのです。書き手であるあなただから書けた「類い稀なアイデア」かどうか。選考さんが見ているのはまさにそこなのです。

 抜群の文章力で書かれた「凡百なアイデア」の作品よりも、拙い文章ながらも「類い稀なアイデア」で惹き込まれる作品が大賞に選ばれます。「凡百なアイデア」の作品は優秀賞や佳作となって、運がよければ「紙の書籍化」もしてくれます。ただし「アイデア」は徹底的に改変させられるので、担当編集さんの指示どおりに改稿したら元の「アイデア」が微塵も残っていなかった例も多々あるそうです。

 あなたが「これなら大賞が獲れる」と意気込んだ作品は、原型をとどめない可能性もあります。そこまで粉々にされても「それでも紙の書籍になるからいいや」「紙の書籍の実績があれば小説化を名乗れるな」では、プロ生命も長くはありません。もしプロとして長くやっていきたいのなら「類い稀なアイデア」を何十本でも持つべきです。

 世の流行りを追わず、あなた自身が「これは類を見ないアイデアだ」と納得できる物語をどれだけ思いつくか。それが「唯一無二」の書き手としてプロで生き延びていくための処世術です。




太郎シリーズとじいさんシリーズ

御伽噺おとぎばなし」「童話」には「凡百なアイデア」がいくつもあります。

 その代表例が「太郎」シリーズと「じいさん」シリーズです。

 まず主人公「太郎」が名声を得る話。代表は携帯電話会社KDDIのブランドauでTVCMのモデルとなった『三太郎』の「桃太郎」「金太郎」「浦島太郎」です。なにか困難があるとそれを解決してひじょうに大きな見返りを受ける話です。これはこれでひとつの「テンプレート」となっています。

 次に主人公「じいさん」が得をする話。代表は「花咲かじいさん」「こぶとり爺さん」です。いずれも苦労して成功したじいさんを見たライバルのじいさんが欲をかいて大失敗する話です。こちらも「テンプレート」となっています。

 まさか「御伽噺」「童話」にまで「凡百なアイデア」が蔓延してしていたのかと愕然としました。

 まぁ記憶力が定かでない幼児期に読むものですから、ある程度「テンプレート」でも気づかれないし飽きられないというところなのでしょう。

 皆様の作品も「太郎」シリーズ、「じいさん」シリーズのように他の書き手も書いている「凡百なアイデア」に陥っていませんか。

「太郎」も「じいさん」も、なにか元ネタがあってそれが派生して量産されたはずです。今ではどれが元ネタなのかはわかりませんが。




唯一無二の物語を目指す

 結局「小説」に求められるのは「類い稀なアイデア」で書かれた、量産品でない「唯一無二の物語」なのです。

 どんなにザクが大量に立ちはだかろうと、勝つのは「唯一無二」のガンダムです。

 ガンダムにはザク・マシンガンが通用しません。そんなものではガンダムに傷ひとつ付けられないのです。

 ガンダムに勝ちたければ量産品でない「唯一無二」のモビルスーツで戦いましょう。

 実はあのガンダムと戦って最後まで傷ひとつつけられていないモビルスーツが存在したのです。皆様はわかりますか?

「MS−06S」通称「シャアザク」です。

 実はシャア。この「シャアザク」では傷ひとつつけられていません。次の「ズゴック」「ゲルググ」はともに片腕を切り落とされていますし、「ジオング」に至っては相討ちでようやくガンダムを仕留められたのです。しかしシャアザクは無傷のままでガンダムを翻弄しました。

 つまりシャアザクはジオングよりも強いのです。(かなり強引な三段論法)。

 話が逸れました。

 つまり「異世界転生」や「主人公最強」は量産品の「平凡なアイデア」なのです。

「小説賞・新人賞」を本気で獲りたければ、あなただから書ける「類い稀なアイデア」で「唯一無二」の物語を応募してください。

 あなたの発想が「平凡」なのか「類い稀」なのかは、あなたの応募作が雄弁に語ってくれますよ。





最後に

 今回は「文章が拙くても大賞は獲れる」について述べました。

 大賞にふさわしいのは「類い稀なアイデア」で書かれた「唯一無二」の物語です。

 小説投稿サイトの流行りだけを追っていると、仮に各賞を授かっても「紙の書籍化」されたときには「すでに流行りは過ぎていた」可能性もあります。

 しかし「唯一無二」の作品は、どの時代でも先頭を走っていけるのです。

 どちらが商業的に成功するかは火を見るより明らかではないでしょうか。



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