1431.構文篇:そっちだったのか!な伏線

 今回は「伏線」についてです。

 どんな物語でも初回に「伏線」を張るべきです。それが次回への惹きになります。

 いかな名作といえども初回で読み手を惹き込めなければ、初回だけで読み手は去ってしまうのです。

「小説賞・新人賞」へ応募するにしても、第一話でしっかりと選考さんを惹きつけないとその場で切り捨てられます。「選考なんだから最後まで読め」は応募者側の勝手な理屈です。『カクヨム』で開催されている「カクコン」には一万を超える作品が応募されています。それを数少ない選考さんがすべて読めるはずもありません。

 だからいかに第二話まで選考さんに読んでもらうのか。第二話を読んだらさらにその先が気になり、「佳境クライマックス」まで一気に読ませるだけの魅力が欲しいところです。





そっちだったのか!な伏線


 通常「伏線」はひとつの事実に結びついています。

 だから一度使用された「伏線」は用済みとなって記憶から消えていくのです。

 しかし実は「伏線」がもうひとつの事実と結びついているケースも多々あります。推理小説で読み手を「ミスリード」したいときに用いられる手法です。





吸血鬼を指していたとは!

 前回「伏線」の例で太陽の光、鏡、にんにく、十字架、白木、銀を取り上げました。これらすべてが「佳境クライマックス」に登場する「対になる存在」吸血鬼を暗示する「伏線」として機能するものばかりです。

 その中で次のように記載しました。

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「白木」「にんにく」「十字架」はどうしても吸血鬼を連想しやすいのでこれらは伏線に適していないので捨てます。残った「太陽の光」「鏡」「銀」だけならまず吸血鬼は連想できません。そこで初回では「太陽の光」「鏡」「銀」を登場させて、初回の話ではそれほど活用しないようにしてください。

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 ここで書いたように初回で吸血鬼とは別の使い方をして記憶からいったん消してしまうのです。そして「佳境クライマックス」で吸血鬼が出てきたら、そういえば「銀の鏡に太陽の光が反射した。」って書いてあったなと思い出して「伏線」が回収される人と、すべて読み終わってもう一周するときに初回を読んで「あぁここに太陽の光も鏡も銀も書かれていた! これが吸血鬼への伏線だったのか!!」と思い至る人に分かれます。

 単に物語が面白くて初回の「伏線」に気づかず別の小説へ行ってしまってもかまいません。「伏線」と気づかれなくても面白い物語だったらそれでよいのです。

 吸血鬼を暗示する「伏線」として「白木」「にんにく」「十字架」は強すぎる単語なので避けました。しかし「太陽の光」「鏡」「銀」のように別の使い方をして記憶からいったん消してしまえば本命の吸血鬼の「伏線」として使えるのです。

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 今朝も好物でスタミナのつく「豚にらにんにく」を食べる。体を作るビタミンや必須アミノ酸が大量に摂れる魔法のようなメニューだ。ただし口臭がキツくなるから、出かける前にしっかりと歯磨きしなければならないのが億劫だが。

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 と「にんにく」も食事として使い、健康志向な主人公を印象づけるのです。これで「にんにく」を出してもすぐには吸血鬼とはバレにくくなります。

 ただし「ファンタジー」を読み慣れていると「にんにく」イコール「吸血鬼」となるほど強力なアイテムなので、完全に回避するのは難しい。

 そこでもう一度「実はこんな理由があったんです」という事態で「にんにく」を使いましょう。もちろん吸血鬼とはまったく関係のない事態でです。

 たとえば実は「犬嫌い」で、にんにく臭くしていると犬が寄ってこないから、という理由にしてしまう。これならなんで毎日歯磨きの手間をかけてでも「豚にらにんにく」を食べているのかの理由として説得力があるはずです。

佳境クライマックス」に至る前に「犬嫌い」をアピールしておけば、「にんにく」が持つ吸血鬼のイメージはかなり減衰させられます。

 ここまでやればパワーワードである「にんにく」であっても、すぐには吸血鬼と結びつきづらくなるのです。




伏線は意外と気づいてもらえない

「伏線」を張るときに心してもらいたい事実があります。

「伏線」は意外と気づかれないものである、ということです。

 そんなバカなと思うかもしれませんね。とくに推理小説を書いている方々は。

 しかしそんなものなのです。

 バレバレの「伏線」が書いてあっても、三割くらいの数なら気づけるでしょう。しかしすべての「伏線」に気づける読み手はまずいません。いたとしたら最初から「伏線」探しが目当てだった場合のみです。

 たとえばマンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』を読んだりアニメを観たりしていて、犯人のトリックにつながる「伏線」をすべて暴けるでしょうか。実際に「伏線」探しをしながら読んだり観たりしていても、すべての「伏線」には気づけないものです。

 先項で述べたように「別の使い方をして」記憶が消えてしまうから。

「伏線」探しの基本は「伏線」と事実がワンセットである、という前提にあります。だから一度使われた「伏線」は記憶から消去されやすいのです。

「伏線」を巧みに使う書き手は、ひとつの「伏線」を何通りにも使いこなします。物語の鍵を握るくらい目立つ「伏線」もあるのです。そのくらい前フリをしっかりやって初めて「にんにくが示す事実は吸血鬼ではなかろうか」と先読みできるようになります。

 また、すべての伏線が回収されなければならないという規則もありません。プロの書き手でも解決し忘れた伏線はけっこうあります。

 もちろんすべての伏線を回収するほうが読み手に親切です。親切なのですが、プロの書き手でもどんな伏線を張ったかをすべて憶えていません。「そんな無責任な」と思わないでもありませんが、長編小説や連載小説になると、すべての伏線を憶えているなんてなかなかできないものです。




伏線管理メモを作る

「伏線」の回収し忘れは、そのほとんどが「張ったこと自体を忘れてしまう」点にあります。

 であれば「伏線」を忘れないようにメモをとりましょう。

 執筆原稿文書に「付箋」が貼れるテキストエディターもありますので、そういうものがある場合はデジタル文書上でも管理するべきです。

 しかし「どんな伏線をどこに張ったっけな?」となったとき、執筆原稿文書に「付箋」が貼ってあるだけでは、すべての文書をもう一回読み返さなければ回収したかわかりません。これでは非効率もよいとろこです。

 もし「付箋」が「一元で管理できる機能」になっている場合は、「付箋」機能でラベリングした「付箋」がどこに貼ってあってどんな「伏線」を書いたのかを検索すれば使い勝手は向上します。

 もしテキストエディターに「付箋」がない、または「付箋」はあっても一元管理できない場合もあります。そのときは「伏線管理メモ」を別途作りましょう。

「伏線管理メモ」と言われてもどんなものかわからないでしょう。

 とても簡単なのです。

 メモ用紙や手帳でもかまわないので、「第何話(第何部・第何章・第何節)のどこそこに○○という△△にかかわる伏線を張った」と書くだけでよいのです。そして二行空けて次の伏線を書きましょう。二行空けるのは伏線を回収した場所と回収の仕方を書き入れるためです。

 書き手は手元にある「伏線管理メモ」をチェックするだけで、どの「伏線」を回収したか、し忘れたかをひと目で把握できます。

 どんなにすぐれた書き手でも「伏線」をすべて把握するのは無理があるのです。

 それが「伏線管理メモ」ひとつで解決するのですから、用意しない手はありません。

 とくに複数の作品を同時並行で書き進めている場合は、必ず「伏線」が混乱しますから、「伏線管理メモ」をつけるようにしましょう。





最後に

 今回は「そっちだったのか!な伏線」について述べました。

「伏線」がなにかわからない方はゲームの「フラグ」と呼べばわかりますかね。

「伏線を張る」は「フラグを立てる」と同義です。

「フラグ・クラッシャー」も「伏線を折る」と同義。

 先々の展開を前触れするのが「伏線」の役割です。

 しかしすべての「伏線」を憶えるのはプロの書き手でもできやしません。

 だから「伏線管理メモ」がプロの命綱となります。

 アマチュアのうちから「伏線管理メモ」に慣れておけば、プロになってから苦労しなくなりますよ。



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